浄化の祈り
「これで全部かな」
アイン達は飛び散った剣女の体と溶岩男の一部残った黒土を、フードの男の死体と一か所に集めた。
「灼煌眼」
男の死体と二人の混成人間だったものが炎に包まれる。
少年は手を合わせて死者の冥福を祈った。
「なあ、あんた、なんであんな奴のために祈ってやるんだ?」
難民の男が、少年の行動の意味が分からず問う。
この世界では敵の死体は野ざらしにするのが普通だ。
時には恨みの対象としてバラバラにすることさえある。
アインは、考えをまとめるように、腕を組んで考え込みながら答えた。
「ん-、なんていうか、死んでしまった後まで憎しみを残したくないというか。。。だって、ぶつける相手もいないのに恨みや怒りを残しても、哀しみを増やすだけだと思うんだ」
男はハッとして少年の顔を見る。
少年は話を続ける。
「だから、この人たちへの怒りや蟠りは、炎で浄化して祈るんだ。死んだ後も魂が縛られる事の無いように。。。」
「僕らは明日を生きていくんだから」
人々はその言葉を聞き、これまで虐げられた憎しみを持ち続ける愚かしさに気付く。
男が少年王に言う。
「あんたのような人が王なら、俺たちは喜んでついていくよ」
他の難民からも同じ声が上がった。
「ありがとう。もう少ししたら城から連絡が来るはずだから。。。さぼってなければ」
最後に小さな声でボソッとこぼれたが、その言葉は皆を安心させた。
アインはハンドサインで空に向けて救援を呼んでいた。
定期的に城にいるファラが、魔眼:天眼でこちらの様子を見ている。。。はずだ。
時々、さぼるので連絡が来るまで安心できないのだが。。。
「あ、来た!」
リタが素早く気付く。
小さな鳥がこちらに向かってくる。
スレッド・ウィーヴァー 別名:念糸鳥と呼ばれる魔物で、飛翔した軌跡が念話のための念糸となる。短い間ではあるが、どれだけ遠くにいても会話ができるため、城では連絡用に飼いならされている。
『アイン様。御無事ですか?!』
エラランの声が真っ先に聞こえた。
「うん、こっちは大丈夫、怪我人はいないよ」
『ほっとしました。無理はなさらないよう、くれぐれも御身を大事にお願いしますよ。こちらは気が気ではないのですから。。。まったく、調査や斥候など王のやることではないというのに。。ぶつぶつ』
また説教が始まった。
毎回、念話が始まるとこれの繰り返しだ。
「毎度毎度、よく飽きないよな」
カイルがこっそりリタにこぼす。
『聞こえてますぞ、カイル殿』
ぶすっとした声でエラランが言う。
「いやぁ、本題に入った方がいいかなぁと」
ばつが悪そうに話題を変える。
「そうだ。こちらに救援の部隊を送ってほしいんだ。えーとぉ。難民の人数は16人。子供もいるので馬車を用意して。あと食料と毛布も。数日水だけしか口にしてないそうだから消化に良いものをお願い」
アインがてきぱきと指示を出す。
『畏まりました。早速手配します』
「ありがとう」
『それから、もうそろそろ城にお戻りください。前回お戻りになられてから一年になります。こちらの調査結果も、お知らせするにちょうどいい時期です』
「何か、進展があったの?」
『それはお戻りになられてから報告します』
「。。。わかったよ。じゃあ救援隊と合流してそのまま城に向かうから」
『御意』
念話が切れて、スレッド・ウィーヴァーはどこかに飛び去った。
アインは難民に向かって声を掛ける。
「これから、こちらに救援部隊が来ます。それまで、ここで待っていてください。城まで僕たちも同行します」
難民達から安堵の声が出た。
しばらくすると、救援部隊が到着した。
そこにはカーラの姿もある。
「坊ちゃーーーん」
「カーラ、久しぶり」
馬車から降りて真っ先にアインの前で膝まづくカーラ。
褐色の女性騎士然とした恰好で、凛々しい姿だが言動が乳母のそれである。
「心配しましたよぉ。怪我は無いですか? ご飯は食べてます?」
「だ、だいじょうぶだから。落ち着いて」
まだ、子供扱いが抜けず、周りの視線を気にする少年。
「はっ。失礼しました。王よ」
咄嗟にクールな仮面をかぶるが。。。遅いよ。
カーラの過保護っぷりは以前から変わらない。
それは、彼女の生真面目さによる事もあるが、幼いころから知った仲で嬉しくもあり、恥ずかしくもある。
「では、参りましょう」
その後、簡単な食事を済ませてから、難民全員を馬車に乗せ城へ向けて出発した。
。。。
馬車に揺られ、ミリーが白い滝のような花を目で追う。
懐かしい思いに、目に浮かんだ涙をそっと指で拭う少女をアインが心配そうに見る。
「ミリー姉ぇ、どうかしたの?」
「ん-ん、何でもないの。少し昔のことを思い出しちゃって。。。」
ここで、この木を見た時は驚いた。
でも、あの家が、あの夫婦と共に過ごした家では無いことはすぐに分かった。
きっと、今もあの暖かいまどろみで過ごしているのだと思う。
いつか彼らが、自分たちを許す日が来るのだろうか。
そんな日が来て、また会うことがあれば、笑って迎えることが出来ればいいなと少女は思う。
アインはミリーの哀し気な横顔を見て、自分の知らない触れてはいけない事情があることに少し寂しさを覚える。
馬車から外を眺めると、水(新緑)の季節へと向かう木々や草花が光を反射している。
暗い樹海の中でも光は差し込み、命の芽吹きは美しい。
旅立ちの日から、4年の歳月が流れていた。
アイン達の努力もむなしく、世界の危機は、未だ人類の足元に暗い影を落としたままそこに在った。




