王室会議
そこからの、帰りも一苦労だった。
抜け道の修復を行ったり、地下世界側の道を封印したりして、城に戻るために、来るときと同じ時間がかかった。
ようやく王城に戻ると、今度はエラランを筆頭に執政官一同と、一行とはぐれて落ち込んでいたカーラに囲まれ、何が起こったのかを根掘り葉掘り聞かれた。
そこで、地下から昇った光を皮切りに、各地で天変地異が発生して大騒ぎになったと聞き、自分たちがやらかしたことで、地上が大変な目に遭っていた事を初めて知る。
一方、アイン達となぜか一緒にいるアイシャが見つかり、カーラとの逃亡劇が始まったりもした。
そうした、悲喜こもごもの寸劇を経て、ようやく王の遺した言葉と託された内容を落ち着いて検討する時間を持てた。
アイン達一行は王の執務室に全員そろった。
そこは、かつて、王が魔術師ダネフに人払いを頼まれ、決断を下した部屋だ。
他には、王国を運営する執政官7人と、カーラ、そしてアイシャと御付きのヴァルカも居た。
全員が床に座り、王が居た千年前と変わらぬ雰囲気で会議を進めている。
エラランが神妙な顔をして、これまでのおさらいを話す。
「つまり、王の宝具には確かに王の魂が残留していた。そのお言葉から、世界の危機は去ったわけではなく、今も継続中と言う話ですな。。。」
皆が、深いため息をつく。
「あの部屋が、託宣の間と言われた訳が分かりました。。。」
「かつての長たちは、戦いに疲弊していた民達に、追い打ちをかけるような絶望的な話をできなかったんでしょうな。。。」
「それで、魔術師殿、砂時計とはいったい?」
エラランが王の遺した言葉の意味を問う。
ナージャがそれに答える。
「魔力を意味する比喩じゃよ。我ら魔術師は大きな魔法を行使する。そのため、初めに砂時計を意識するように習うんじゃ」
世界には大きな砂時計があり、普段は一定で落ちる砂が、大きな魔術を使うと、その砂が早く落ちると教えられると言う。
「砂が落ちた下にも砂が落ちる小さな穴があり、それがさらに下へ、そしてそれもさらに下に落ちていく。そのため、砂が途中で詰まらないように意識して術を使うことを最初に覚えることになる」
「王の魂はそれが止まると、そう、言ったんだよな?」
カイルがアインに確認するように問う。
「うん、そう言えば分かるって。。。あと、詳しいことは白さんに聞けって」
「白さんですか?」
エラランが初めて聞く名前に戸惑う。
「剣よ在れ」
坊主が、お呼びだ。
目の前に宝具:裁定者の黄金律が現れる。
俺はそれに入り込み言葉を出す。
「あ、は、はじめまして。白です」
執政官達がどよめいた。
大勢に挨拶するのは苦手だ。
「この言葉の意味について、お主が知っていることを吐け」
老婆にそう脅されて、しぶしぶ語り出す。
「さっき、婆さんが言ってた通りだよ。砂時計が止まる。魔術師はそうなるとどうなるか把握しているか?」
逆に老婆に問い返した。
「。。。魔法を使う時の心掛けの様なものじゃからのぉ。その時になって見ないと想像がつかん。そもそも、魔術師の嗜好は魔術を効率よくかつ、如何に強力に使うかに向かうので、その事に注意を払うものはおらんじゃろうな」
「。。。それが、失伝につながった理由か。。。」
魔術師も千年経てば危機感が薄れるらしい。
「じゃあ、想像してみてくれ、もし砂時計が止まるほど、砂がガラスの中に満ちてしまったら」
「そ、それは。。。」
ナージャは言いよどむ。
「魔法が使えなくなる?」
ミリーが代わりにおずおずと答える。
「それだけじゃ済まない。その砂一粒を精霊と考えてみてくれ。溢れることも出来ない力は、周りを巻き込んで動きを止める。そうなれば、世界の。。。死だ。。。」
俺は宣告した。
この世界が抱えた矛盾を。
魔法という無限のエネルギーが、どこからやってくるのかを。
そして、その先に何があるのかを。
この世界の科学水準では、エントロピーの崩壊は理解できないだろう。
いや、俺も詳しく理解出来ていないんだが。。。
「今は、その大崩壊が先延ばしにされているだけということか。。。あの魔法で」
老魔術師が苦渋の声を出す。
「ああ、そして、魔術師評議会が良かれと思ってやっていた、王候補の保護も裏目に出ていたんだろう」
老婆がびくっとする。
その中に、俺やアインと同じように、託宣を聞くことが出来る転生者がいたはずだ。
老婆の手は震え、フードで隠れて表情が見えない。
「なんと。。。なんということじゃ。。。」
小さく震えた声でつぶやく老婆を見つめてエラランが言う。
「正しいと思ってたことが、反対の結果に繋がることはよくあります。魔術師が悪意で行動したわけじゃないことは、ここにいる全員が理解しています。お気になさるな」
そう慰めた。
「そうじゃ、な。ぃ。。」
ナージャは言葉を濁し、それ以上は答えなかった。
気分が悪いと言う老婆をミリーが付き添い、別室に連れて行った。
「それで?これからどうする」
カイルが現実的な話に戻す。
「僕と白さんの意見は一致している。この世界を救う方法を探しに行きたい」
「。。。」
一同が押し黙る。
「なら、決まりだな」
カイルはことも無く同意する。
「あんた、ちっとは考えなさいよ」
リタも相棒の決断の早さにあきれるも、不服は無い。
「ちょっと、待ってください。当てはあるのですか?」
エラランが心配顔で問うてくる。
アインが目的地を言う。
「まずは、魔術師評議会に出向こうと思う。これまでは追われるだけだったけど、目的がはっきりしたからね。彼らの情報が欲しい」
人類の英知が集まる場所。
「俺たちは、どこまでもアインに付き合うよ」
「ああ」
カイルとリタに異論はないようだ。
少年の物言いに、それまでおとなしく気弱だった態度は微塵も感じられない。
この世界を救う勇者としての一歩を、確実に歩み始めようとしていた。




