藪をつつくと。。。
午後の日差しが影を深く刻む夕刻。
普通の民家にしか見えない家の一角で、僧衣を纏った男が女から報告を受けていた。
その女も、女性用の僧衣を着用していることから、この組織では上位に位置する事が分かる。
「宣教者がまた一人消されました。しかも、御使い二体も一緒に。。。」
「。。。」
女の報告を聞くと、その男は忌々し気に口元を歪めた。
「奴らに潰された家は優に20を超えています。このまま放置していては、いずれここにたどり着くのも時間の問題と考えます」
「。。。王の力は絶大だ。翻って我らのなんとも弱き事よ」
「。。。」
女は黙って男の言葉を待った。
男が目を細めて語る。
「教化を急げ。強大な力には数で対抗する。家については教順者の家を清めれば事足りよう。人々の欲望が刺激されるようにささやき続けよ。人は愚かなほど快楽に抗えない存在だ。たとえそれが悪しきと知っても、目の前の欲望を抑えることが出来ないのが人間だ。我らが王に対抗し得るのは、その人の愛しき愚かさよ」
女はうなずき、部屋を出ていった。
「王よ、我らの恨み晴らさせてもらうぞ」
夕暮れに染まる部屋の片隅で、暗い影に表情を隠した男はつぶやいた。
。。。
切り立った山の洞窟に祠があった。
注意深く見なければ、自然の岩に紛れて見落としてしまいそうな小さな洞窟。
そこに黒梟:疾爪のメンバーがいた。
「これが、その大昔の大魔術師が作った祠だって?」
ザジは疑いの目を向ける。
それは、ただの岩を組み合わせただけに見えた。
「間違いないだろう。不可視の古代文字が刻まれている」
ジンライがそう断言する。
魔術師としてのレベルが高ければ魔力の流れを目で捉えられる。
それを巧く利用して、普通では見ることの出来ないように文字を隠している、
「それで、ここで何をするつもり?」
サーニャがここまで来た目的を聞く。
「かつて、魔術師評議会を出奔し存在を抹消された大魔術師ダネフ。なぜ、評議会がかつての英雄にそこまでしたか、その理由がここに在る」
ジンライが懐から布に包まれた小さな何かを取り出す。
「それは?」
「評議会が処分してきた子供のミイラの指だ」
ザジは「うげぇ」声を漏らし、サーニャは目を逸らす。
「どうやって、そんなものを手に入れた?」
アルフレッドが聞く。
質問よりも、彼が会話に参加する事の方を3人が驚く。
「伝手を使ってな。評議会でも禁忌とされる種類の話だが、知的欲求に抗えない者は多い。そういうやつの話は耳に入るのでな」
特務部隊と言っても、その中身は懲罰を兼ねたものが主な任務だ。
その班長ともなれば、一般には出回らない話を知る機会も多い。
ジンライが祠に、乾燥して節くれだった子供の指を置く。
すると、祠が輝きだした。
球形の複雑な文様の刻まれた魔法陣が現れる。
その光に包まれた4人の頭にイメージが流れてきた。
ダネフと王との会話。
人魔戦争の一部始終。
魔術の解法の一部について。
アインが見れば、それは情報を補完する有益な手がかりになっただろう。
初めて目にする者にとってそれは衝撃に他ならない。
一通りの情報伝達が終わり、魔法の輝きはいつの間にか収まっていた。
呆然と立ちすくむ四人。
ザジがまだ頭が働かない表情で問いかける。
「えぇーと。つまり、この世界がもうすぐ滅ぶということか?」
「。。。そうだな」
顔の汗を両手で拭い、ジンライが答える。
「奴らはこれを止めようとしてると。。。正気かよ。。。」
「救世主様らしいからね。本人が望む望まないは関係なしに道を進んでるように見えるけど」
「。。。」
「ねぇ、班長。ここに来た理由を教えて。私たちは所詮は使い走りに過ぎないのよ。評議会の命令には絶対のはず。だから、過酷で非道な任務でも意味など知らずにやってこれた」
サーニャが言いたいことは分かる。
どんな任務であれ、自分たちが責任を負わずに済むことは心の負担を減らす。
そう思わなければ、やりきれない思いを皆が抱えていた。
「これまで、彼らを追い続けて、この任務が特別なものだと感じた。それは皆もそうだと思う。評議会の考えが分からずに、行動を強いられるのは危険だと判断した。ここに来たのは、少しでも評議会の思惑を知る手がかりを得るためだったが。。。核心に出くわすとまでは思っていなかった」
皆を巻き込んですまないと、ジンライは頭を下げた。
魔術師評議会はこの事実を掴んでいる。
そして、未だ解決への糸口は見出せていない。
彼らを泳がせ、時に王の力を成長させるように小競り合いを起こす。
今はそれしか出来ないのだろう。
人魔戦争当時の王の力に目覚めるまで。
「結局、王様の力にすがるしかないのかよ。。。評議会もたしたことねぇな」
ザジの素直すぎる感想にだれも異を唱えることは出来なかった。




