一時の帰還
難民を乗せた馬車が街道を進む。
王城に近付くほどに人の往来が増えてきた。
古代種や、様々な特徴を持つ魔族が行き交う姿を見て、初めは怯えていた人々も徐々に慣れ始める。
自分たちが特殊な存在ではないこと。
ここでは当たり前の事であることに、徐々に瞳の光を取り戻していった。
城下町が見えてきた。
街のざわめきや様々な匂いが交じり合う活気が伝わってくる。
大きな町を見る事が初めての子供たちは、きょろきょろと目を輝かせて興味津々のようだ。
「あれが王城:クレイ・フォートレス だよ」
山肌を削り造られた勇壮な城の姿が見える。
城の名は、先代王の名を冠して俺が名付けた。
大通りを抜け大きな城門が迫り、市場を抜けていく。
中央広場を抜けて第二門の前で馬車が停止した。
全員馬車を下りて、難民は待機していた役人に引き取られていった。
エラランを筆頭に、主な執政官がアインを迎えに来ていた。
「お帰りなさい、アイン様、みなさん。御無事で何よりです」
「ただいま、みんな」
アインは、いつもなら顔を出す、うるさいのが居ないことが気になって姿を探した。
「アイシャが居ないけど、どうかしたの?」
「姫なら、そちらに」
エラランが、うやうやしく後ろに控えていた少女を前に誘う。
赤いドレスを着こなし、金髪の縦ロールも美しく整えられた美少女。
幼女から少女へ成長し、大人への階段を登り始めたばかりの可憐な姿を見せる。
「無事のご帰還、お喜び申し上げます。王」
少女はしずしずと、完璧なカーテシーを披露する。
その美事な振舞いに、ため息が出るところだが、昔の姿を知る一行は背筋が凍った。
「。。。どうしたの。。。これ」
アインが表情を硬くしたままエラランに聞く。
俺はその時、少女のこめかみが一瞬だけピクっとした事を見逃さなかった。
「あー、代理とはいえ王の系譜に連なるお方ですので、いつまでも腕白では困ると言い聞かせましてな。。」
「よぉ、王様。元気そうじゃん」
エラランの言葉を遮るように、ドール:イグナ・ヴァルカが話しかけてくる。
「ひさしぶり、ヴァルカ」
「こっちは、相変わらずだけど、見ろよ御主人のかしこまった姿。支配が緩くなったおかげで延び延びさせてもらってるよ」
ピクっ
(あ、また)
嫌な予感がした。
「ほほほっ。何をおっしゃるのヴァルカさん。調子に乗ってると後で御酷い目に合わせます事よ」
顔に怒りのマークをいくつものせて、笑顔でドールを見据える。
「じゃ、じゃあまたな。。」
ヴァルカはそう言って退散した。
(あれ?暴走しなかった。。。へぇ、成長してるんだな)
俺がしげしげと見つめていることに、アイシャが気付き『何が言いたいのよ』と言いたそうにジト目で見る。
カーラが場所を変えようと提案したことで、皆が移動を始めた。
「いやぁ。また暴走するかと冷や冷やしたぜ」
カイルが小声で蒸し返すようなことを言う。
「ばか」
リタが窘める。
アイシャがカイルをキッっと睨む。
ははは、と頬を掻き明後日の方向を見てごまかした。
各自、旅の疲れを流してから、執務室に集まることになった。
一刻後。
執務室に集まった皆の情報交換が始まる。
「今回の旅でアイン様方が潰した教団の拠点は2つ。他の調査隊が1つです」
彼らの拠点『家』は至る所に点在し、全体像が見えない。
教団の動きを察知し、尾行することでなんとか見つけられる程度のものだ。
「最近はこちら側の信者獲得が進まないようで、難民を狙うことが多くなりました」
草人の執政官カルが資料を片手に報告する。
アインが旅の途中で小さな村々を訪れることで、王権への信頼が回復していることが領内での暗躍をやりづらくしている。
目が行き届くことで、以前ほどは地方の暮らしは切迫していない。
人類圏との商業活動が、一部の商人を介して認められたことも良い効果を生んでいる。
これには、巡回商人のロランとの繋がりと、宝石商人ビドゥが役に立った。
魔族や古代種は、魔鉱石や精霊核の加工技術を提供し、人類圏から穀物などの食料を輸入する。
数はまだ少ないが、このまま進めば人類圏と魔族領の通商貿易圏が出来上がるだろう。
ロランらはその未来に向けて奮闘してくれている。
もっともビドゥは、おいしい思いをしていた商売が成り立たなくなることを嘆いていた。
そんな中でアインの頭をよぎるのは、あの谷底の村の事だ。
再び訪れた時、その村はそこに無かった。
(ジル。。。)
あの少女の行方はその後もわからず、杳として見つかっていない 。
「火守を増やすことは出来んのか?」
エラランの声で会議に意識を向ける。
人類圏の諜報と、逃げ出した難民保護を行う役を火守といって各地に配置している。
「。。。難しいでしょうね。配属地は古代種の街や村ではありますが、状況によっては敵地に一人取り残される事になります。戦闘力のある武官と文官を兼ねられる人材は少ないですからね」
カーラはその点で優秀な人材だが、今は城中心の業務が忙しく火守を続けることが出来ない。
「ロランさんに頼んでみるのはどうかな」
アインが巡回商人の名を出して提案する。
巡回商人であれば、村々を回るためその村の事情にも明るい。
もし、魔物化が進行した者が居ればすぐに耳に入るだろう。
「確かに、あのキャラバンだったら何人か紛れ込んでも怪しまれないか」
カイルがうなずき、他の皆も納得する。
難民の件は、ロランが次に到着した時まで一旦保留となった。
「次に、崩壊の回避策についてですが。。。」
エラランの口調は重い。
「有力な情報はこちらでも掴んでおらず。。。」
「僕らの方も、そっちの方は進んでいないよ」
「ちょっと、いいかい?」
珍しく有翼族のファラが発言を求めた。
「あたしらの一族の若いのが、山岳地で奇妙な光を見たって報告があったんだ」
「何かが反射したのでは?」
「いくらなんでも、それくらいは見分けるさ。目はいいからね。その光は数十秒の間輝き続けて急に消えたそうなんだ」
魔法の光で間違いないと彼は言っていたそうだ。
そんなところに魔法の光が?
皆がざわめき始める。
「今は何でも情報が欲しいから、少しの異変でも調べる価値はあると思う。僕が行ってみることにするよ。ファラ、その場所は分かる?」
ファラは大体の目星になる場所を地図に示した。
そこは、黒梟:疾爪が、ダネフの祠で託宣を受けた場所に重なっていた。




