傑作と規格外
最初にリタが動き出す。
残りの二人はアイシャがリタに注意を向かないように牽制する。
先ほどの火の玉に変わり、今度は火の魔力弾が二人に迫る。
こちらの威力も上がっており、迷宮の床に着弾した箇所が溶けて穴が空く。
それを、アインは草人の歩法で、カイルは軽いステップで器用に避ける。
注意が逸れているうちにリタが螺旋の針を床石の所定の位置に突き刺す。
準備が整ったことを指笛で知らせ、その場に待機する。
カイルは、アインと目配せして作戦を開始した。
アインは気配を消し、カイルはわざと派手に気を引くような動きでアイシャを挑発する。
「姫さん、こっちだ!全然あたらねーじゃん!」
「何言ってるか分からないけど、なんとなく馬鹿にされてるのは分かるわ」
アイシャがカイルを標的と定め突進する。
「よし」
狙い通りに誘導できたことにカイルはほくそ笑んだ。
リタが配置した3本の螺旋の針。
その中心に黒い鎧が飛び込んだ。
「精霊の檻!」
予めナージャが術式を組んだ魔法がリタの言葉により起動した。
3本の螺旋の針の形状が変化し、中の宝珠がむき出しになる。
青、翠、黄、それぞれの宿す精霊は、水、風、土。
螺旋の針を媒介に3精霊が同時に顕現した。
「ぎゃっ!」
アイシャが悲鳴を上げた。
それと同時に、使役精霊:イグナ・ヴァルカも苦しそうにもがきだす。
リタはナージャの言葉を思い出し、策が巧くいっていることを確信した。
『精霊にはそれぞれ、苦手とする相手がいるのは知っておるな。4精霊を同時に対峙させると、三竦みならぬ四竦みになる。お前さんのあのナイフをうまく使えばその状態に持っていけるかもしれん』
現に今の状態はそれが実現したように見える。
だが、精霊を顕現させる時間は短い。
その間に次の手を打つ必要があった。
「小僧に。。。いや、白いのに伝えるんじゃ。お前があの鎧を乗っ取ってしまえと」
気配を消したアインが異邦なる機械に近づく。
。。。もう少しで手が触れる、その時。
パシッ!
鎧から何らかの力場が発生し、少年の体が吹き飛ばされた。
『操者が意識を失いました。生命維持を最優先とします。今後、敵性生物の排除に自動的に移行します』
「しゃべった?って誰だ?」
アイシャとは違う落ち着いた女性の声が響き、カイルは混乱した。
『本機は殲滅モードに移行します。周囲の関係者は至急退避してください』
「なんか、物騒なこと言いだしたわよ」
リタが、嫌な予感から距離を取り始める。
黒い鎧の目が怪しげに輝きだす。
そして、その目から一筋の光線が床を舐めるように焼き、その光が床に接触すると爆発が起こった。
どぅどどどどどどどぉぉぉ!
「うぉ!」「ひゃっ!」
カイルと、リタが爆発に巻き込まれる。
獄炎竜との戦いで死の淵をさまよった二人は、ミリーの回復術のおかげでかろうじて動けていた。
ここまで平気な顔をしていたが、戦闘行動によって弱った体が耐えられなくなっていた。
「カイル兄ぃ!リタ姉ぇ!」
アインが二人の安否を心配する。
「に、にげろ。。。アイン!」
動けない二人が床に横たわったまま叫ぶ。
想定した以上に精霊からの跳ね返りが強く、アイシャの意識が飛んだ。
それが、異邦なる機械の防衛機能のスイッチを入れたようだ。
「そんなことできないよ!」
アインは二人を守る様に黒い鎧に立ちふさがる。
「はぁぁぁ!」
再び、黄金の盾を目の前に広げた。
鎧は爆発する光を盾に向けて放ったが、盾はその攻撃を防ぐ。
『敵性生物の脅威レベルを上方修正。障壁の分析を行います。分析結果、黄金律に相当。
破壊を断念。同化吸収を試行します』
女性の言葉が響く。
「え?」
黄金の盾が輝きを失い、形を維持できなくなり元の白霧の羽衣に戻る。
(なにをしたんだ?)
俺は強制的に戻されたことに驚愕した。
鎧の表面がしばらく金色に輝いたかと思うと、元の黒に戻り始めた。
『同化吸収に失敗。しかし驚異の排除には成功。戦闘を継続します』
(もう他に手が無い。代わるぞ!坊主!)
「白さん。。。お願い」
俺と坊主の意識が交代した。
「はぁぁぁぁぁあああああ!」
そして、ゴウライとの戦いと同じように全身に闘気を纏う。
髪が逆立ち白く染まる。
全身に力がみなぎる。
(みんなを助けて)
「ああ、任せろ」
白く輝きだした少年を再び脅威認定した鎧がしゃべりだす。
『脅威。脅威。脅威。判定不能。分析不能。想定外のため全能力を解放します』
すべての力を解放した黒い鎧と白い少年が対峙した。
その時、誰にも目撃されない地下迷宮深くで、歴史に類を見ない戦いが始まろうとしていた。




