三賢者
どどどどどどどぉぉぉぉ
流れ落ちる滝を前に、剃髪の男が座禅を組み、静かにたたずんでいる。
20mの高さから落ちる水は毎秒数トンもの水量を誇り、近くにいるだけで自然の雄大さに圧倒される。
自然の威容を前にすると己の矮小さを自覚する。
剃髪の男ゴウライは先の戦いで負った怪我を治すため、そして、己を見つめ直すために故郷である東国へ戻っていた。
「傷のほうはどうかの?」
白髪の老人が声をかける。
何の気配も感じさせずに姿を現したこの老人こそ、崩山拳の開祖だった。
「八割ほどといったところです」
ゴウライは自らの肉体に刻まれた傷の様子を確かめて言う。
「その傷、剣によるものじゃな。お主に斬撃で傷をつける相手とはな。。。」
老人は感心したように言う。
「はい、尋常ならざる強さでした。しかし、この傷は自らの慢心が招いたもの。相手の強さのみの敗北ではありません。自身の心の弱さを思い知らされました」
アインとの戦いで、どこかで相手の強さを認めたくない自分がいた。その傲慢さが警戒を怠ったのだろうと分析していた。
「その者、覚醒者やもしれぬ」
「覚醒者。。。ですか」
ゴウライも耳にしたことのある特異能力者。
ある者は魔術に長け、ある者は知略に、またある者は力に、人の到達できるはるか先の能力を身に宿すと言われる。
最後に歴史に現れたのが魔王であり、それから千年の間一人として出現していない。
「世が動く時、いずれもその者が関わるとされる異能のもの。再び現れるとはな」
老人は世界の変革を予感する。
覚醒者のすべてが善ではなく、その力を使い世界に混乱を招いた事もあった。
見極めが必要である。
そう思う心とは別に、男の心には暗く燃え盛る野心が沸いていた。
強者に対するあこがれと、打ち倒したい強い衝動。
「ならば、我が立ちはだかりましょうぞ」
一気に膨れ上がる覇気に、老人は薄く目を細め、弟子の発した愚かしくも否定できぬ真理を認める。
「はぁあ!」
ゴウライは立ち上がり、目の前の滝に向かって気合とともに拳を叩きつける。
その勢いは、一瞬滝の流れを止める。
飛散した水は周辺に時ならぬ雨となって降り注いだ。
。。。
黒梟:疾爪はダネフの祠で事実を知った後、学舎への帰還の途についていた。
任務放棄ともとられる行動だが、共有思念体経由で報告済みだ。
「なあ、班長。こんなことして大丈夫なのか?」
ザジが、この行動に対する是非を問う。
「なんだ、おまえ戻りたがってたんじゃなかったか?まあ冗談はともかく、評議会の真意が見えなければ、俺たちは捨て駒になる。このまま当て馬のような役回りはまっぴらだからな」
ジンライはメンバーの利益優先で今回の行動をとった。
特務部隊の性質上、理由を知らされない任務はこれまでにもあったが、今回は規模が違う。
世界の破滅という人知を超えた破局に、何の知識もなく関わるわけにはいかない。
「それで?このまま戻って誰に聞くって言うの?」
サーニャも懐疑的だ。
「三賢者のじい様達に聞く。評議会のトップだ何も知らんことは無いだろ」
それを聞いたザジとサーニャは、鼻白んでひそひそと会話する。
「そんなのと接触出来るなんて、うちの班長は何者なんだ?」
「知らないわよ。まあ、得体の知れなさでは部隊でも飛びぬけてるんでしょうけど。。。」
「。。。」
アルはそれを聞きながらも黙して語らず、馬車の外を流れる風景を眺めていた。
。。。
三賢者。
魔術師評議会を取り仕切る大魔術師からなる執行役の中で、最も影響力を持つ三人の魔導士のことをそう呼んでいた。そこに、二人の大魔術師が加わり五賢人と称された。
頭のホークウッド
右のルイドルド
左のヤファイエ
3人の大賢者の前に、大魔術師クラークが跪き首を垂れる。
「三賢者の皆様にはご健勝であらせられますこと、心よりお慶び申し上げます」
この男が五賢人の末席におり、もう一人が空席なため、ここにいる四人が魔術師評議会の意思決定を行っていた。
「世辞はよい、それで、今日は何の話だ?」
頭のホークウッドが胡散臭げな眼差しを向ける。
「梟に知られました」
その意味するところを理解し、三賢者は憮然とする。
「そんなことを言いに来たのではなかろう?いずれは気付く事は分かっておった。それより、本題に入ったらどうだ?」
右のルイドルドが気怠そうに尋ねる。
「子狐が穴に入りました」
クラークが報告すると三賢者はほぉっと息を吐く。
「ようやくか。ずいぶん時間がかかったものだ」
「寄り道が過ぎるのではないか?」
「必要とは言え、扱いづらい”もの”を遺してくれたものよ」
「ここで、彼の者を腐しても仕方ないでしょう。自らの意思で選択した事実が重要なのですから」
クラークは話を戻して続ける。
「何れにしても、導きに従い我々も動き出さねばなりません。梟についてはお任せします」
「ああ、そうだな。そちらは任せてもらおう。約束の時が近付いているのかもしれん。決して手綱を緩めぬようにな」
左のヤファイエが念を押すようにクラークに言う。
「新たな世界のために」
クラークは恭しく頭を下げ退室していった。




