老魔術師失踪
ミリーの寝息を聞きながら、川面を眺めていたナージャがその気配に気付く。
「お主か。。。」
いつの間にか背後に男の姿が在った。
「。。。」
「寝た子を起こすのは忍びない。場所を変えよう」
ナージャは寄りかかっていた少女を、そっと横たえてから歩き出した。
その男が恭しく付き従う。
大きな岩の影に結界を張り、人払いを行うと、疾爪の魔法剣士アルフレッドが老婆の前に膝をつく。
「三賢者が動き出しました」
「ついにか。。。」
「はい、計画は最終段階に移ります。お戻りいただきたくお迎えにあがりました。後」
男は五賢人の役職で老婆を呼ぶ。
「。。。承知した」
目を閉じ、少しの間逡巡した後にナージャは立ち上がった。
「体を厭えよ。馬鹿な師のことなど忘れてお前の道を行くのじゃぞ」
まだ眠る少女を遠くに望むと、小さな声でつぶやいた後に男の後を歩いて行く。
ミリーが目を覚ますと師の姿はそこに無かった。
「お師匠様?」
寝ぼけた目をこすり、ナージャを探す。
傍らには師が愛用していた煙管が置かれていた。
その後、老魔術師の姿を見るものは誰もいなかった。
数日後、アインが目を覚ます。
そこに、老婆の姿はなく、所在を聞くも誰も行方が分からないと言う。
「先生。。。何処に行ったの。。。」
親代わりに面倒を見てくれた人の失踪に、少年は動揺した。
「大丈夫よ。あの師匠のことだから、何か考えがあって別行動を取ることにしたのだと思う。きっと戻ってくるわよ」
そう言い気丈にふるまうミリーの手には、師匠の煙管が握られていた。
。。。
ナージャの失踪から数か月、教団の残党による反乱は散発的なものになり、組織立った動きは無くなった。その中で、教団に協力していた商人が明らかになり、人身売買や、禁制品の密輸などが露見した。
王国内における徹底的な捜査により、被害者の保護と無法な商人の摘発が行われた。
未だ、世界を救う方法は見つからず、約束の時は刻々と近付いている。
事実を知る者は、水牢に潮が満ちてくるような圧迫と閉塞感から来る焦りを感じていた。
ミリーは時々空を眺めてボーっとすることが多くなった。
アインが隣に座り声をかける。
「空の色はあの時から変わったままだね。。。」
そうねと生返事を返す少女をいたわる少年。
「ミリ姉ぇ。寂しい?」
ナージャの失踪に一番堪えているのは、この少女だろう。
普段は明るく振舞っているが、時々ふと哀しい表情をしていることに少年は気付いていた。
「寂しくないって言ったら嘘になるけど。きっと、あなたのことを託されたんだって思う。。。だから頑張らないとね。師匠は必ず答えを見つけて帰ってくるよ」
そしてもう大丈夫だよと、少女は立ち上がった。
数日後、ナージャから書簡が届く。
署名には後とあり、魔術師評議会の代表として。。。




