交錯する思い
一瞬で音もなく真っ白に世界の色が塗り替えられた。
その後に、巨人が消失したことを知りミリーはつぶやく。
「ありがとう、みんな」
師匠の元へと急ぐミリー。
その行方には、未だ数千の土塊兵が立ちふさがる。
「出来るかな。。。」
ミリーは、ある魔術の詠唱を躊躇っていた。
その魔法は失敗すれば、術者の存在そのものを消し去ると言われていたからだ。
「それでも、これしかないなら。。。」
少女は詠唱の後、力ある言葉をつぶやく。
「無貌の一息」
すると、ミリーの体が小さな分身体に分散された。
分身がさらに分身を生み、微粒子サイズへと細かく分かれると、一陣の風となって吹いた。
如何な鉄壁の布陣をもってしても、風を止めることはできない。
土塊兵は、敵が通り過ぎたことに気付かず立ったままだ。
自らを粒子レベルまで拡散させ、風と一体となるこの魔法は理論として確立されていたが、余りにも危険なため使うものがいなかった。
魔力制御は精緻を極め、拡散する体は魔術を行使し続けるには曖昧で不確実過ぎた。
一度分散した体を元に戻すまで、意識を保てる保証がなかった。
少女の強い思いが奇跡を起こす。
風に乗り、師の前に来ることができたミリーは、元の体に戻り師匠の前に降り立つ。
ナージャがそれを見て称賛した。
「見事じゃ、ミリーよ」
この時点で、風の魔術に関しては師匠を越えたと言える。
「師匠!もう一度話を聞いてください!」
「言ったはずじゃ。言葉は無用と」
少女の訴えをナージャは再び退ける。
会話が終わると同時に土の杭を生み、カタパルトのようにして自らを上空へ跳ね上げた。
「もう、遅いのじゃ!大地の剣!」
足場にした土の杭から二振りの剣を生み出し手にすると、ミリーに斬りかかった。
「わからずや!」
瞬時に張った風の結界と剣が火花を散らす。
ミリーが張った風の結界には特殊な効果が加わっていた。
砂塵や鉄粉を混ぜ、高速で回転する疾風加速陣を応用し、それを全面に展開した。
それにより、重量武器すらも弾く風の盾とした。
ナージャはすぐに獲物を手放し、距離をとった。
地上に降りると魔法を発動する。
「大地の壁」
巨大な壁がミリーとナージャの間を隔てる。
「こんなもの!」
ががががぎゃぎゃ
ミリーが風の結界で体当たりをすると、土の壁は脆く穴をあける。
しかし、穴を穿つまでのわずかな時間にナージャは詠唱を終えていた。
「無限・飛翔尖」
無数の土の槍が少女に襲い掛かる。
「きゃぁあああ!!!」
結界が威力の数割を削っているとは言え、その攻撃の全てを避けることはできない。
ナージャはミリーが壁を通過することを計算に入れ、その進路に攻撃を集中させていた。
結界が破られ、傷だらけになりながらも、ミリーは再び魔術を発動した。
「無貌の一息」
「なっ!?」
ナージャは、まさかこの場面で使うとは思っていなかったのだろう、驚きと怒りのこもった叫びを上げる。
「何をやっとる!消えてしまうぞ!」
ミリーはナージャの背後に実体化した。
ミリーがナージャの体に組み付く。
地面に倒れこみ、暴れるナージャの体を押さえつける。
「どうして私の言うこと聞いてくれないんですか!いつも!」
大粒の涙を流すミリー。
ナージャがその顔を見てハッとする。
「うぁあああああああああ!!!」
力を抜いてされるままにすると、少女が胸に顔を埋めて泣き出した。
ナージャがそっと少女の頭を撫で、つぶやく。
「儂の負けじゃ。泣く子には敵わんよ。。。」
土の精霊の力が解け、元の姿に戻る。
泣き続ける少女を胸に抱き、少女との穏やかな日々の記憶を思い出していた。




