思いを託す
「俺に何ができるって言うんだ。。。ただ浮いてるだけの背後霊だぞ」
責任の重さが伸し掛かり、心が重くなる。
『俺とこうして話しているのがその証拠だ』
「どういうことだ?」
話が見えない俺は説明を求めた。
『今、俺が入っているこの遺物は裁定者の黄金律と言う失技遺物だ。これはこの世界のあらゆる理を変える』
「あらゆる、理?」
『そうだ、この世界において、唯一絶対の神の力を持つに等しい』
「ならそれを使えば、世界の危機なんかちょちょいと回避できるだろう?」
そんなすごいものなら、それくらい何でもないと思うんだが。
『そうは簡単にいかないんだ。今の惨状はこの世界の外の精霊によって引き起こされる。それは理の外の話だからだ』
「。。。それで?」
『分かるだろう?もし、この世界を救える存在がいたとしたら、この力を持った者だと』
選ばれし者の力か。。。
ゲームや漫画なら定番の話だが、実際に背負わされるとなると、なるほど、これはしんどいな。
「黄金律とはなんだ?」
『魔法では無い力。この世界を正す、古くからこの世界にある忘れられた力だ、それ以上は俺にも分からん』
「うちの坊主が使っていたが、それと同じものか?」
『なん。。だと?』
王が驚いた声をあげる。
『この力を持って生まれた子がいるのか。俺はこの遺物を使うことでしか発動できなかった。その子もお前と同じ特別かもしれないな』
「ここに来る前に会ったでっかい竜がそう言ってたぞ」
『。。。星炎竜に会ったのか」
「ああ、約束の時が近いとか、鍵がどうとか言ってたな」
『。。。そうか、あの時の約束を守ってくれているんだな』
王はしんみりとした声で言う。
「何なんだ?約束って」
『昔、俺が頼んだんだ。世界のやり直しを待ってくれるように。人間にほんの少し時間を与えて欲しいと』
それも、このレリックアイテムを使っての話らしい。
ただし、相手は世界の調律者だ。
話を聞いてもらう事がせいいっぱいで、星炎竜がその願いを受け入れたのは王の真摯な思いに応えてくれたかららしい。
「じゃあ言い伝えの、あんたが手にした迷宮の宝ってのは、星炎竜との約束か。。。」
確かに人類にとっての一縷の希望。。。宝だな。
『お前に伝えるべきことは伝えた。後はその少年にも話さないとな」
そう言うと、王は坊主の時間を戻した。
。。。
「日本人って?」
坊主が聞いたことのない言葉にきょとんとしている。
時間が戻ったようだ。
「ああ、俺たちのいた世界だ。言ってなかったが、俺は他の世界から来た転生人なんだよ」
「転生人?」
これも聞いたことがないらしい。
「転生人ってのは、一度死んで生まれ変わった人の事だ」
「じゃあ、僕の体は本当は白さんの体だったってこと?僕はそれを横取りしたの?」
坊主の目に涙がにじむ。
慌てて、俺は取り繕おうとするが。。。
「そうじゃなくて。。。いや、それもわからないんだ。ただな、アイン。俺は今の状況を結構気に入ってるんだ。お前は違うか?」
「。。。ううん。白さんと一緒にいられて嬉しい」
『。。。』
王の置物からにやにやした雰囲気が伝わる。
「。。。なんだよ」
『いや、お前たちがうらやましくてな。なあ、少年』
「はい」
坊主が緊張して返事をする。
『君がこいつと世界を救う旅に出るとしたらどう思う?』
「。。。楽しいと思う」
「なっ?!」
王がにやりと笑った気がした。
『なら、決まりだな。なんだ、お前よりずっと肝が据わってるじゃねぇか」
王がガハハと笑う。
『受け取れ、二人の勇者よ』
宝具が光だした。
構成されていた直方体の粒でできたパーツが分解し再構成される。
砂粒のようなそれが徐々に形を成す。
そして、切っ先のない剣の姿を現した。
裁定者の黄金律
その剣に切るための刃は無く、世の理をも断罪する特別な形状をしていた。
骸晶構造のそれは所々直方体の粒が剥がれては、周りに浮いている。
鍔元と柄頭に紫焔の宝珠が輝く。
『これで、お別れだ。少年、詳しいことはそいつに聞いてくれ』
「王様、あの、獄炎竜が”邪竜は満足して逝ったぞ”って伝えてほしいって」
『。。。そうか、はは、強情な奴だな』
あの竜とは因縁があって、戦いに明け暮れる竜に王はこう言ったそうだ。
戦いだけではお前はきっと満足しないだろう。お前の力で誰かを救ってみないかと。
その竜は、命乞いを拒んで「闘いこそ我が本望」とぬかしたんだそうだ。
ならば、その命尽きる時にまだそう思うか賭けをしようと。
『奴は最後まで自分を通したんだな。。。賭けは俺の負けか。ん?その目?』
「ああ、竜の呪いらしいな」『ずいぶん気に入られたんだな』
「ん?」
同時に出た感想が真逆で気になった。
『竜眼を託されるというのはその竜に認められたからだ。あいつは灼煌眼を持ってたはずだが、そうか呪いか。。。扱い方を知らないとそうかもな」
「使い方を知ってるのか?」
『知らん』
。。。おい
『おれは知らんが、竜眼=魔眼は有翼族がまれに生まれ持つ者がいる。そいつに聞けば分かるはずだ』
有翼族か、あのチャラそうな姉ちゃんを思い出した。
王は二人に伝える事を思い出してつけ加えた。
『この遺物は本来は転生者二人で使うものだ。二人の裁定が合わなければ力が発動することはない。だが、これからは、お前ひとりで裁定を下し、お前ひとりの力で発動することになる』
それは、強大な力の行使を俺の意思だけで使えることを意味する。
「二人って、もう一人は?」
『俺と入れ替わりにいなくなったよ』
王は寂しげにその時のことを思い出すようだった。
『代々の所有者は、代替わりによりこの剣に取り込まれる定めなんだ。もう俺にはこの力を行使する力は残っていないが、お前たちに受け渡すことが出来てよかったよ』
『それと、魔術師がいたらこう伝えてくれ。。。砂時計は止まると』
「それだけでいいのか?」
『ああ、それで分かるはずだ』
。。。
『これでもう、言い忘れたことはないな。じゃあな、俺はそろそろ逝くわ」
王は家路につくように別れを告げる。
「なあ、森人の長があんたの事ずっと待ってるんだ、何か伝えることはないか?」
『そうか、あいつはまだ生きてるのか。。。エルフは長命だな。じゃあ。。。』
俺たちは王からの託けを受け取った。
『これで、お別れだ』
「王様、ありがとう。僕たちの世界を救ってくれて」
坊主が感謝の言葉を言う。
『最後まで救ってやれなくて悪いな。これからの事はお前たちに託すよ』
「ああ、任せてくれ」
覚悟の決まった俺はそう言った。
『あぁ、誰かに思いを託せるっていいもんだな。。。次に生まれ変わるなら、やっぱり。。。元の世界が。。。いい。。なぁ。。。』
王の声が遠ざかる。
宝具から金色に光る玉が抜けていく。
それは、ゆっくりと天に昇り、やがて静かに消えていった。
この世界に転生し、戦いを生き抜き王になった男が最後に願ったものは、故郷への思いだった。
その魂が、世界を渡り帰還を果たすことを俺は心の中で祈った。




