少女の願い
俺の言葉にアインは驚き、信じられないという目をした。
「白さん。。。何で。。。」
「おまえが、望んだ答えがこれか?」
仲間達もそんな事が起こるとは思っていなかったのだろう、驚いたようだ。
「お前、何言ってんだよ。アインの覚悟を無駄にするつもりか?」
カイルが怒りを抑えて俺に言う。
「覚悟?何の覚悟だよ。あの子を犠牲にする覚悟か?」
坊主がびくっとする。
「くっ。。。」
皆が言葉もなく押し黙る。
「でも、こうしないと皆が。。。」
坊主が絞り出すように言う。
「誰かのために、誰かを犠牲にする。お前の目指した王はそうじゃないはずだ」
「。。。」
「あいつだって、できれば犠牲なんて出したくなかったはずだ。水辺の民が滅んだのだって、あいつが命令したわけじゃない。そこには彼らの意思があったはずだよ」
呉井はこの世界のすべてを救う事を目指していた。
「でも。。。じゃあどうすればいいんだよ!」
「俺にもわかんねーよ!だから、考えるんだ!最善ってのは考えた先にあるもんだろ。あきらめた先には後悔しか残らないぞ!」
アインが感情的になり、俺も言い返してしまう。
「。。。」
「。。。」
俺たち二人が押し黙っていると、リタが何かに気付いた。
「。。。ねえ、あのデカ物小さくなってない?」
見ると、崖上まであった身長が、今はその半分まで縮まっていた。
暴風は今も吹き荒れて、眷属を巻き込んで殺戮に及んでいる。
ナージャが声を上げる。
「そうか!もしかすると。。。あの体は、周りの眷属から力の供給を受けてもいるのかもしれん。体を維持するために混成人の力が必要なんじゃ。ならば、精霊の力を引き剥がすことができれば。。。」
ミリーが言葉をつなげる。
「あの巨体を維持できなくなるってことですね!」
「?!」
「なら、まだやれることはあるな」
俺と坊主は同時に気付く。
黄金律の力が、魔物化を抑えることが出来ることを思い出した。
精霊に直接干渉することはできなくとも、この剣なら精霊を引き剝がすことができるかもしれない。
「白さん。ごめん」
「。。。」
アインは一人、内なる心に向き合い独白を始めた。
「僕は選択したつもりで諦めていたのかもしれない。皆を救うことを言い訳にして、考えることを放棄してた。辛い現実を前に終わりにしたいと。。。それで楽になろうとした。王が最初に諦めてしまってはだめだよね」
少年は最後に自嘲するように笑った。
「救える可能性が少しでもあるなら、それを行おう」
「王命!この地の同胞を解放せよ!」
「了承 分断せよ!裁定者の黄金律!」
黄金の剣が塵となって上空へ登っていく。
国王軍の殿を務めていたアイシャが異変に気付く。
「雪?」
空から雪のように金色の光の粒が降ってきた。
チラチラ、ゆらゆらと降るその光に触れた混成人が動きを止める。
すると、混成人の体に変化が起こった。
植え付けられた花の苗が徐々に枯れていく。
変異した体が元の姿に戻る。
黄金色の雪が降り積もる。
それは、零落の花姫にも変化をもたらした。
花は萎れ、蔓は動くのをやめ、茎が徐々に枯れていく。
その巨体を維持する事ができなくなったのか、上半身からばさばさと枯れた茎が剥がれ落ちてくる。
ゆっくりとその形を崩していき、最後に大きな蔓の瘤が残った。
それも、枯れて中にいる少女が露わになる。
いつの間にか吹き荒れていた暴風は止んでいた。
。。。
。。。ジル。。。ジル、起きて!。。。
誰かの声が聞こえる。
懐かしい。ああ、この声は知ってる。
あ、いん
アインだ。あの子の声だ。
「ジル!」
今度は声がはっきり聞こえた。
目を開けようとする。
瞼が重い。
光を感じる。
そっと開くと、懐かしい顔と金色の髪が見えた。
「。。。あ、い。。。ん」
「ジル!目を覚まして!」
「ああ、アインだ。。。来てくれたのね」
少女は願いが届いたことが嬉しくて涙を流す。
「ごめんね、遅くなって。。。」
少年も涙を流している。
「あたしね、きっと来てくれるって信じてた。立派な王様になった貴方が助けてくれるって。。。本当に願いが叶ったのね。。。」
「うん、僕はここにいるよ。だから元気を出して。。。」
少年は、四肢を失った少女を抱きかかえ、涙を流しながら励ました。
「うん、ありがとう。アイン。。。」
そう言う少女の目が閉じる。
穏やかに優しい顔で。
「うそだ、だめだよ。目を開けてジル!こんなの。。。」
そして、少女の体は光の粒になって消え、その光は、薄暗い谷間から覗く小さな空へと消えていった。
「。。。ジルぅ。。うううううぅぅぅ。。うわぁああああああ!」
少年の泣き声が峡谷に響き渡り、その場にいた全ての人々が黙礼を捧げた。
俺は、その時はっきり見ていた。
空に昇る少女の姿と、それを迎える少年の姿を。
あの姉弟は、風になって、その谷を見守っていくのだろう。
苦しみから解放された自由な姿で、いつまでも、いつまでも。。。




