後悔の後
「また、奴が現れたそうだ、クソっ」
忌々しそうにカイルが吐き捨てる。
「零落の花姫か。。。」
エラランが眉間にしわを寄せる。
アイン達は城に戻り、アインを除く仲間が執務室で対策を話し合っていた。
教主と思われる男が去ったあと、聖堂やその他の教団施設を探索したが、主要な人物は逃げ出した後だった。
調査の途中で教主の部屋に女性の像を発見した。
酷く汚れたその像はどこか母に似ているとアインは思った。
ナージャがその像に魔法陣が仕掛けてあることに気付く。
過去の記憶を見せるダネフの祠と同じものだった。
アインが手をかざすと、球形の魔法陣が展開し記憶の継承が始まった。
それは、どこかの森の中にある祠の中に女性ともう一人、少年がいた。
女性はアリーシャだ。
その記憶では、アリーシャは魔術を駆使して祠を破壊していた。
あの男の言っていたことが事実であることが分かり、一同が落胆する。
ナージャが考えながらつぶやく。
「。。。この記憶を残したのは、あのバカ弟子じゃろうが、なぜわざわざこんなことをする?それと、こんな記憶を残す理由は何じゃ?」
祠を破壊する意味やそれを知らせる理由が分からない。
懐かしい母の姿を見ても、アインは沈み込んでいた。
ジルがあんな姿になっていたことが相当なショックだったようだ。
声をかけても覇気がなく目の光を失っている。
休息が必要だということで城に戻った。
アインはそれから自室から出てきていない。
俺は、そんな坊主にかける言葉がなく、近くに寄り添っていた。
こんな坊主を見るのは2度目だ。
村を盗賊に襲われ、両親が死んだあの日もこんな目をしていた。
今の自分に坊主を立ち直らせる力はない。
己の無力さに腹が立つ。
結局、俺はただの浮遊霊でしかなく見守ることしかできない。
ばぁあん!
そんな風に落ち込んでいると、突然大きな音を立てて扉が開いた。
「あんた何やってんのよ!」
アイシャが仁王立ちしてにらんでいる。
こちらを見ようともしないアインに、苛立ちを露わにずかずかと近づく。
ばしっ!
少年の胸ぐらをつかんで頬をひっぱたく。
「しっかりしなさいよ!あなた王様でしょ!」
それでも、アインの目に光は戻らない。
がっ!
アイシャが今度は拳で殴りつけた。
アインがよろよろと倒れる。
「いいかげんにしなさいよ!今、ぐす、自分が何を。。ぐす。しなきゃ。。いけないか。分からないの?」
少女の泣き声が言葉を詰まらせていることに気付く。
そんなアイシャの声を初めて聞いたアインは、視線を少女に向ける
アイシャが泣いていた。
少年を殴った拳を押さえながら、大粒の涙を流していた。
彼女の泣く姿を初めて見た。
「。。。でも、僕のせいで。。ジルは。。。」
アインの小さな言葉がこぼれる。
アイシャは再び少年の胸ぐらを掴む。
「後悔したって仕方ないじゃない!今までだってやれることを精一杯してきたんでしょ」
ぐっと顔を寄せて目を見つめる。
「あの人があなたにとって大切なのは分かってる。それでも私たちは、あなたの言葉が必要なの!あたしが好きになったのは、人のために真っすぐに王様になろうとしていたあなたなんだから、早く元に戻ってよぉ。。ぅぅううう」
少女の目からとめどなく涙があふれ床に落ちた。
下を向き、崩れ落ちて泣き続ける少女にアインは声をかけた。
「アイシャ、ごめん。僕がこんな姿を見せてはいけないよね。王様なんだから。ジルもきっと望んでない。。。」
はっと顔を上げて少年の目を見るアイシャ。
そこにかすかな光を見つける。
アインは手を貸して少女を立ち上がらせる。
「行こう。みんなを助けるんだ」
少年の言葉にこれまでの勇気を感じて少女は力強く返事をする。
「はい!」
連れだって歩き出す少年少女の背中を見ながら、俺は安心していた。
あの頃とは違う。
坊主は一人じゃないんだ。
間違いを正す友がいて、支えてくれる仲間がいる。
俺は見ていることしか出来ないけど、少年の世界が広がっていくことの喜びと、ほんの少しの寂しさを感じていた。




