後追い人
「ミリー、お前。。。」
距離を取るため離れたナージャが、宙に浮いてこちらを見下ろすミリーの姿に驚く。
精霊融合は魔術師の到達点といわれる魔術で、これまで数人が習得しており、そのいずれもが大魔術師と呼ばれる者たちだった。
ナージャは弟子の成長に震え、驚きが歓喜に変わる。
ミリーには魔術の才能は無く、アリーシャのような天才性もこれまでの弟子たちのような才能も見出せなかった。
しかし彼女は努力の天才だった。
師から教わった基本を、他の者がある程度で達成したと見なす所を、さらに突き詰め、より深く知るために修練を重ねていた。
魔法を理解する喜びを知り、誰よりも楽しんでいた。
そんな姿を見ても、彼女の成長はそこまでだろうとナージャは考えていた。
だが実際には違った。
翠風の杖を得てからのミリーは、余程相性が良いのか風の魔術だけは著しい成長を遂げた。
ナージャは知る由もないが、精霊の祠で受けた洗礼がそれを可能にしていた。
風の精霊に愛された娘は、過去に例の無い程の風魔術の使い手に成長していた。
そして、若干16歳で大魔術:風精霊の開花を成功させたのだった。
ナージャは歓喜に震える声を押さえて戦いを宣言する。
「はっははは!よくぞ、そこまで。。。それが本物かどうか見届けてやる。さぁ!掛かってきなっ!バカ弟子!」
ミリーはその別称を聞いて、胸の奥から嬉しさがこみ上げてきた。
その言葉は、偏屈な師が弟子に送る最大の賛辞であることを知っていたから。
「はい!行きます!」
師は全てを終わらせるため、弟子はそれを止めるための戦いが始まる。
。。。
戦場から離れた小高い丘に、クラークの命で監視を続けるジンライがいた。
約束通り協力を続けるジンライが、複雑な表情で戦いを見守っている。
他のメンバーは、戦場を取り囲むように召喚魔法を妨害するため魔法陣を維持している。
それに加え、彼らに課せられたのは、王の力が魔力を消失させる瞬間の情報を持ち帰るというものだった。
ナージャがこの戦いに臨むもう一つの理由がそれだ。
「これまでの戦闘情報で、どこまで役に立てるか。。。師匠は何を考えてあんな小娘に付き合うのか。。。」
師の考えが読めずジンライは焦っていた。
クラークから念話が届く。
『そちらの状況は遠視で把握しています。後の好きにさせなさい。あの方はそこを死地と決めたのです。彼女の献身に報いるためにも、我々は手を出さず、最後まで見守りましょう』
「。。。了解」
目の前で始まった壮絶な戦いを目にし、師の思いを受け止めるのが自分ではないことに、今更ながら悔しさを感じていたことに気付く。
「頼んだぞ、最後の徒弟よ」
ジンライは、顔を合わせたこともない妹弟子に思いを託した。
。。。
ナージャに土石流で流され、戦場から遠くにいたカイルとリタは土に埋もれることなく、なんとか這い出ていた。
これも、ナージャが手心を加えた結果であることは二人も気付いている。
「格好つけて出てきたけど、役不足かぁ。。。その通りだな」
「しかし、とんでもないね。。。これが魔術師同士の本気の戦いか。。。」
目の前で繰り広げられる、災害級の戦いに唖然とする二人。
腕に覚えがあろうとも、一人の人間が太刀打ち出来る規模を越えている。
この世界で魔術師が最強と言われるのは、これを目にした人間がいるからだろう。
相手が目の前にいて1対1なら剣士や闘士にも勝ち目はあるかもしれないが、そんな幸運を当てにしなければならない時点で負けを認めているようなものだ。
魔術師はたとえ山向こうにいても、その山ごと破壊する。
そんな逸話を信じてはなかったが、ここで起こっていることは正にそれを見せつけられているようだ。
「とにかく、アイン達と合流しよう」
「あたしの螺旋の尖針ぅぅうう」
カイルは剣を手放さずに済んだが、リタは予備の短刀しか持っていない。
「後で、呼び戻せばいいだろ。とにかく急ぐぞ」
「うん」
涙目でうなずくリタを急かしてアイン達の元に駆け出した。
。。。
俺は最初の戦闘が始まるときから、ナージャの雰囲気に違和感を覚えていた。
まるで殺気を感じられない。
それどころか、戦闘の手ほどきでも行うかのようにカイル達をあしらっていた。
(婆さん、他に目的があったんじゃないか?)
あの抜け目のない婆さんが、初めから坊主との戦いを求めた。
それまでの話が本当なら、口八丁手八丁で何とでも出来たはずだ。
おそらく、この戦いそのものが魔術師共の計画に必要なことなのだと想像はできる。
しかし、婆さんはこの戦いの先に何を見ているんだ。。。
俺は師と弟子の戦いが終焉に近づくまで、彼女の真意を計りかねていた。
ーーこの世界を救ってーー
あの時の言葉を思い出す。
彼女も自分の世界を救いたいと思っているのだろうか?
俺たちは、この戦いの結果が世界に、そしてアインに何をもたらすのか、見守る事しかできなかった。




