終焉の韻律
主教だった男の身体が崩れ落ち、粉々になる場面を見る一対の目があった。
その男に付き従って報告を行っていた女だ。
「これで、ここの役目も終わりね」
そう言ってフードを下すと、ファサッと纏めていた長い髪がこぼれ落ちる。
「予定より早かったけど、これでもう一段階進んだことになるのかしらね。。。さようなら、主教様」
関心を無くした目で別れを告げた女の顔は、黒梟:疾爪のサーニャと瓜二つだった。
。。。
ジンライは証言台に立ち、三賢者と対峙していた。
詰問の間と呼ばれるその部屋は薄暗く、証言するものに威圧を与えるように計算された特別なつくりをしている。
「よくも、ぬけぬけと我らの前に顔を出せたなジンライよ」
壇上から見下ろしながら、三賢者の一人、頭のホークウッドが口を開く。
「三賢者の皆様も御壮健で何よりです」
悪びれる様子もなく、しれっとした態度のジンライ。
「ふん、して。我らに何用じゃ」
「ダネフの遺物。。。知ってましたな」
「それを聞いてどうする?」
右のルイドルドが問う。
「あなた方の思惑を知っておきたいと思いましてね。我々を使った目的は何ですか?」
「図に乗るでないぞ、ジンライ。後の座に就かなかった貴様は現場の指揮官にすぎん。我らがそのような求めに応じると思うてか」
左のヤファイエが叱責する。
ジンライは肩を竦めた。
「師の末路を見てしまってはね。。。それでは質問を変えましょう。どうしてあの少年なんですか?」
「何が言いたい?」
ホークウッドが眉をひそめる。
「言い換えましょうか。数多の金髪の子供達を、保護を名目に処分してきた評議会が、あの少年を保護し成長を促す理由ですよ。転生者の受容体であれば、これまでも候補はいたはずです」
ジンライの疑問はそこだ、あの少年だけの特別な理由。そこに評議会の思惑が絡んでいるのは確かだ。
「それを知れば後には引けなくなりますぞ。ジンライ殿」
別の男の声が部屋に響いた。
「前か。。。」
扉を開けて入ってきたのは五賢人の一人、クラークだった。
「あなたは深入りする事を惧れて、五賢人に入らなかった。ここでそれを聞くということは同等の責任を負うことになる。それでも聞かれるか?」
ジンライはしばし熟考する。
「。。。聞こう。聞かずとも巻き込まれるのなら、知っておいた方がましだ。。。兄弟子殿」
「良い判断だ。。。」
クラークはここまでに至る計画をジンライに明かした。
話を聞き終えたジンライは、計画の立案と実行を行ってきた面々の正気を疑った。
「。。。まて、本気でそんなことを行うのか?正気とは思えん。一歩でも失敗すれば再び聖竜による粛清が始まるぞ。この計画を考えたやつはいかれてる。。。」
笑いを含みホークウッドがつぶやく。
「あやつに聞かせて見たかったものじゃな。兄弟子の驚く姿を見て何というか」
「?」
「おぬしは直接会っておらんから知らんじゃろう。この計画を立案したのはアリーシャという魔女じゃ。おぬしの師匠ナージャの弟子で、あの少年の母親じゃよ」
。。。
王城のはるか上空に、天空城という城が浮いている。
かつて存在した文明の名残か、魔法の暴走か、どのような仕組みで浮いているのか誰も知らない。
そこには、四大聖竜の一柱である天空竜が眠っているという。
かつての王が、それと邂逅したといわれるが真偽は定かではない。
そこには、巨大な白い竜が鎮座していた。
城の奥に眠るその竜は、何かを感じ取ったのか首をもたげた。
鳥のようなくちばしと、羽をたたえた翼をもつ美しい白い竜。
その目の色が変わる。
ラァァァァアアアアーーーーーーーーーラァァァァアアアアーーーーーーーーー
竜の咆哮とは思えない美しい旋律が響く。
同時に天空竜は翼をはためかせる。
その竜が発した音は、翼の起こした風に乗って世界に響き渡った。
そして、空の色が青から紫に変わる。
世界はこの時、終焉の始まりを迎えることになる。




