遺物は眠る
足元で稲妻が床を抉り、俺は脚を止めた。
雷の向こうから黒い鎧が迫る。
その手に持つ大剣で少年の体は横なぎに斬り払われ、胴が真っ二つに。。。はならなかった。
小さな体が、斬撃の勢いそのままに吹き飛ばされる。
バランスが取れずに転がりながら、初めにいた戦場まで戻された。
「アイン!」
倒れて動けないリタが叫ぶ。
何とか立ち上がった俺は、今の一撃で受けた傷を修復しながら勝機を待った。
「。。。もう一度」
再び走り出す。
高圧縮された魔力を魔力シリンダーから全開放し、再度、異邦なる機械へ戦いを挑む。
先ほどの攻撃が有効と判断したためか、黒い鎧は再び剣を割り雷撃を放つ。
ピガシャーーン
同じシーンが繰り返し再生されたかのように、俺は足を止め鎧は剣を振るう。
だが、今度は横なぎではなく唐竹割で確実に止めを刺す構えだ。
俺はその斬撃を真正面から受け止めた。
縦に真っすぐに振り下ろされた剣は、今度こそ少年の体を二つに割る威力を持つ。
どーーーん
爆発にも似た粉塵で一瞬両者の姿が見えなくなる。
「アイン。。。」
絶望的な状況にカイルはあきらめにも似た声を出す。
しかし、粉塵の霧が晴れると、そこに見えたのは今まさに鎧に手を触れようとしている少年の姿だった。
俺は、最初に斬撃を受けた時に、一か八かで試していた。
異邦なる機械は黄金の盾の力を黄金律と言った。
それが何なのかは不明だが、この世界にある力である限り、俺なら。。いや、俺達なら使えるはずだ。
白霧の羽衣を纏ったままでは、あの盾は作れなかった。
なら、纏ったままで使える形にすればいい。
すぐに、手甲を思い描き、体の一部を黄金に覆う事を想像し創造した。
金色に輝く両手は黄金の鎧の一部に変化した。
その手甲は黒い鎧の斬撃を受けても傷一つつかない。
そして、最初の斬撃を防いだ俺は勝利を確信した。
大剣の攻撃を受けて、もう一度同じ攻撃が来るように誘う。
一度の成功体験は、人を惑わせる。
その成果が大きければ大きいほどそれに縋ろうとする。
ましてや、鎧の中にあるのは人を模した疑似人格だ。
迷わず同じ行動をとる事は疑いようがない。
先ほどと同じ展開になった時、雷撃の壁に迷わず突進した。
黄金の手甲をかざすと、雷のカーテンは自ら避けるように消えた。
黒い鎧が繰り出す一撃を、手甲で受け流し攻撃を掻い潜る。
火の障壁の目の前まで来ることが出来た。
そして、叫ぶ。
「来い!ラティス!」
俺の手にはリタの螺旋の針が握られていた。
それは、未だに青い光を宿しており、ナージャの術式が生きていることが分かった。
俺は、再び水の精霊を呼び出すために魔力を込めた。
イグナの障壁に螺旋の針を突き立てる。
水色の光が質量を持ったかのように溢れ爆発した。
パリーン
火の障壁が砕け、黒い鎧が無防備な姿をさらす。
「いまだぁ!」(いまだぁ!)
俺と坊主は同時に叫び、鎧の表面に触れた。
スッと体が軽くなる感覚。
吸い込まれるように俺は坊主の体から抜けた。
アインはこの時、谷の村の時と同じような喪失感を感じていた。
俺が異邦なる機械と同化した瞬間、鎧から一糸まとわぬ姿の少女が零れ落ちた。そして、鎧の色が黒から白へと変わっていく。
「危ない!」
気を失っているその少女の体をアインが受け止める。
操者を失った異邦なる機械は活動を停止した。
疑似人格が俺に問いかける。
『操者の人格が変更されました。使用権限を移しますか?』
(いや、いい。使用権を凍結して初期化しろ)
『了解しました。使用権限を凍結し、全システムを初期化します』
異邦なる機械はすべての動きを止めた。
(もう、お前が闘う時代は終わったんだ。ゆっくり眠りな)
過去の遺物にそう語りかけ、俺は鎧から抜け出した。
そして、俺は、坊主の元に戻り、ちょうど、坊主がアイシャに殴られる場面に遭遇する。
。。。
少女の体が、床に激突する寸前にアインはその体を受け止めた。
「あ、あぶなかったぁ」
ほっとする少年。
「う、うぅん」
アイシャは落下の衝撃で目が覚める。
薄眼で目に映ったアインを見つめる。
まだ、頭がぼぉっとしている。
何やら体の感触が心もとない。
「ん゛っ!」
自分が何も身に着ていないことを初めて自覚する。
「あっ」
アインも必死で気が回らなかったが、ようやく裸の少女を抱いていることに気づく。
アイシャが真っ赤になってアインを睨みつける。
ガッ!
少年の顎に見事にアイシャの拳が当たった。
「あ、あ、ああんたねぇぇえええ!」
縮こまって体を隠しつつ坊主を罵倒する少女。
「あたしに何したのよ!このスケベ!」
「誤解だって!落ちてきたから受け止めただけだって!」
アインが懸命に釈明するもアイシャは一向に話を聞かない。
「こないだの、ききっきキスだってそうよ!あんた、あたしのこと好きなんでしょ!」
(うわぁ。メンドクサイことになってんな)
そんなところに戻った俺。
「白さん、代わってよぉ」
泣き顔で交代をせがむ坊主に。
(まあ、これも青春だから。。。ガンバレ♡)
と励ました。
先ほどまで緊迫した状況が続いたのが嘘のように、ギャーギャーと緊張感の無い会話が続いた。
しばらくすると、ナージャたちがカイルとリタを回復して合流した。
最後の戦いは、こうして、締まらない空気のまま幕を閉じたのだった。




