母の手帳
エラランは異を唱えることなく、アイン達の意思を尊重し、そのうえで提案する。
「アイン様の御心はよくわかりました。しかし、すぐに旅立たなくてもよいでしょう。準備を整える間くらい、きっと世界は待ってくれますとも」
「そうじゃな、それにアイン様の左目に宿った魔眼を使いこなすまでは、城に居てもらった方がこちらも安心じゃしな」
ゴージがちらっとファラを見て言う。
ファラが頭を掻いてつぶやく。
「うちの一族の秘密なんだけどねぇ。まったく。。。」
どこから漏れたんだかと愚痴を言う。
天を仰いでからファラがアイシャ達を見る。
「姫さんのドール。イグナ・ヴァルカと言ったっけ?」
「ああ、なんだい」
「アイン様の魔眼の練習につきあっちゃくれないか?」
「どういうこと?」
アイシャはファラに何を言い出すのかと問う。
「魔眼を使いこなすことは、使役人形を使うことに似ているんだ。姫さんとあんたならその辺は熟知してるだろ」
ファラが言うにはアインの持つ灼煌眼は、火の精霊が宿っている。
ヴァルカとは相性がいいらしい。
「高くつくわよ」
アイシャがニッと笑う。
しばらくの間、魔眼の習得に時間をかけることになりそうだ。
エラランがまとめに入る。
「では、アイン様が魔眼を使いこなすまではこの城に逗留していただいて、それまでに集められるだけ情報を集めましょう。魔術師評議会にも城から使いを出します。それと、正式に王の後継者としてアイン様のお披露目も行います」
アイシャがびくっとする。
「姫、よろしいですね?」
「わかってるわよ。。。」
「どういうこと?」
アインは、そのやり取りの意味が分からず聞いた。
「あたしは王候補じゃなくなるってこと。役目を終えてただの小娘になるだけ。王が決まったらそうなるのは当然でしょ。元々孤児だったし元に戻るだけよ」
アイシャが自棄になって答える。
孤児だった少女の行く末がどうなるか想像は容易い。
「。。。」
アインは、しばらく考えて、エラランに聞いた。
「僕が王になるなら、アイシャを代理としてこの城に居てもらうことは出来ない?」
「御命令とあらば」
エラランは頬を引きつかせて応える。
アイシャが驚いて聞く。
「?。。。あんた、何言ってるの?」
「僕はこれから城にはいられないから、誰かに代わりになってほしいんだ」
「それって、同情?」
少女が睨む。
「違うよ。他に代わりになれる力を持つ人材がいないだけ。君なら強いから」
(本当は、野に放ったら、何をしでかすか分からないからだがな)
俺は坊主の考えを読む。
「ま、まあ、そこまで言うなら居てあげてもいいわよ」
アイシャはまんざらでもないような顔で承諾した。
「じゃあ、魔眼の練習も併せてお願いするね」
「任せておきなさい」
(ちょろい)
。。。
数日前に冒険者の振りをして、アイン達を監視していた黒梟:疾爪は迷宮の最奥で開かれる竜餐の祭りには参加せず、地上に引き上げていた。
そして、光が天に昇ったあの日、世界が震撼するところを目の当たりにした。
活火山の一部から炎が上がり、空は一斉に雲が薙ぎ払われ青一色に染まった。
南の海から津波が押し寄せ、山岳地帯では地鳴りにより山崩れが起きた。
世界の終焉たるやという天変地異は、不思議なことにすぐに収まり何事もなかったかのように静まった。
「なあ、これって。。。」
「だろうね。。。」
「。。。」
「いずれにしても仕事の時間だ。さあ動くぞ」
ジンライが号令を発して皆がそれぞれに行動を開始した。
数日後、アイン達一行が帰還するところを発見する。
そして、少年が掲げ持つ黄金の剣の存在を知る。
。。。
魔術師評議会の総本山、学舎。
その一室に全身に黒いローブを纏った男がいた。
大魔術師クラークは部下からの報告に満足したようにうなずいた。
「王に接触したか。予想通りだ」
「引き続き監視を怠るな」
それを聞いた部下が闇に溶けるように去る。
クラークは鍵を取り出し、豪奢な作りをした机の引き出しの鍵を開けた。
そこにしまってある古びた手帳を手にしてページを開く。
「真に恐ろしきはその知力故の洞察よ。ここまで正確に言い当てるとは。。。お前はこの日が来ることを知っていたのか。。。アリーシャ。。。。」
その手帳のページには「人造魔王における世界への干渉」と、書かれていた。




