新王の誕生
王城はお披露目の日に向けて、上を下への大騒ぎだった。
焼け崩れた大広間は、土穴族や創成魔術に長けた者が突貫工事で修復し、何とかお披露目に間に合わせた。
来賓として、各一族の代表やその関係者を迎え入れる準備も着々と進んでいる。
アインも魔眼の訓練の傍ら、アイシャに王としての立ち居振る舞いやマナーなどを叩き込まれていた。
「もう、何度間違えば覚えるのよ!歩き方はこうよこう!」
アイシャが手本を見せて、覚えの悪い少年に罵声を浴びせる。
田舎暮らしの少年は、少女の見せる優雅な仕草に感心し、真似てみるもどうもうまくいかない。
アイシャのお手本は、指先から頭のてっぺんに至るまで、すべてが計算されていた。
その動きは王候補として長年しつけられてきた成果だろう。
普段の行動からは想像が出来ないほど、その所作の一つ一つが洗練されていた。
「とにかく、他は間に合わないとしても、歩く事だけは避けられないからね。これだけはしっかり覚えるのよ」
アイシャの言葉に真剣な顔でうなずくアイン。
その後も、少女の罵声は鳴りやまなかった。
そうして、お披露目の日を迎える。
。。。
白磁の門には大勢の古代種一族の代表が集まっていた。
そこには、これまでアイン達と交流のある見知った顔もいた。
「ねえ、とうちゃん。これからアインに会えるの?」
獣族の長の息子サムが父親の袖を引きながら聞く。
「ああ、これからはアイン様って呼ぶんだぞ。あの子は王様になったんだからな」
「。。。ふぅん」
幼い少年には身分の違いなど理解できなかった。
そんなことよりも、久しぶりに友達に会えることが嬉しかった。
草人の長とゴンザの顔もあった。
「魔族領へこんな形で訪れる日が来るとはなぁ。こんな日が来るとは思ってなかったわい」
「弟子の晴れ姿を見るのは嬉しいかな?」
「ああ、どんなに成長したか今から楽しみだ。それに、王城には師匠もいる。会うのは久しぶりだ」
森人の長もいた。
ウェレランとその一行は、普段は森の奥から出てこないため、周りから奇異の目で見られている。
しかし、長命種としての威厳はしっかりしたもので、堂々とした態度で挨拶を交わしていた。
「アイン様。。。よくぞ決意されましたな」
ウェレランは、初めて会った時の幼い少年の姿を思い出し、つぶやいた。
時間になり白磁の門が輝きだす。
魔族領の村々にも使いが出て、投影魔法の術師が配置された。
谷底の村ではジルが、街道の街ではあの姉妹が、何が始まるのかと固唾を飲んで見守っている。
「おーい、ガルフ。もうそろそろ始まるってよ。早う広場に行こうや」
「もう時間か。ここで切り上げるとするか」
鉄を打つ手を止めて、鍛冶師のガルフが広場に向かう。
すでに多くの村人が集まって、投影魔法で作られた巨大な雲を眺めていた。
「お、映り出したぞ」
村人の一人が気付き声を上げる。
「今度の王候補は候補じゃなくて本当の王様なんだろ?どんな御人なんだろうな」
「さあなぁ。何しろ初めての事だからな。なんにしてもわし等には関係ない事だろ」
雲に映像が映し出され、そこで見知った顔を見る。
「ん?!あれは、リタじゃねーか?」
「おぉ、本当だ。軍司様もおる」
映った映像には、王と思われる少年の脇に愛弟子の姿があった。
。。。
アインを、王と認めさせるためのお披露目が始まった。
中央の玉座に座る少年と左側には執政官とカーラ。右側には仲間たちとアイシャの姿があった。
ナージャの姿は無く、直前で体調を崩したとのことだ。
エラランが宣言する。
「長きにわたり、御隠れになっていた王が身罷られ、新たな王が誕生した」
その場にいる全員が、どよめく。
「アイン様こちらへ」
玉座から立ち上がり、前へ歩き出す。
堂々としたその振る舞いは特訓の成果か、アイシャがどや顔で見守る。
眼帯はしておらず、ブルーサファイアのように青かった瞳の片方は赤くなり、神秘的な光を宿していた。
黄金の髪は整えられ、そこに王冠は無くとも、その荘厳さに引けを取ることはない。
立ち止まり、王の唯一の証である剣を召喚する。
「剣よ!我が手に!」
紫焔の宝玉が現れ、金色をした直方体の粒が集まり形を成す。
かつての王が手にしていた伝説の剣が目の前に現れた。
それを見たウェレランが涙する。
一同は目を見張り、その剣を見て言葉をなくす。
「我らが新たな王、アイン様に忠誠を誓おう」
エラランの呼びかけに応えて、はっとしたように皆が拍手をする。
アインが口を開く。
「僕は、ここに来る旅の中で、この世界の苦しみを見てきた。手を差し伸べられることなく苦しむもの。これから起こる避けることのできない災厄の事。そのすべてを、皆と解決していきたい。だから、力を貸してほしい。僕は今、王としてここに在る事を宣言する!」
剣を頭の上に掲げ命令する。
「王命!皆に祝福を!」
「了承。威を示せ。裁定者の黄金律」
その声を皮切りに、世界中で黄金に輝く木が現れた。
世界に祝福を与えるその木の近くにいたものは、精霊化の進行が弱まり、変異した体を少しだけ元に戻した。
その奇蹟を目の当たりにした人々は、新たな王の誕生を喜び感謝した。
その後、村の代表との挨拶を交わしながら歩く幼き王。
獣族の村の代表の前で懐かしい友の顔を見つけ、遠慮がちに覗き見るその少年に向けて、軽くこぶしを握って前に出す。
少年もそれに応えて拳を当てる仕草をして笑いかける。
それだけのやり取りで、友情が続いている事を確かめた二人は、言葉を交わすことなく離れていった。
後日、父が王に会った感想を聞いた時に少年はこう答えた。
「あいつは会った時のままのアインだったよ。俺にとってはいつまでも友達さ」




