根深い確執
「魔術師評議会と連絡が取れないだと?」
エラランが自室の執務室で部下の報告を受けていた。
「はい、我々と人類圏の代表たる魔術師評議会は、人魔戦争の後に接触を絶ってますから。複数のルートで接触を試みたのですが。。。」
人類圏に復帰を果たした古代種の村々の協力を求めたが、積極的に協力してくれた村は少なかった。
それでも、いくつかの村はその主旨を理解してくれた。
その中には、かつてアイン達が逗留していた獣族の村や草人の村も含まれていた。
「冒険者ギルドや魔術師ギルドを通じて、連絡を取りましたがまったく返事がありません」
ある程度大きな村には冒険者ギルドがあり、西側辺境にも魔術師ギルドがある村は珍しくない。
「やつら、一体何を考えている。。。」
絶縁状態だったとはいえ、かつては世界を救うために企てを謀った間柄だ。
正当な理由がある以上、接触を断られるとは思ってもいなかった 。
「ナージャ殿を頼るか。今どこに居られる?」
「今はゲストルームに居ます。ここ数日体調がすぐれないようで、食事も部屋で摂られているようです」
「では、こちらから出向こう。使いを頼む」
部下にナージャへの面会依頼を出させて、数分後、了承の返事をもらう。
コンコン
「ナージャ殿、エラランです」
ノックをして部屋に入ると、ベッドに横たわって気落ちした老婆が立ち上がろうとしていた。
「いや、そのままで」
エラランが静止しナージャは枕を背に身を起こした。
「みっともない姿を見せて悪いのぉ。わしも年には勝てんようじゃ」
「お構いなく。お加減はよろしいのですか?」
「なに、弟子がうるさいもんでな。そろそろ、じっとしてるのも飽きてきたところじゃ」
顔色は良くなってきている。それも本当の事なのだろう。
「それで、わしに何が聞きたいんじゃ」
ナージャはエラランが訪問した理由を聞く。
「魔術師評議会の事です」
「。。。」
予想してたであろう、老婆は黙ってうなずく。
「彼らに接触を試みていますが、未だに返事がありません。ナージャ殿は評議会の重鎮だったこともあるお方と聞いております。お考えを聞かせていただけないでしょうか」
老魔術師は目を閉じ考える。
「評議会と袂を分けたのはずいぶん昔の事じゃからのお。わしの想像も入るが、それでも良いか?」
「ええ、かまいません。我々はとにかく情報が欲しい」
そこで、エラランはいくつか質問をした。
魔術師評議会がこちらの連絡を無視する理由と、どうにか話し合う方法が無いかと。
ナージャが口を開く。
「正直、これまでの評議会の行動も不明な点ばかりじゃ。連絡を無視する理由もわからん」
何かの目的をもって行動をしているようにも見える。だが、あまりにも一貫性が無い。
人類保護を名目に結成された組織が、この危機を見過ごすはずはない。
むしろ協力して当たり前の状況だ。
「これは、わしの想像にすぎんが、評議会はこのことを知っていたのじゃないか」
「。。。もちろん、それは。元は魔術師ダネフの発見ですので、、」
「いや、そうではなく」
ナージャはエラランの言を遮って言う。
「わしが、上層部にいたころには、そのような話は伝承としても伝わっておらんかった。こう見えても大魔術師の名を与えられた者が、公であろうと非公式であろうと情報を隠されることはあるまい」
「。。。たしかに」
エラランが頷きながら先を促す。
「わしが退いた後に、何らかの方法で、ダネフが遺した情報を手に入れたものがいるに違いない」
「心当たりが?」
「おそらく、クラークじゃろう。大魔術師クラーク。ダネフの直系じゃ」
「っ!」
初めて聞かされるその事実にエラランが驚く。
「ダネフ殿の血筋が残っていたのですか?」
大魔術師ダネフのその後の話は伝わっておらず、権力闘争に敗れて在野に下ったか、魔術の暴走で亡くなったなど言われ、彼の本当の最期を知る者はいなかった。
「ああ、わしもその頃お役目があっての。それに関連してダネフの遺した遺産を探す機会があったんじゃ」
そして、会ったのだという。
「暗い目をした子じゃったよ。何もかもを失った。そんな目をしておった」
クラークを評議会で保護することにしたのはナージャだという。
「血筋なんじゃろうな。奴は魔術の知識を驚異的な速さで吸収していった。たった5年でほとんどの魔術に関して習得した」
その天才ぶりは学舎の中でも1,2位を争うほどで、他に並ぶものなどいなかった。
「初めはわしの元で修行をしていたんじゃが、すでに教えることの無くなった奴は魔術師の称号をすぐに取って、己の研究を行うようになった」
その頃のナージャはお役目で忙しく、クラークを気に掛ける余裕が無かった。
少し早いが彼の独立を認め、その後は疎遠になったという。
「そのクラーク氏が、祖先であるダネフ殿の遺産を持っていた。。。と」
話を聞き終えたエラランがため息とともに口にした。
「そういうことなら、つじつまが合う。だが、分からんのは協力を拒む点じゃ」
「そうですね。大崩壊が事実なら、人類全体が一つにならねば食い止められません」
「何か、考えがあっての事か。。。」
アインに対する執拗な追手もそうだ。
1、2回ほど襲撃した後は何も手を出してこない。
それも、少年の力を試すようなやり方で、本気で始末する気はなかったように見える。
ゴウライもいたが、あれは想定外なんだろう。
奴の意思で動いているにすぎず、おそらくこちらが不利になったら、加勢するつもりだったように見える。
不可解な点が多すぎる。
情報が欲しい。
だが、魔術師評議会の協力が得られなければどうすればよいのか?
二人は、今後の見通しについて雲の中を進むような不安を感じていた。




