第二の祠
暗闇に少女が一人浮かんでいた。
(ここは。。。どこなんだろう。。。)
朦朧とする意識の中で、ここがどこなのか思い出そうとする。
自分の体を見ると、闇との境界線があいまいになっている。
(いやぁ。。。はぁ)
闇が体を侵食する。
(あたし、たべられてる。。。)
体が闇と同化していくたびに、ここがどこなのかどうでもよくなる。
少女は闇を受け入れる事を怖れ、身じろぎする。
(い、やぁあ)
闇は浸食を止めず、徐々に少女の心をむしばんでいく。
体の半分を闇に呑まれた時には、少女の心に抵抗する力は残っていなかった。
成すがままにされるうちに、自分が誰なのか何が正しいのかどうでもよくなった。
今では闇に浸ることが心地よく、自らの欲望を解き放つ。
そして、少女は闇に溶けていった。
。。。
「そうさのぉ。そんなこともあったかのぉ」
「じいさん、頼むから思い出してよ。あんたが、一番長く生きてるんだから、何か知ってるんだろ?」
「ん-、それより飯はまだかのぉ」
「。。。さっき朝食、食べたでしょ」
アイン達はファラに連れられ有翼族の里に来ていた。
そこで、ファラが有翼族の長老に話を聞くも、さっきから同じ事を繰り返している。
「だぁめぇだぁああ。このじいさんボケてる」
ファラは話を聞くのをあきらめ、突っ伏している。
「なあ、他に手掛かりは無いのか?何か文献に残ってるとか」
カイルがファラを見てそう言う。
「あたしらが、そんなまめなことするわけないじゃん」
さも当たり前のように言う。
有翼族は特に陽気な一族で、毎日が日曜日という感じでいつもふわふわしている。過去のことはこだわらない、というか忘れる。
なので、祠の事を聞いた時も、「え?あたしらに?何で?」とファラが驚いたくらいだ。
何かを遺すのに、これほど向いていない種族は無かった。
藁をもすがる思いで、長老に話を聞いたのが先程のやり取りだ。
「ダネフは、何で祠の在りかをこの連中に託したんだろう?」
リタが首をかしげながらこぼす。
あの天才がそんなミスを犯すだろうか?
そうこうしているうちに、外が騒がしくなった。
「何?」
アイシャが外を見ると、村の人が広場に集まっている。
「ああ、レースだよ。誰が一番早く山の頂にあるゴールに着けるか競うんだ。あたしらの遊びさ」
ファラが言うには定期的に開催されるお祭りみたいなものだという。
いつから始まったか分からないが、羽をもつ種族らしい競技で人気がある。
山の頂。。。
「ねえ、それって。。。」
坊主も気付いたようだ。
「。。。あっ?!」
ファラはゴールである岩の重なった場所を思い出して声を上げた。
なるほど、言い伝えを残すのではなく、遊びの中で伝えたのか。
それなら、この連中でも未来に伝え遺すことが出来る。
「でもあんなところ、あたしら翼持つものでないと辿り着けないぞ」
ファラが言うには、そこは切り立った山の頂上で、人が歩ける道はないそうだ。
「ん-あたしでも、子供一人を担いで飛ぶのが精一杯だしなぁ」
ファラが頭を抱えてそう言う。
「あ、ならさ、こうしたら?」
リタが何か思いついたようだ。
。。。
「さあ、みんな!準備はいいかい?!」
ファラがレースの参加者に檄を飛ばす。
「今回はハンデ戦だ!ここにいるお客さんを頂上まで運ぶのが勝利条件だ!全員無事頂上に運んだら城から賞金を出すよ!」
「おおおおおおぉぉぉぉ!」
「やったるでぇぇぇぇええええ!」
いつも以上に盛り上がりを見せる村人たち。
毎回、速さ自慢だけが参加していたが、人を運ぶハンデによって勝負が分からなくなった。
賞金の魅力から、女性も参加するほど熱気にあふれていた。
「位置についてぇ! よーい!ドン!」
ファラの合図で一斉に飛び上がる。
「わっ?!」
「ひぃぃぃ」
一気に空を駆け上がる。
その速度に初めは恐怖を感じるも、徐々に慣れて回りを見渡す余裕が出来てくる。
「わぁあ!」
ファラに抱きかかえられ空を駆けるアインは、想像を絶する景色に声を上げた。
村がどんどん小さくなっていく。
澄み切った青空。
太陽を背に切り立った山々が影を差す雄大な大地。
遠くまで続く山稜。
はるか先に輝いて見える海。
翼のない者には想像もつかない景色に圧倒される。
「ファラ!」
「はい、何ですかアイン様?」
「世界って、こんなにキレイなんだね!」
ファラは微笑んで「行きますよ!」と言い速度を上げた。
谷を越え、山肌をかすめるように飛翔する。
そしてしばらくすると、目的地が見えてきた。
「あれです!アイン様」
ファラは、前方に見える尖塔のように切り立った山を見て叫ぶ。
どうやってできたのか想像もできない。
その山はまるで、天に向かって切っ先を上げた剣のような姿をしていた。
確かにこれでは登ることは不可能だろう。
山頂に向かって有翼族が飛んでいく。
最初にたどり着いたのは、アイシャを運んでいた男の有翼族だった。
「やったー!一着よ一着!」
へとへとで地面に転がる男を差し置いて、アイシャがはしゃいでいる。
続いて、ミリー、リタ、カイルが到着し、ナージャとアインは最後に着いた。
山頂は平地になっていて、中央付近に岩が重なっていた。
「あれか。。。」
ナージャはそれを見て注意深く近付いていく。
「あったぞ」
ここにも不可視の魔法陣があった。
これで、二つ目の祠を発見することができた。
「じゃあ、俺たちは先に戻ってるから」
そう言って祠に近づいた参加者が次々と消えていった。
「どうなってんの?」
リタは驚いてファラに聞く。
「あの岩に触れると、不思議なことに村まで転送してくれるんだ」
ダネフの魔法だろうか?
アインが岩に近づき手をかざすと、光に包まれ周りが白い空間に変わった。




