選択
ごぉぉおおおおおお
風の唸る音がうるさい。
アインは突風により100mの上空に放り出された。
すぐに地面が目の前まで近づく。
「翠脚鞭:乱波!」
咄嗟に技を繰り出し落下の衝撃を相殺する。
どぉおおおおん
落下の衝撃は抑えたものの相殺しきれなかった。
砂埃が上がり少年の体が地面に叩きつけられる。
どっつっどっ。。。ずしゃぁあああ
数回バウンドして、ごろごろと転がってやっと停止した。
「うっぐぁ」
(大丈夫か?!坊主)
翠脚鞭:乱波は翠脚鞭の失敗から生まれた技だ。
タイミングをずらすことで、面の衝撃波を放つが反動が大きく体への負担が大きい。
アインはその反動を落下ダメージを回避するため、逆噴射装置 として利用した。
思惑はうまくいったが技によるキックバックが相当ひどい。
体中がきしみ、痛みで意識を失いそうだ。
俺は坊主の体を修復し痛みを抑えるために集中する。
「アイン!」
ミリーの声が聞こえる。
仲間たちが駆け寄る。
「早く治癒を!」
ミリーが宝珠を取り出し、治癒魔術を行った。
彼女はこの数年で治癒魔術をさらに進化させていた。
「全快癒!」
「んぐぁああ」
急速な傷の修復による回復痛によりアインが呻きだす。
緊急時に使われるこの魔法を、アインはあまり好きではなかった。
魔法の効果はすぐに表れ、落下による傷跡は瞬く間に消えていった。
「ミリ姉ぇ。痛い」
「無茶するからよ。ばかぁ」
ミリーが涙目で義弟を小突く。
アインは身を起こして周りの様子を見る。
風が吹き荒れ混成人達が突風に吹き飛ばされている。
アインは仲間たちと共に風の結界の中にいた。
「どうなってるのこれ?」
「さっき、お前が落ちてきた時から急に風が暴れだしたんじゃよ」
ナージャが状況を教えてくれた。
暴風が敵味方見境なくその場にいるものを襲い始めた。
体を斬り裂かれるもの。
吹き飛ばされて岩や崖に叩きつけられるもの。
強大な風の力の前に、戦争をするどころではなくなっていた。
「ロッシだ。。。」
このままでは、彼の怒りはこの谷ごと人々を消してしまう。
「止めなきゃ。このままだとアイシャたちも巻き込まれる」
王国軍は早々に撤退を始めたが、風の範囲は急速に拡大している。
今にも殿に迫ろうとしていた。
「。。。本体の位置は分かってる。僕の剣ならここからでも貫けると思う」
アインが辛そうに目を閉じる。
(。。。)
。。。
アインと一緒に外へはじき出された主教は河原まで飛ばされていた。
その特異な体質により軟体化したおかげで落下ダメージは殆どなかったが、風に飛ばされて前線から遠く離れた河原に来ていた。
「くそ、あの娘にあんな力があったとは」
ジルが風を起こしたと勘違いした男が唇をかむ。
早く、戻らねばと焦る男。
「先生の願いを叶えるのは僕だ。もう少しで僕が救世主に。。。」
ドクン
男は言葉を続けられずに、その場に膝まづいた。
「むね。。がぁ」
体の内側から熱が上がってくる。
((((貴方に、そこまで求めていないわ)))
幻聴が聞こえる。
「せ、先生。。。」
男は胸を押さえ、膝まづいた格好で頭を上げた。
それは幻影なのだろうか、昔の姿のままのアリーシャの姿が男の目に映っていた。
そして男の体が黄色い炎に包まれ、体が崩壊する。
後には透明な丸い宝玉だけが残っていた。
(((かわいそうな子。貴方の役目は終わったわ。さよなら、クロア)))
ピシッ
幻影がそうつぶやくと、その姿は溶けるように消えて、宝玉が砕けた。
。。。
「僕が、やらなきゃいけないんだ。。。。」
「アイン。。。」
少年の悲痛な表情を見ても、仲間たちは誰も止めることが出来なかった。
「剣よ在れ」
右手に黄金の剣が現れた。
少女のいる場所に切っ先を向けて、少年が声を出す。
「王命。。。彼の者を貫け!」
「。。。否、それは承認できない」
俺はアインのオーダーを拒否した。




