王への恨み
「おまえぇえええ!」
目の前に現れた男を目にし、アインは我を忘れて斬りかかった。
男はそれを避けようともせずに、にやにやと笑っている。
ざっ!
魔法剣特有の見えない刃に、男の体が両断され崩れ落ちる。
俺は、手応えのなさに違和感を感じつつ、坊主の様子が気になった
「はぁ、はぁ」
初めて怒りに任せて人を斬った少年の手は震えていた。
「それで、終わりかね?」
倒れていた男の体が形を崩し、不定形のスライムの様な形状に変化する。
「なに!」
徐々に人の形に戻り始める男を驚きの目で見つめる。
「私の体が奇異に見えるかね?これも王の罪の一つだと言うのに」
元の姿に戻った男の目が怒りに染まる。
「はぁ、はぁ。お前がジルを。。。お前のせいでぇえええ!!!!」
アインは相手の言葉が届かない程怒り狂っていた。
俺は少年の冷静さを取り戻すために、剣に移って男に話しかけた。
「罪とはなんだ」
「白さん?」
「ほぉ。伝説の剣と聞いていたが喋るのか。興味深い」
男が俺(剣)に興味を抱くが無視して話を進める。
「もう一度聞く、王の罪とは何だ?」
「知れたこと、世界の救済を標榜し、民をだまして戦争を起こし、自らはどこぞへ逃げ出したことよ」
違う。こいつは間違った歴史に生きている。
男が言葉を続ける。
「。。。というのは表向きの理由だが、それが真実ではないことは理解している。だが、我らの一族はそれによって滅んだのだ。過程はどうあれ、そこに何の違いがあろう」
「。。。」
アインも冷静さを取り戻し、男の話を聞いている。
男の一族は、水辺に住む小型の両生生物で、その姿は上半身が人間で両足に鱗とヒレを持っていた。
水の精霊の加護を色濃く残すその古代種は、水辺に住むものと呼ばれ、その温厚な性格は戦いを好まなかった。
彼らの元に王の指令が来たとき、族長は一族を巻き込むことをためらった。
しかし、彼らの水辺での特殊な能力が必要だった王は、直々に説得を行い戦線に引き出した。
紅い川の攻防において、水を自在に操る彼らの力は魔族軍に必要とされていた。
彼らは王が姿を隠しても、最後まで魔族軍の撤退を支援し前線に残る。
その結果、一族全員が生きて帰ることはなかった。
「私は、その一族の最後の生き残りだ。卵生である我らは、卵の状態で冷たい川底にいると、孵化せずに長い時を越えるという言い伝えがあったそうだ。母は私をそうして生き残らせようとしたのだろう。しかし。。。」
男は自らの体を見て自嘲しながら手を変化させた。
「見ろ、この醜い姿を。長い年月を繰り返す間に、無防備な卵だった私は精霊に侵されていった。水と土の精霊を取り込んでいった結果がこの体だ」
泥のような体に生まれ堕ちた者の行く末は推して知るべしだ。
「生まれたばかりの私は、この泥のような体しかなかった。だが、先生に出会い人の体を与えられた」
「先生?それはだれだ」
「彼女は、自らを魔女と言っていた。亜麻色の髪の美しい人だった」
男は恍惚な表情になる。
アリーシャだ。ではダネフの祠の記憶に残っている、あの少年はこいつか。。。。
「先生は僕に生きる意味を与えてくれた。この世界の人々を救済するのは王ではなくあなただと」
「。。。」
アインは黙って男の言葉を聞いている。
「私は、先生の言葉通り、先生の願いに近づくためにこの教団を創った!たとえ王であろうとも邪魔する者は排除する!」
男の言葉が終わるその時、周りの触手がアインをからめとろうと動き出す。
触手が鎧にはじかれると同時に守護者の鎧が霧散した。
時間切れだ。
襲い掛かる触手を、アインの手にした剣が縦横無尽に動き切り裂く
少年が低い声で言う。
「お前の事情など、どうでもいいよ」
激情に駆られた先ほどとは違い、静かな怒りが少年の体を満たしてゆく。
「ジルを。。。この地の人々を苦しめた。僕が裁く理由はそれだけだ」
男が叫ぶ。
「やってみるがいい!その力、私に通じぬがな!」
アインは、切っ先を男から壁につながれた少女に向け、一気に駆け出した。
(ごめん。ジル)
(。。。)
心の中で謝罪するアイン。
俺は複雑な心境で坊主の行動を見ていた。
不意を突かれた男は、その突進を止めることができず悲鳴を上げる。
「やめろぉおおおお!」
剣先が少女の体に触れる寸前、突如突風が吹き荒れる。
「ぐぁ!」
アインは、壁に激突し体勢を崩す。
「これって。。。まさか、ロッシ、ロッシなの?!」
風の精霊となって消えた、ジルの弟の名を思い出す。
風はさらに強く渦巻き、立って居ることも難しくなる。
「ロッシ!やめて!もう、ジルは。。。」
アインの声は届かない。
俺は風の精霊の声を聞いた。
(お姉ちゃんを傷つけることは許さない)
「がぁ!」
「うわぁあ!」
そして、洞の一部に穴が開き、男もろともはじき出された。
ロッシの起こした旋風は、巨大な花人の体を貫き、二人を体の外まで追い出した。




