禁断の地へ
「いいですよぉ」
ミリーが合図を出す。
ナージャがうなずいて、呪文を唱える。
「彼の者に偽りの景色を。幻視投影」
ミリーの目の前には、どことも知らない迷宮が広がって見えた。
それは、上も下もない回廊を組み合わせた場所で、無限に広がっている。
見ているだけで平衡感覚がおかしくなる。
「はい!どうぞ!」
「いくぞぉ!せぇの!」
続いてカイルがミリーを抱えて、思いっきり投げ上げた。
「きゃぁ!」
体が受ける感覚によりさらに混乱を招き、上下の違いを分からなくさせる。
「穴よ穿て!」
ミリーが混乱したままの頭で天井に見える先に魔法で穴を穿つ。
「よっと」
カイルが、ミリーを受け止めると同時に幻影が解けて元の景色に戻った。
「失敗か。。。」
「うぅぅ。気持ち悪いです」
ミリーは青い顔をしてうずくまった。
アインはミリーの背中を擦って気遣う。
「大丈夫?ミリー姉ぇ。難しいね。翠脚鞭で壊そうとしても、なぜか力が出ないし。。。」
さっきから、こんなことを何度か繰り返している。
(うーん、うまくいかないもんだな)
俺が提案したのは、幻影魔法で上下を入れ替わったと思えば、暗示が上書きされるんじゃないかと言う内容だった。
日本には、おばけ坂とか幽霊坂という登っているはずなのに、下っている不思議な坂がある。
目の錯覚によるものだが、暗示によって上方向にしか穴があけられないなら、脳を騙せばいいと考えた。
だが、これが一筋縄には行かない。
最初は幻影魔法のみで行ったが、視覚だけでは幻視だと知っているためか、上下が逆になっても魔法は発動しなかった。
そこで、術者の感覚を騙す事を試しているのが今の状況だ。
体ごと放り投げて上下の認識を混乱させる。
何度目かの挑戦だが床を抉るには至らない。
だが、魔法は発動した。
これまで発動することなく搔き消えた魔法が、床の表面を削った。
試みは間違っていない事が分かった。
「もう一歩だな」
「。。。」
「リタ?」
リタが何か思いついたようだ。
「そもそもさ、人の認識が魔法の発動を拒んでるんだよね。じゃあ、ただの器物だったら?」
「あ」
「。。。それだ!」
リタの螺旋の針を経由するなら暗示条件がなくなる。
「やってみようか」
早速、黄色の宝珠を螺旋の針に設置する。
ミリーが呪文を唱え術式を設置した宝珠に組み込む。
床に螺旋の針を突き立て、力ある言葉を唱える。
「穴よ穿て」
突き刺した針が形を変え、中心に黄色の宝珠が現れ光り出す。
針の周囲を黄色の透明な球形の領域が包み、それに触れた床石が消えた。
ぼこっ
その場に穴が空き、支えを失った螺旋の針が落ちていった。
「やった!」
穴の大きさは1m位というところか。
「私の苦労が。。。」
ミリーはこれまでの努力が報われずに泣いた。
「まぁ、まあ。これまで試したことは無駄じゃなかったんだからさ」
リタがミリーの機嫌を取るように慰める。
「どれ。。。」
ナージャが穴の中に入り、探索で発見した空洞へ向けて魔法を放つ。
「洞穴よ掘り進め」
人が通れる程の大きさの穴がどんどん掘り進んでいく。
「ふむ、やはり暗示は床石だけだったようじゃな」
迷宮を構成する石材の破壊を拒否することが、暗示の条件だったようだ。
その下の地面に対しては、問題なく魔法が発動することを確認した。
一行は穴に入って、横穴が掘り進む速さに合わせて歩き出した。
「どうやら、元々、空いていた穴を急いで埋め直したようじゃな」
岩盤にぶつかることなく、掘削の進み具合が円滑な事でそう判断できるそうだ。
目的地に近付くにつれて気温が上昇する。
皆が汗をかきながら歩く。
カイルが疑問を口にする。
「この辺に活火山なんか無いはずだよな」
「。。。」
皆汗だくで答える気力もない。
そうして、進むままに横穴を歩いていった。
「さすがに、もう耐えられんな。皆こっちに来るんじゃ」
耐えられる温度の限界を超えたため、水の結界を張った。
ナージャの周囲に張られた水の幕が蒸発し周囲の熱を奪う。
熱を持った空気が蒸気とともに洞穴の入口へと昇っていった。
そして、目的地の空洞近くまで来た。
「いかんな。。。ミリー、風の結界を。わしが氷粒で強化する」
「はい」
全員を守る様に、氷で白く染まった風の結界が覆う。
掘削が最後の壁を抜けた。
ブォォ
突如として熱風が襲い掛かった。
貫通した洞穴の向こうが赤く見える。
結界が無ければ火傷では済まない程の熱だ。
ゆっくりと出口に向かう。
そして、横穴を抜けて、俺達はそれを見てしまった。
この時、人の子が拝するなど不遜極まりない存在と邂逅する。




