痕跡
「ここのようだな」
カイルが調査隊の残していった目印を見つけ、岩の隙間のような洞窟の入口を見る。
大人がぎりぎり通れるほどの穴を、体を横にして入っていく。
中に入ると意外に広く先に続いていた。
「大丈夫だ。中はひらけている。入ってきていいぞ」
外にいる仲間に声をかける。
アインを先頭に全員が洞窟の中に入った。
ここからは、入口からの光は届かず奥は暗闇に包まれていた。
「ミリー頼む」
「はい。魔法の灯」
ミリーが明かりを灯す。
「あれは?」
先に立って進んでいたミリーが何かに気付く。
しばらく奥に進むと、岩を重ねた祭壇のようなものが見えた。
「ここか?他に何もないようだが」
カイルが周りを慎重に探索するが他には何もない。
「いや、ここで間違いないようじゃ」
「そうですね。これ魔法陣ですか?」
ミリーの言葉にうなずくナージャ。
「見事なものじゃな。これほど長きにわたり不可視の魔法陣を維持するとは。。。」
かつての天才魔術師の技術に舌を巻く。
「アインよこちらに来て手をかざすのじゃ。それが発動条件のようじゃ」
アインは前に出て祠に向かって手をかざしてみる。
すると、魔法陣が輝きだし、複雑な文様の球形の魔法陣が現れた。
その場にいる全員を包み込むと光がさらに輝きだす。
気付けば、真っ白な空間にいた。
「よく来た、王の系譜に連なるものとその仲間達」
いつのまにか目の前に老人がいた。
「あなたは?」
アインが尋ねる。
「魔術師ダネフと申す」
この老人が稀代の天才魔術師と言われた男か。
「そちらの御仁は当代の剣の主ですかな?」
老人は俺を見てそう聞く。
「あれ?白さん?」
この空間では、俺の白い靄のような人型の姿が見えているようだ。
「こいつが。。。」
カイルが俺の姿を舐るように見る。
「こやつの事は置いておいて、重要な話を聞きたい」
ナージャは俺に全く興味を示さず話を先に進める。
少し、寂しい。
「分かっておるよ。ここに魔術師が来るということは、評議会にもやっと話の分かる者が現れたということかな」
ダネフは期待を込めて尋ねた。
「。。。すまぬが、わしは評議会の者ではないんじゃ。すでに袂を分けておる」
その言葉に失意を露わにするダネフ。
「そうか。。。まだ己に課せられた使命を理解しておらぬか」
「ダネフよ、今一度問おう。お主の知りうる世界の危機とは。それを回避するための英知とは。すべてを聞かせてくれ」
「よかろう。。。」
ダネフがそう言うと、頭の中に直接イメージが流れてきた。
「王よ、お人払いを」。。。「この世界が滅びる?貴様正気か?」。。。「あなたの世界で言うところのエントロピーの崩壊ですよ」。。。
「王よ、準備は整っております」。。。「御身は魔術の核となり、元の姿には戻りませぬ。このような邪法を生み出した罪をお許しください」。。。
当時のやり取りが、映画の場面転換のように映し出される。
そして、大量の魔術式が頭に流れてきた。
それは、魔術師の二人以外には、何の影響も起こさなかった。
ただの古代文字の羅列であり、知識を持たない者には目の前で光がチカチカしただけだ。
見ると、ナージャとミリーの様子がおかしい、
瞳孔が開き、その光に魅入られたような恍惚とした表情をしている。
やがてそれも終わり、膝をつくように倒れこむ体を杖で支える。
「はぁ、はぁ。。。お師匠様、これって」
「ああ、魔術解除の術式じゃ。未完成ではあるが」
ナージャとミリーは顔を合わせて確認する。
「わしは、ここと同じ祠をあと二つ遺した。その場所は有翼人と土穴の長に託しておる。彼らの元を訪ねるがよかろう」
「そこに、残りの術式があると?」
「左様」
ダネフの幻影が答える。
目的は決まった。
これまで、何の手がかりも掴めなかったが光明が差した気がした。
「最後に、もう一つ。わしら以外に、これまでここにたどり着いたものはおるか?」
「。。。」
再びイメージが流れ込んできた。
4人の見知った顔が見える。
「こいつら、ここまで追ってきてたのかよ」
カイルが、しつこさに呆れる。
再び場面が変わり、若い女性の姿が映る。
「え?」
アインが声を上げ、ナージャの息を飲む音が聞こえる。
「キレイな人。知ってる人なの?」
アイシャが少年に尋ねる。
「母さん。。。」
そこに映っていたのは、紛れもなく若かりし日のアリーシャの姿だった。




