託宣の間
アイン達一行は立派な扉を前に、ここまでの旅路を思い返していた。
白磁の門で、全員がバラバラになり、皆それぞれ苦労を重ねてここまで来ることが出来た。
各々が、しみじみと思い出に耽り、感慨深く扉を見つめる。
「この扉は、アインが開けるべきだよな」
カイルは、ここまでの冒険の締めくくりをアインに譲ろうとした。
「みんなのおかげでここまでこれたんだから、みんなで開けようよ」
アインは、喜びを分かち合いたい気持ちで一緒に開けたいと言い出す。
ガチャッ
アイシャが先に立って豪奢なノブを回して扉を開けた。
「何ごちゃごちゃやってるのよ、さっさと行くわよ」
こちらの、感傷などお構いなしに空気を読まず、ずかずか部屋に入っていく。
「。。。」
皆ジトっとした目で少女を目で追い、仕方なく部屋に入っていった。
そこは宝物庫と言うより、教会を思い起こさせる荘厳な場所だった。
奥に祭壇のような一段高い場所があり、中央に赤い絨毯が敷かれ来たものを誘う。
そこには、金色の宝具が飾られている。
「あれ?ここに剣が在るはずじゃ。。。」
アインは目的のものが見当たらず狼狽える。
「よく見なさいよ、目の前にあるあれがそうよ」
アイシャは一度見ているので訳知り顔で説明した。
王が姿を消してから、その剣は形を失っていった。
剣としての形状を無くし、ひし形の宝具に変わっていったのだという。
目の前にはその変わり果てた姿となったものが鎮座していた。
ひし形の形状をしたそれは、ビスマスが結晶化したときのような骸晶構造で、幾何学的で不思議な形状をしている。
中央には王の剣であったことを示す紫焔の宝珠があり、そこだけ唯一かつての姿の面影を残す。
「あたしも、前に一度だけここに来たことがあるけど、なんでもないただの宝具よ」
アイシャが無礼にもペシペシとそのオブジェを叩く。
「こらぁああ」
皆が一斉に叱ったその瞬間に、俺と坊主を除いて時間が止まった。
一瞬、紫焔の宝珠が輝いたように見えた。
金色の宝具から、たくさんの光の粒が流れ星のように流れる。
まるで流星のトンネルを進んでいるような錯覚に陥る。
「これって。。。」
『よく来たな、同胞よ』
「え?」
アインは隣に白い人型の存在(俺)が居る事に驚いた。
「え?」
坊主に俺の姿が見えている?
「もしかして、白さん?」
「あ、ああ。坊主、俺の姿が見えるのか?」
「うん、はじめまして?だね」
「お、おう」
なんだか照れ臭い。
『おぉい、こっちも気にしてくれ』
宝具が寂しそうな声を出す。
「あ、悪いっ。。。て同胞?どういうことだ?」
おれは、やけになれなれしい宝具に聞いてみた。
『あぁ、まず確認なんだが、お前日本人か?』
「そうだ」
『じゃあ、同胞で合ってるな』
オブジェには合点がいったようだ。
「日本人って?何?」
坊主が聞いたことのない言葉にきょとんとしている。
『ああ、お前は違うんだったな』
そう言うと、流星の流れる速度が変わり光の線に変わった。
それから坊主の時間が止まり、俺と宝具だけの会話が続く。
「おい、なにした?」
『大丈夫だ、ここだけ時間の流れを速めただけだ、外の人間には一瞬にも満たぬ時間よ』
「。。。それで、あんたが王なのか?」
『ああ、そうだ。まあ、残りカスだがな』
王と名乗る宝具はガハハと笑う。
「さっき、俺のことを日本人かと聞いたな、あんたもそうなのか?」
『そうだ、この世界では千年前のことになってるがな、俺は日本で死んでここに転生した。名は呉井甚と言う』
「俺は。。。」
自分が前世の記憶を失っていることを説明する。
『ほお、それは珍しいな』
「珍しいのか?」
王は興味深げに話を続ける。
『俺の知る限りはな。これまで直接会った事のある転生者は一人だが、ちゃんと記憶は残っていたぞ』
「転生者ってそんなに居るのか?」
転生自体が珍しくなさそうに聞こえたので聞いてみた。
『ああ、少なくとも俺が生きていた時代には数える程度だが何人かは居たぞ』
「千年前ってことは平安時代のころか。あんたその時代の人間か?」
『いや、俺が生きてたのは昭和だ』
「ん?計算が合わんのだが。。。」
『良く知らんが飛ばされた時代が違うみたいだな。まあそれはいいとして』
大雑把な性格なようだ。
『世界は無事なのか?』
「どういう意味だ?」
『言葉通りさ、崩壊は防げたのか、それともまだ起こっていないのか。ここに来る者は子供ばかりで記憶を覗いても分からなくてな。お前は、久しぶりに意思を通わせることが出来た他者だから聞いたんだ。それで、崩壊は起こったのか?』
「待て、話が見えない。一体その崩壊と言うのは何のことなんだ?」
『なに?』
お互いの話がかみ合わず、二人とも黙る。
『まさか、伝わっていないのか?』
宝具の声に緊張感が混ざる。
「だから、何のことだ?」
俺は説明を求めて問い質した。
『。。。簡単に言うとな。俺がこの姿になる前、この世界は滅びる寸前だったんだ』
「へ?」
千年の時を越えての会話で出てきた、世界の滅亡という突拍子のない言葉に、つい、間抜けな声が出てしまった。




