道標
「なんで、ここに母さんが。。。」
アインは動揺を隠せない。
懐かしい母の姿に涙がにじむも、言葉に出たのは疑問だった。
「ここに来たものは、皆同じ情報を与えられたのか?」
ナージャがダネフに聞く。
「いいや、四人組は魔法陣の起動にまがい物を使っておったでな。わしの元まで辿り着けなんだ。だが、ここまで来た褒美に魔術解除の術式は伝えておる」
ダネフはそれを理解出来るか怪しいものだがな、と付け加える。
「もう一人の娘は、胎に受容体の子を宿していたのじゃろう。難なくここまでたどり着いた」
ん?受容体?初めて聞く言葉だ。
「聡い娘だったのを覚えておる。わしから引き出せる情報はすべて持っていったよ。そうかあの時の子が其方か」
「。。。」
「なあ、あんた。さっき受容体って言ってたな。それは何のことだ?」
俺は先ほど浮かんだ疑問を口にする。
「剣の主で転生者なら、身に覚えがあるだろう?灰の海を渡ってやってくる魂の受け皿、それが受容体として生まれた者だと。その資格を持って生まれる子は金色の髪を持つ。そうして異世界の魂を持って生まれた子が覚醒者となる。其方らもそうして生まれたのだろう?」
「。。。俺は。。。俺には生まれ変わる肉体は無かった」
アインがビクッとする。
「だが、今はそれでよかったと心から思っている」
アインの頭を軽く撫でて本心を吐露する。
ダネフに俺たちの事情を説明すると、かなり驚いていた。
「なんと、器の魂と転生者が共存するとは。。。そのような事は過去に例が無い。それほど強い魂とは。。。」
「ダネフ殿、どうして、その覚醒者についてそんなに詳しいのじゃ?」
ナージャが尋ねた。
「わしも、転生者だからじゃよ」
「!?」
ダネフがこの世界に転生したのは人魔戦争よりはるかな昔。
古代文明アトルシアが四大聖竜に滅ぼされようとしていた、まさにその時だという。
(「転生者ってそんなに居るのか?」『ああ、少なくとも俺が生きていた時代には数える程度だが何人かは居たぞ』)
俺は王の言葉を思い出していた。
「わしは聖竜の炎に身を焼かれる寸前に、剣の力を使い次の時代に生まれ変わることを求めた。わしが救えなかった世界を、今度こそ救うことが出来る強い魂の持ち主にすべてを託すために」
それで、王と出会ったのか。
「クレイ様は理想通りのお方だった。覚醒者としてあれほどの才覚を持ったものはいない。だが、今度も時間が許してくれなかった」
滅びを、わずかながらでも引き延ばすために王の犠牲が必要だった。
「わしと王は成し遂げることが出来なかった。だが、其方たちならば、あるいは。。。」
受容体として生まれ、強い魂を持ち続ける少年と、生まれ落ちる体を持たずに存在し続ける俺。
どちらも、この世界にとって例外な存在。
この関係がどう作用するか分からないと、かつての天才魔術師は言う。
残り二つの祠へ向かい、さらなる知識を得るが良いと言い幻は消えた。
白い空間から戻った俺たちは、しばらく呆然としていた。
「なんというか、いろいろ情報はあったが肝心な滅びの回避方法は聞けなかったな」
カイルが残念そうに言う。
「そもそも、そんな方法があれば祠など造らずに世界を救っておったじゃろうよ」
ナージャがあの男ならばと付け加える。
「でも、手掛かりが無かった時よりはずっといいよ。それと、母さんが何のために祠の情報を欲しがったのか、そこに何かあるんじゃないかって気がする」
アインは実の母の行動に意図的なものを感じていた。
これまでもアリーシャの影がちらつく場面はあった。
しかし、こうまで俺たちの行く先に現れることは偶然とは思えない。
ナージャが煙管を取り出し火をつける。
「そうじゃな。あの子の考えはわしにも分からんが、何か裏があるんじゃろう。評議会が動かんのも、あのバカ弟子の思惑のせいかもしれん」
「師匠、アインのお母さんって、そんなにすごかったんですか?」
ミリーが聞いて思い描いていたよりも、より得体の知れなさを感じて聞いてみた。
「あやつは、そうじゃな。才覚だけなら全盛期のわしを越えておった。まだ魔女の継承前の見習いの時点でな」
大魔術師と言われたナージャを越える逸材とは。。。
その知識と智謀は二十歳前の娘とは思えなかったという。
もしかすると彼女は、滅びの回避方法を知っていたのではないか。
アリーシャの存在は、俺たちにそう期待させる何かを感じさせた。
「もしそうなら、この道に母さんが何かを遺してくれているかもしれない。次の祠を探そう」
アインの言葉に皆がうなずく。
母アリーシャが道標となって行く先を照らしてくれる。
少年はそう感じていた。




