ゲオナの力
「やれやれ、ついてきて正解だった様だな」
草陰からカイルが姿を見せた。
「こうなって欲しくはなかったんだけどね。。。」
リタも一緒だ。
「おばあちゃん、どうして。。。」
アイシャまでいる。
「みんな、何で。。。?」
今回は二人だけで来ることに同意していたはずだ。
「エラランがどうしても付いて行けって言ってな。軍隊を差し向けるには場所が人類圏のど真ん中じゃ出せる人員も限られるって言うんで俺たちが頼まれたんだ。杞憂で終わればよかったんだが。。。」
カイルが苦渋に満ちた声を出す。
「ふん、お主らがいることは知っておった。だがな、役不足じゃよ」
ナージャが鼻を鳴らして嘲る様に言った。
先手必勝とリタが3本の螺旋の尖針を投げる。
「!」
3本の針は魔法を発動する前に土で固められた。
ナージャが教師のような口調で話す。
「リタよ。お主の螺旋の尖針は魔法との相乗効果で強い力を発揮できるが、螺旋が開くまでの一瞬に隙ができる。3本同時に投げるとこうなる。相手の強さに焦らず時間差で投げることを忘れるのではない。。。それとな」
一瞬の後、ナージャの姿がリタの前に現れる。
「なっ!」
鳩尾に拳を撃ち込まれ、身体がくの字に折れる。
そのまま、胃の中のものを吐き出し崩れ落ちるリタ。
「中衛であっても接近戦の備えはしておけ。半端な距離では、わしレベルが相手なら距離の優位は無いと思え」
カイルは、後ろに守っていたはずのリタに襲いかかるナージャの姿を、捉えることが出来なかった。
「くそっ!」
慌てて切り掛かるも、すでにナージャの姿はそこになく、元の位置に戻っていた。
ミリーは冷静に今の現象を思い出す。
「今のは。。。縮地?」
武術家には特殊な歩法で瞬時に相手の懐に入る技法があるが、ナージャの行ったそれは似て非なるものだ。
土の精霊と化した今、地面の上であればどこにいても彼女の攻撃範囲になる。
「カイルよ、お主の剣は達人と呼ばれてもおかしくはないほど洗練されておる」
「お褒めに預かり光栄だよ」
言葉と同時に切り掛かる。
「しかしな、それでは足りん」
ギギャァン!
カイルの斬撃を躱さずにナージャが弾く。
「技に頼りすぎじゃ。必殺の気合いが無くば残影の効果は半減ぞ。ただの空打ちではこのように打ち負けよう」
ナージャの弾きで体勢を崩した所に膝蹴りを食らい吹っ飛ぶ。
倒れ込み悶絶するカイル。
「そこで見ておれ」
ナージャが手を振ると、大地が波打ち、カイルとリタが飲み込まれる。
遠くまで押し流される二人。
アイシャは、ヴァルカに掴まって空中に逃れたため巻き込まれずに済んだ。
「あんた、同じ精霊なんだからどうにかしなさいよ」
ヴァルカに耳打ちする。
「無茶言わないでくださいよ!あたしの力はご主人の能力に制限されてるんです。あっちは無制限に力を使えるみたいじゃないですか?勝負になりませんって!」
ヴァルカの泣き言に顔を顰めて降り立つ。
「しょうがないわねぇ。来なさい!エクサ!」
エクサと名付けた鎧を呼び出そうとしたが。。。
「あれ?」
魔法陣が反応しない。
「あんな物を使われては厄介なのでな。小細工をさせてもらった」
ナージャが周りをちらっと見る。
彼女は四方の山中に召喚魔法を阻害する魔法陣を設置していた。
「見ているだけなら好きにしておれ。手を出すなら容赦せん」
ナージャの一言にゾッとして立ちすくむアイシャとヴァルカ。
「さて、少年王。準備はできたか?」
アインがここまでに翠脚鞭の準備をしていたことは、彼女はとうに把握していた。
手の内を知りながらも絶対の自信がナージャにはあった。
「ミリ姉ぇ、離れて! 行きます!」
ミリーが離れて風の結界で身を守る。
技の見分をしてもらうような礼をして、アインが走り出す。
すでに十分な力を魔力シリンダーに溜め蹴りの体勢に入る。
「翠脚鞭:竜巻刃!」
一点集中で敵を貫く通常の翠脚鞭とは違い、衝撃波を纏った蹴りが体を中心に回り始める。
全方位に敵を捉えるとともに、波動の余波により周囲に見えないリング状の圧力を生む。
先ほどナージャが見せた縮地に対抗する懐に入らせない全方位攻撃。
うかつに近づく者は、舞い上がった礫と衝撃波にその身を引き裂かれる。
「考えたな」
ナージャが素直に賞賛を送る。
だが、この技はここで終わりではない。
中心から外に流れた空気は、周囲との密度差を生み今度は内側に引き込まれる。
「ぐっ!」
立つことも困難なほどの吸い込みにナージャが顔を顰める。
体ごと吸い込まれた先には音速を超える蹴りの刃が待つ。
「巨岩変化」
ナージャは自らを大地に縫い止める魔法を発動した。
大岩の重さとなった身体は、吸い込まれることなく堂々と立っている。
徐々に暴風は止み膝をつくアインの姿が現れた。
「ゼェゼェ」
息も絶え絶えの少年に、また教師の様な口調で指摘する。
「発想はいいが、持続時間が難点じゃな。多人数相手ならいざ知らず、あと先考えずに使う技ではないぞ」
彼女は、この技の弱点が無酸素運動による継続時間だということをすぐに見抜き、対策をとった。
「小僧、これで終わりではあるまい。お主の本気を見せよ」
冷たい口調で少年に言い放つ。
「くっ。剣よあれ!」
右手に黄金の剣が現れる。
ナージャの目がカッと見開く。
「そうじゃ、それじゃ。わしに打ち込んで見せろ!」
伝説の魔法剣を待ち望んだかのようなセリフにアインは躊躇する。
だが、逡巡する間を与えずナージャが目の前に現れる。
「大地拳」
拳に土を纏い、大地の重みを拳に乗せて乱打を繰り返す。
アインが見えない剣先で強撃に耐える。
拳が弾かれるたびに空間に歪みが生じ、拳に乗せた土が剥がれ消えてゆく。
魔力と理力のぶつかり合い。
この世界の常識とされる何かを壊していった。
「そうじゃ、これが見たかった!素晴らしいぞ小僧!」
ナージャが叫ぶ。
「大地の怒り!」
これが最後とばかりに、身体を特大の岩と化し体当たりを行う。
このままぶつかれば、剣の力でナージャが消失する。
ここで剣を収めれば、勢いのまま押しつぶされる。
アインが引けない状況で、少女が動いた。
「やめて!!!!」
ミリーが、アインとナージャの間にその身を割り入れ衝突を止めようとする。
ナージャの突進は少女の体に届く寸前で止められた。




