追記:魔の手
北の空に黄金の光の柱が立ったあの日。
その直後に世界中で災害級の異変が起こった。
その余波は、谷底の小さな村を襲う。
初めに気づいたのは河原で遊んでいた子供たちだった。
いつもは水が流れていた川が底まで干上がっていた。
大人たちにそれを伝えると、皆が大慌てで高台まで避難するよう叫び出す。
村人全員が避難した後に、それは訪れた。
ドドドドドドォ
初めは低い音だった。
そして、その音が大きくなるにつれ空気が変わっていく。
白波を上げながら下流から昇ってくる大量の水。
海からの横暴ともいえる水の暴力が、家々をなぎ倒し田畑を飲み込む。
それは一瞬の事だったが、水が引いた後に残されたものは、倒壊した家と塩害で使い物にならなくなった田畑だった。
数日後、王城から復興のための使節が訪れた。
村の惨状を見た調査員は、復興に相当の時間がかかることを村人に告げる。
貧しい村には、生活を維持出来るほどの蓄えは無く、村人の半数は村を捨てることを決めた。
それでも、故郷を捨てられない村人たちが助けを求める。
使節団は、住居の修復と生活基盤の整備を約束してくれた。
魔術による瓦礫の撤去。
井戸水の浄化。
家屋の創造。
海水で汚染された田畑の浄化。
これらが執り行われた。
「我々が手を貸せるのはここまでだ」
最低限、暮らす事が出来るまでは整えられ、そして去っていった。
これから先は村人の手によって生活を整える必要がある。
当面の食料は配給されたが、しばらくするとそれも底をつく。
元々、弱く貧しい土地に実りは少なく、配給が止まった時点で食料は尽きていた。
残っていた村人も、動けるものから徐々に減り、動くことが出来ない者が取り残されていった。
。。。
「これもだめね。。。」
緑髪の少女が河原を散策している。
少しでも食料になるものが無いか、川の恵みを期待してのことだが成果は無かった。
水の流れは戻ってきているが、津波によって破壊された生態系が戻るのはあと何年も先だろう。
数日前に訪れた、街からの使いによって、新しい王のお披露目を見た。
そこには、あの子の姿が映っていた。
嬉しかった。
きっとこの先良いことがあると信じた。
アインが発現させた黄金樹のおかげで、しばらくの間、食糧問題は回避された。
その木に実る果実は、一口で数日間命を繋ぐ不思議なものだった。
だが、強欲なものがそれを独占し始めると、途端に争いの種になる。
ジルはそれを見てアインの心を踏みにじられたようで悲しかった。
しばらくすると黄金樹は枯れ、恵みは永遠に失われた。
もし少しでも知恵を持った者がいたなら、その実を大地に埋めて増やそうとしただろう。
谷底の村にはそれを行うものが居なかった。
とうとう食糧が尽き始めたその頃、ある噂が村人に広まる。
竜を奉る集団がいて、そこにいけば食料を与えてくれるという。
ただし、そこでは教えに従う必要があると。
以前、多くの村人が宗教を経験したため、そのやり方を受け入れるのは容易だった。
幾人かが信者となるべく教団へ合流を果たす。
そして、教団から度々使節が訪れるようになった。
教団の教えは受け入れるには抵抗があったが、命には代えられない。
生きながらえることが出来れば後から抜け出せばいい。
そう考える村人がほとんどだった。
ジルは、その間違いに気付いて村人を説得したが、村人は聞く耳を持たなかった。
「ジル、もうやめなさい。俺たちもあの人たちについていこう。そうすれば、食事にはありつけるんだから」
「父さん。。。」
ジルは父親の言葉には従うことが出来なかった。
そしてある日の夜。
ガタッ
ジルが寝ていると、物音がして目が覚めた。
「父さん?」
父親が起きたのかと眠い目をこすり目を開けると、複数人の男たちがジルを取り押さえた。
「。。。んーーー!」
声を出そうとするが、口を手で塞がれ叫ぶことが出来ない。
男たちは口に猿轡をかませ、ロープで体を拘束する。
暴れて拘束を解こうとするジルの耳に、父親の信じられない言葉が聞こえる。
「これで、俺たちも教団に迎えてもらえるんだな?」
「ええ、信者として迎えましょう。これからは家族だ」
「っ!」
父の言葉が信じられず、動きが止まり呆然とする。
その間に拘束された体を抱えられ、攫われてしまう。
(アイン!助けて!)
少女は声なき叫びを最後に闇にのまれていった。




