救う覚悟
植物の蔓で覆われた穴倉にその少女はいた。
「何時まで、こんなところにいるつもりだ」
ローブの男が鬱陶し気に少女に声をかける。
少女の目に光はなく、男の声にも反応しない。
「ちっ。まあいい、時が来れば働いてもらうぞ。お前は我らの供物なのだからな」
何を言っても反応のない少女に一瞥をくれて男は立ち去る。
四肢から伸びた蔓が、この穴倉を覆う蔓につながっている。
ここは、巨大な花人の首の奥に造られた空間。
零落の花姫と呼ばれる巨大な混成人。
それは、いくつもの街や村を飲み込み、全長100mもの巨体に成長していた。
。。。
痛い。苦しい。助けて。パパ、ママ。
やめてくれ!俺を飲み込むな。。足があああ。
やめてぇ!この子だけは、助けて!だめぇ!いやぁぁぁぁあ!
幾十、幾百の声が聞こえた。
私の中に溶け込んでくる。
怒り、恐怖、歓喜、絶望。
いくつもの感情がスープのように混ざりあい、私はそれを飲む。
痛い。
最後に残るのは、いつもこれだ。
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
私は、何?
自分の事を思い出すことが出来ない。
残ったのは、たった一つの願い。
助けて。。。。アイン。。。
。。。
谷底の廃村は今や、数百の混成人に埋め尽くされていた。
そのうちの半分は、零落の花姫の傀儡だ。
花の苗を埋め込まれた者は、本来の能力とは別に生命の力を本体から借り受ける。
どれだけ傷つこうとも回復してしまう。
国王軍が街や村の奪還に手こずっているのは、この再生能力に寄るところが大きい。
回復は自身に使うことも他者へも可能で、敵の常に回復しながらの進行に手を焼いていた。
「もうすぐ見えてきますよ!アイン様!」
ファラの手につかまり、谷底の村への抜け穴を探す。
洞穴の入り口が見えた。
「あそこ!」
アインは大きな声でファラに伝える。
ファラは降下し、後に続く仲間たちもそれに続く。
ここに来るまでに、上空から破壊された町や村を見た。
建物は瓦礫と化し、人の姿はなく、まさに壊滅状態だった。
昔立ち寄った街も見る影もなく破壊されていた。
ジルが自分の意思でそんなことをするはずはない。
そう信じて、あの男に操られていたとしても、この惨状を容易に許すことはできなかった。
洞窟の入り口に到着した。
そこで、今後の作戦をおさらいする。
カイルが全体の流れを説明する。
「エラランたちが正面から軍を率いて戦端を開く。俺たちは抜け穴から村に侵入し、タイミングを見て後方から強襲する。浮足立った敵の隙をついて、あのデカいのに取り付く」
皆が神妙な顔で聞く。
「奴に取り付いたら、頭部まで向かう。アインの話ではそこに本体がいるはずだ。そのあとは。。。」
カイルが言いにくそうに少年を見る。
アインは静かに目を閉じる。
「分かってるよ。ジルは僕がこの手で止める。それしか救う道がないなら。。。」
(。。。)
「アイン。。。無理しないで」
ミリーが気遣わしげに声をかける。
「大丈夫。ミリ姉ぇ。。僕は、大丈夫だから。。。」
その声はかすれ、聞くものに不安を抱かせるものだった。
仲間たちはそんな少年にかける言葉もなく、ただ見守る事しかできなかった。
。。。そして時間が来た。
谷の向こう側から大勢の鬨の声が聞こえる。
「行くぞ」
カイルの合図で洞窟に侵入する。
洞窟を抜けると、そこに人影はなく谷の入り口の方では戦いの音が響いていた。
「気付かれずに済みそうだな」
「こっちに高い建物があったはず」
アインは昔の記憶を頼りに2階建ての建物を探し、案内する。
その建物は今も形を残していた。
二階へと上がり様子を伺う。
アインは知らない事だが、この建物はジルが夜に連れられていた場所だ。
大き目のベッドとシーツ以外の物がなく物悲しく目に映る。
「戦闘が始まって時間が立ってないようだ、しばらく様子を見たほうがよさそうだな」
零落の花姫は村の中央に陣取り、混成人の集団の最後尾を守っていた。
本体は戦闘に参加していないようだが、花の苗を植え付けられた僕が戦っていた。
エラランが率いる軍の中央にはアインの影武者として、髪を短く見えるようにまとめたアイシャがいた。
自分も参加したいのを必死に抑えて大人しく座っている。
「姫さん、うまくやってるようだな。おっそろそろ動き出したか。ばあさんいけるか?」
戦闘が膠着状態に入り、巨大な花人がついに動き出した。
「どれ、久しぶりに本気を出すかのぉ」
やれやれと、腰を上げミリーに付き添われて階下に向かう。
「俺たちも行くぞ」
「うん」
カイルの言葉に、アインが返し、リタがうなずく。
外に出たアインは、老魔術師が取り行った魔術の発動を見る。
それは、かつて千鬼の主と呼ばれた彼女の扱う最大級の魔法であり、土系魔法の完成系とも言われる大魔法。
「出でよ、土塊の戦士たち!主の命により戦いの地へと赴くことを許す。益荒男共よその形在り続ける限り戦え!」
「千の挙兵!」
地面から、河原から、土と石から出来た土塊の兵士が現れる。
その数は千体。
彼女の異名そのままに、すさまじい数のゴーレムが後方から教団の暴徒へ襲い掛かる。
急に現れた、本隊を越える数の挟撃に、混成人の兵団は徐々に数を減らし、零落の花姫への道が開いた。
「いまだ!いくよ!」
アインが合図して走り出す。
両脇をカイルとリタが固める。
3人は猛禽類のような素早さで零落の花姫にとりついた。
「待ってて、ジル」
アインはそう呟き、覚悟を決めた。




