白い塔
アイシャが戦いの最中、残り数匹の炎竜が消失したことで、アインが説得に成功したのだと知る。
「あいつはどこ?!」
すぐに少年の姿を探すが見つからない。
『北東、下方向に反応があります。拡大します』
エクサが視界にアインの姿を映す。
気を失って落下する少年を見て慌てて命令する。
「急いで!」
急降下して少年の体の下へ滑り込んで、ふわりと抱え込む。
衝撃を与えぬよう注意しながら、腕の中で気を失っている少年に声をかける。
「アイン!大丈夫なの?!」
気を失ったまま反応のない少年の代わりに、その相棒に話しかけた。
「白いの!どうしたのよ?返事しなさい!」
二人から返事がないことに焦りと不安がつのる。
「すぐに、戻らなきゃ」
アイシャは、少年の体に負担がかからないよう抱きかかえ、一直線に仲間の元へ飛翔した。
。。。
魔術師評議会では、突然現れた星炎竜と、それが急に消失したことに学舎中が混乱し大騒ぎになっていた。
「被害状況の把握と必要な物資の算定を急げ!周辺にいる商人をかき集めて救援物資を確保させろ!足元を見られないように特殊災害支援であることを言明すること!」
評議会の激甚災害対策班が各部署に指示を出す。
この世界では、まとまった組織行動がとれるのは評議会のみで、通常は街や村が独自の判断で動く。
これまでも、小規模災害であれば、その地域だけで乗り切ってきたが、今回はいくつもの村や町に被害が及ぶ。
横の繋がりがない自治組織が協力関係を結ぶためには、評議会の存在が欠かせなかった。
共有思念体に上がってくる、さまざまな情報を見ながら、五賢人はこれから何が起こるかを話し合っていた。
「当面の危機は回避されたようですな。あなた方の予想とは違っていたようですが」
ジンライは皮肉を込めて、その場にいる首謀者の顔色をうかがう。
「なに、多少やりすぎた面もありますが、概ね計画通りです。今回の件で確認も取れましたし」
クラークの冷静さを取り戻したかのような物言いに苛立ちを覚える。
(何が多少だ。あと少しで人類が滅ぶところだったじゃねぇか。。。)
「王の力の覚醒を見ることができたのは僥倖だったな。これで次の段階へ移れる」
「左様、この際イレギュラーは許容出来よう」
「我らも動く時が来たな」
楽し気に話す三賢者の表情に、無邪気な好奇心が見える。
ジンライはハッと気が付き戦慄する。
この連中は人類の存亡に興味が無いんじゃないかと。
まるで、実験室の中で動物実験でもしているような物言いに、言いようの無い不気味さを感じた。
クラークがジンライの正面を向く。
「さて、ここまで聞いたからには貴方にも協力してもらいますよ。ジンライ殿」
「。。。協力するつもりはない。。。が」
ジンライは言葉を区切り話をつづけた。
「邪魔をするつもりもない。これまで通り、監視任務は続けよう。あんたたちの思惑がどうなるか見届けてやる」
「。。。そうですか。では、それで結構です。ここで聞いたことは他言なさらぬよう」
そう言ったクラークの目には、そうすることの未来を容易に想像させる迫力があった。
「ああ、分かったよ。俺も最後まで見届けたいからな。ただし、部下には手を出すな」
「約束しましょう。お三方もそれでよろしいか?」
今度は三賢者に向かい確認する。
「よい。今後は会うこともないだろう。好きにすればよかろう」
ホークウッドは興味をなくしたように言う。
そして、三賢者は今後の計画について、3人でぼそぼそと会話をつづけた。
「失礼する」
そう言い残しジンライはその場を去った。
。。。
学舎の奥。人の寄り付かない湖の中州に白い塔が立つ。
そこは、金色の髪を持って受容体として生まれた子供たちを保護する名目で建てられた。
だが、その子供たちは処分され、そこには子を失った母親達が幽閉されていた。
奪われた者、自ら差し出した者。
経緯は様々だが、このことを秘匿するため一生そこから出ることはできない。
薬と享楽に溺れ身を壊すもの。
子を思い自ら命を絶つもの。
選択に後悔し気が狂うもの。
白の塔は、そんな女たちの悲哀の象徴としてそこに在った。
入口も出口も無い塔の地下。
その一室に魔法陣が描かれている。
それが輝きだすと、人の影が現れた。
光が収まるとサーニャの姿がそこに在った。
いつもの部隊服を脱ぎ白い装束に着替える。
外で控えていた女二人が恭しく出迎える。
「サーシャ様。御首尾はいかがでしたか」
一人が問う。
「その事について、至急園長に取り次いで頂戴」
「かしこまりました」
女は足早に去っていく。
残った一人に連れられて、清めの儀式を行う。
ここに戻るのは数年ぶりか。
長い間、辺境、魔族領と任務が続いたため足が遠のいた。
清めを行い終え、園長の元に向かう。
「お久しぶりね。サーシャ」
「園長先生もお元気そうで」
慈愛を含んだ柔らかな微笑を向ける、ふくよかな壮年の女性。
この組織、「慈母の学園」の代表者だ。
捨てられた女達が結束し、ある目的のために組織を作る。
始まりは、一人の狂った女の一言だった。
「世界のために私は子供を差し出した。なのに世界は何事もなかったかのように続いてゆく。悔しい恨めしい。私の子供は帰らない。この世界のどこにもいない。こんな世界が続くことが許せない。私にこの世界は不要だ」
『いらないものなら、無くなってしまえばいい』
その言葉は、狂気の呪いとして女たちの心の奥底に澱のように堆積していった。
園長がサーシャと呼ばれる女から報告を受ける。
「そう、今一歩だったのね。でも、願いは断たれていないと。貴方の姉のおかげね」
だれも、この聖母のように穏やかに笑う女が、この世界全ての滅亡を願っているとは思わないだろう。
「貴方にも感謝してる。そしてあのお方にも。彼女はお元気?」
「はい、最後にお見掛けした時の技の切れは、伝え聞くものと変わらず。ですが、呪痕による影響によりもう長くはないかと」
「そう、でももう少し我慢してもらいましょう。それが彼女の償いでもあるのですから」
そう言って、窓の外を眺める園長の表情は変わらず優しく、その目は何も見ていないように虚ろだった。




