混成人間
「王、あの子が、魔王だって?」
難民の中から驚きの声が上がる。
確かに、忌み子である金髪をしているという声も聞こえた。
市井に生まれなくなって久しいが 、その言い伝えは残っている。
「そ、そうです。皆さん、こいつは忌むべき魔王です!皆さんの敵です!」
灰色ローブの男はすかさず難民を取り込もうとした。
「だまされないで、この男はみんなに嘘をついてる。そのランタンは精神を惑わし意のままに操る魔術具だ」
少年は冷静に指摘する。
「だが、その男は魔物除けと言っていたぞ」
文句を言っていた難民の男が口を開く。
「魔物除けは嘘じゃないよ。ある程度小型の魔物であれば言うことを聞くんだ。でもそれ以外にも、何かされてたはずだよ気付かない?」
アインの指摘する事に何人かが思い当たると声を上げる。
「そういえば、ここに来るまで疑いもせずについてきた気がする。こいつは相当疑り深いから文句を言っていたが、そのランタンを見せられたら静かになってたな」
「ああ、そう、そうだ!何故か頭がぼぉっとしてその後の言葉が続かなかったんだ」
文句を言っていた男が思い出したように言う。
人々は目が覚めたように灰色ローブの男を非難し始めた。
「。。。全く、知らずに供物となっていれば幸福なまま死ねたものを。愚者とはどこまでも愚かなものだな」
ローブの男の雰囲気が変わった。
ふぁさぁ
男が近くに控えていた男女に何かの粉を振りかけた。
すると、二人の姿が人から異形へと変化する。
女が銀色の刃を人の姿にしたように変化し、両腕が鋭利な刃物になる。
男は溶岩が人の形をとったようになり、周囲の物が熱で燃え上がる。
「やはり、混成人間がいたか」
アインは苦々し気につぶやいた。
「さあ、御使いよ。今こそ信仰心を示すのだ!」
ローブの男がそう言い裏口から逃げ出した。
二人の混成人間がアインに襲い掛かる。
「灼煌眼!」
アインは魔眼を発動し、炎で牽制した。
異形の二人が炎に包まれる。
「カイル兄ぃ!そっちはお願い」
隠れていたカイルに指示を出す。
すぐにカイルは草むらから飛び出して、灰色ローブの男を拘束する。
「待ってろ、すぐ手伝う」
その言葉の通り、ローブの男をす巻きにして転がす。
「この人たちをどこか安全な場所へ!」
「こっちへ!早く!」
リタとミリーが姿を現し、難民を避難させる。
突然の炎に驚いていたが、混成人間はすぐに立て直していた。
生物であることをやめた代償で得た強靭な体に、魔眼の力は届かない。
カッカカ
尖った足を床に突きこちらに向かってくる。
剣女の鋭い斬撃がアインに迫る。
キン!
そこへ、カイルが間に入り斬撃を止めた。
「こっちは任せろ」
コクリとうなずき、溶岩男に向き合う少年。
「纏え!白霧!」
俺は、坊主のために戦闘形態をとる。
アインが白い羽衣に身を包んだ。
「剣よ!我が手に」
続いてアインは黄金の剣を召喚した。
チリチリチリチリ
小さな直方体のパーツが瞬時に形を創る。
裁定者の黄金律
その剣は、この世のすべての理さえ断罪する。
俺自身が憑依しなければ、そのチート性能を使うことが出来ない。
だが、その気になれば空間ごと斬り払えるその威力は、その基本性能だけでも伝説級の魔法剣だ。
アインが剣を構える。
溶岩男は剣に目もくれずに手を伸ばしてきた。
ふぉん
一閃。
溶岩男が伸ばした手を切り落とす。
ぼとりと音がして、その場に腕だったものが崩れ黒い土に変わる。
熱を帯びた土から蒸気が上がっている。
溶岩男が不思議そうに自分の腕を眺め、その次の瞬間には腕が再生した。
どんな理屈か不明だが質量が減っていない。
(これじゃあ、斬ってもきりがないぞ)
長期戦を覚悟したその時にリタの声が聞こえた。
「アイン、外へおびき出して!」
「っ!」
溶岩男が自らの腕を引きちぎって少年に投げつける。
灼熱のマグマが襲い掛かる。
アインが、咄嗟に攻撃を回避しながら溶岩男を外におびき出す。
すでに罠の準備が済んでおり、螺旋の尖針が地面に刺さっていた。
アインはそれを察し溶岩男の攻撃を避けつつ罠に誘導する。
三角形の罠の中に入ると見るや、ミリーの魔法が発動した。
「凍結せよ!」
ミリーの魔法をきっかけに、螺旋の尖針から魔法が発動する。
凍結せよ
凍結せよ
凍結せよ
その効果は熱を奪い、溶岩男の体を黒い岩石に変えた。
(いまだ!)
「いまだ!」
俺と坊主は同じタイミングで叫び、必殺の一撃を放った。
「翠脚鞭!」
しなやかに伸びた脚が鞭のようにしなり、インパクトの瞬間に集束された魔力が解放される。
溶岩男の体は衝撃と振動により粉となって虚空に消えていった。
剣女の相手をしているカイルを見ると余裕で剣を捌いていた。
全身が剣になっていても、所詮は素人だ。
見た目の恐ろしさに反して、その剣筋は剣の達人にとっては脅威ではなかった。
剣女は攻撃が無駄だと悟ると距離を取った。
「?」
「まずい!」
どん
剣のような体が膨れ上がり、爆発した。
剣女が自分の体を細かく砕き、全方位に向けて破片を撒き散らす。
「大地の壁」
ナージャの魔法が発動し、視界が大きな土壁にさえぎられる。
「詰めが甘いのぉ」
ナージャが現れた。
ナージャの魔法のおかげで難民たちに被害は無かった。
しかし、ローブの男は破片をもろに浴びてしまっていた。
血だらけになって絶命している男を見て、手がかりを失ったことに気づく。
「面目ない」
カイルは自分の油断が起こした失態を恥じた。
「まあ、拠点の一つは潰せたし、難民も救えたんだし結果オーライじゃない?」
アインはカイルを励ますように明るく応じる。
「。。。お前最近、口調が軽くなってないか?はぁ、あれのせいか」
カイルがため息交じりに話を変える。
あれ。。。って俺のこと?
「全く教育に良くないですよ。すぐ引っ剝がしましょう」
ミリーがぷりぷりして言う。
「小僧の役に立ってるうちは、見ていてもよかろう。役に立っているうちは。。。な」
ナージャがドスの効いた声で脅してくる。
あれぇ?何?この職場待遇。。。




