追記:聖約
「ここが。。。聖域か」
耐えがたいほどの熱が肌を焼き、その場に留まることを拒む。
魔法による加護を何重もかけていても、その熱には抗えない。
これまでに、同行した坑夫の半数は脱落している。
ここは人が侵入してはいけない領域。
人の本能がそう告げていた。
「王様、これ以上は進んじゃいけねぇよ。なにか、悪い予感がする」
土穴族の坑夫長が危険を知らせる。
戦士でもある彼は迷宮制作の監督であり、王の側近でもある。
「いや、このまま進む。俺は彼に会う理由があるんだ」
それこそが、天空竜:アストラエア に与えられた課題だからだ。
「王命、聖域よ我らを受け入れよ」
「承認、道を拓け、裁定者の黄金律」
黄金の剣から声が流れ、熱で溢れていた空間に人の通れる道を作る。
そこから先に、人の侵入を拒む強烈な熱は無くなっていた。
『誰だ?我の眠りを妨げるのは』
強烈な思念が頭に響く。
いきなり頭を鈍器で殴られたような感覚に数人が気を失う。
(思念波だけでこれかよ)
剣に入っている誰かのあきれた声が聞こえる。
「ああ、さすが星炎竜だ」
気を失いかけた体を剣で支え、頭を揺らして意識を保つ。
「王様、今のは。。。」
ドワーフの歴戦の戦士が怯えて尋ねる。
「ああ、彼だ」
にっと、獰猛な表情で答える王。
「ここからは、俺一人で行く。皆は戻れ」
王はここまでついて来た全員にねぎらいの言葉をかけ、気を失った仲間を連れて戻るように命令した。
ドワーフの戦士はそれに従い、全員を統率して引き返していった。
「さあ、ここからが本番だ」
(なんだか、うれしそうだな)
剣の声にはあきれが含まれる。
「伝説の竜に拝謁するんだ、わくわくするだろ」
(度し難い)
この男と一緒になってから、何度も口にして口癖になった言葉をこぼす。
王は、目に見えないトンネルに沿って歩き出す。
そして、その異様ともいえる大きさの存在を目の当たりにする。
(さすがに、お前でも震えるか)
手の震えが伝わってくる。
「。。。ああ」
人である限り、これほどの存在を前に正気を保つだけで立派なものだ。
『。。。お主は、なんだ』
偉大なるものが問いかける。
名前を聞かれているのではない事はすぐに察した。
根源である存在理由を問われている。
「俺は。。。王となり皆を導き守る存在となりたい。。。いや。。。成る!」
『皆とはなんだ』
「この世界すべてだ!」
『大言を吐く小虫だ』
星炎竜の目がこちらを向く。
その目に慈悲は無く、わずらわしさが現れていた。
王の全身の熱が上がり燃えるように周囲に炎が上がる。
「王命、我の声を聞き入れよ!」
「承認、傾聴!裁定者の黄金律!」
即座に剣の力が振るわれる。
ふっと、炎も熱も収まり、竜の目に驚きが混じる。
『その剣は。。。そうか、天空に会ったか』
剣を支えに立つその男を見て、しばし観察するように見る。
『なぜ、竜眼の効果を止めなかった?』
剣の力を使えばそれは可能だ。
「俺はあんたと話をするためにここに来た。無礼は承知の上でだ。これくらいの罰は受けなければな」
『。。。おもしろい男だ』
竜の思念にあきれたような感情が混じる。
(自らが焼かれる事よりも、我との対話を望むか)
『ならば聞こう、我に何を望む?』
「話が早くて助かる。あんたはこの世界を焼き尽くすと聞いた。それをほんの少し待ってほしいんだ」
『何故?』
「今の世界が危機的状況な事は理解している。だが、まだ人類が自分たちの力で危機を乗り越えられると、俺は信じている」
『世界を守ることが我が課せられた使命。それを待てと?』
竜の目が不快感で揺らぐ。
「取り返しがつかなくなった時は、運命を受け入れよう。だが、ほんの少しでいいから時間が欲しい。あんたたちにとって一瞬の時間でも俺たちには貴重だ。必ず何とかしてみせる」
王の願いは切実なものとして竜に伝わった。
『小さきものよ、その願いを受け入れよう。名を名乗るがいい』
「俺は、クレイ、呉井 甚だ」
『クレイよ我が名を刻め、我が名はフリギウス この世界を業火によって浄化するもの。お主の願い、我が友の願いとして引き受けよう』
「ありがとう」
『だが、お主の言葉だから引き受けたが、お主とて定命の身。最期を見届けることは出来んだろう。約定はお主の命尽きるまでとするが良いか?』
星炎竜は時間制限を持ち出してきた。
「人は世代を越えて意思を繋ぐことが出来る。俺の命が尽きても次の王が遺志を継ぐ。それを信じてくれ」
『ならば、その命尽きる時、次の王の存在を世界に示せ』
「ああ、必ず」
こうして、王の存在を示すことで、世界は四大聖竜の破壊から免がれていた。
その足元で、小さな人々の苦悩を生む事になろうとも、世界はまだそこに在った。




