黒き鎧
戦いが始まった。
それはかつて無いほどに不恰好な戦いになった。
剣術の心得の無いアイシャは、ただ剣を振り回すだけで戦闘と呼べるものではなかった。
しかし、鎧の性能が高すぎるため、そんな素人剣術でも侮れない。
剣を振れば突風が巻き起こり、こちらの攻撃は鎧の表面で跳ね返される。
しかも、アイン達は、獄炎竜との戦いでほとんどの力を使い果たしているせいで、強力な攻撃を繰り出す余力もない。
小競り合い程度の攻防が続く。
「まずいな。。。」
長期戦となる様相からこちらが不利だと悟ったカイルが呟く。
見た目としては小競り合いに見えるが、こちらは満身創痍、一方の相手は素人だが元気いっぱいだ。
しかも乗っている鎧が桁違いの攻撃力を持つ伝説の兵器ときた。
「一度後退しよう。リタとアインはまだ動けそうなら婆さんとミリーを後方まで援護。できるだけ回復させてやってくれ。俺はあいつの相手をする」
「あんた、大丈夫なの?」
「あしらう程度なら問題ないさ。相手は素人だからな」
だが、重戦車に乗った素人だ。攻撃が掠めただけでも命はない。
リタとアインは頷き合い、魔術師の二人を後方に下がらせる。
「すまんな」
老婆は流石に辛そうだ。
「すぐ復帰するから」
ミリーも気丈に振る舞うも、顔色を見れば無理をしていることが分かる。
「あ、逃げるのね。待ちなさいよ」
アイシャが目ざとく気づき、後方に下がろうとする一団に狙いを定める。
「こっちだ、こっち。俺が相手してやるよ」
カイルがいかにも煽るポーズをとる。
「。。。ハァ、何その態度むかついたわ!」
わかりやすく挑発に乗るアイシャ。
アイシャが剣を薙ぎ払う。
突風に逆らわず、身体をふわっと後方へと浮かせ距離を取る。
アイン達との距離が空き、戦闘のための空間が十分にとれた。
「一丁、相手しますかね」
軽口を叩いて迎え撃つ。
「こんのぉ!」
黒い鎧が突っ込んできた。
防御も何もなくカイルを踏み潰すかのように突進する。
圧倒的な質量差だからこその戦術だ。
アイシャも戦闘経験は少ないが、戦いにおけるセンスには見るものがある。
剣を使っても当たらなければ意味はないと悟ったようだ。
「そうくるか」
カイルはそれも想定していたようで、闘牛士のように華麗に避けた。
ずさぁああ。ごろごろ
伝説の機械がすっころんで転げまくる。
「なんなのよ!この体デカいだけでうまく動けないじゃない!」
アイシャのイライラが最高潮に達した。
「そもそも、あたしを戦わせてんじゃないわよ!来なさい!ヴァルカ!」
アイシャは使役人形を呼び出した。
火の精霊が黒い鎧の姿に重なる様に現れる。
アイシャがいつものようにドールを動かすと、異邦なる機械も自在に動いた。
「なんだ、初めからこうすれば良かったんじゃない」
得心するアイシャ。
カイルは気が気ではない思いで事の流れを見ていた。
「おいおい、まじかよ」
「さあ、やっておしまい!」
アイシャの指示で火の精霊=異邦なる機械が炎の魔法を発動する。
火の玉を片手で持ち上げる。
その大きさは普段とは比較にならず数十倍の大きさとなり、まるでこの場に太陽が出現したようだ。
「あー、終わった」
その巨大な玉の攻撃範囲を思い、カイルは逃げる事をあきらめた。
火の玉が手から離れカイルに向かう。
その時、アインの叫び声がした。
「カイル兄ぃ!下がって」
カイルと火の玉の間に巨大な黄金の盾が現れる。
獄炎竜との戦いで見せたあの黄金の盾が、巨大な太陽と化した火の玉を押し返す。
アインが戦闘に戻り、盾を出現させた。
しかし、獄炎竜のブレスすらものともしなかった黄金の盾が、今度は押されている。
アイン自身の力が落ちていることも理由だが、その魔法の威力は想像を越える。
盾の防御によりわずかな時間を得たカイルは、すぐさま行動に移し攻撃範囲から逃れた。
アインは盾の角度をうまく変えて火の玉を斜め後ろに逸らした。
誰もいない空間に火の玉が着弾し、その場を瞬時に溶かす。
大きさだけでなく熱量も数倍上がっているようだ。
アインとカイル、そして、少し後から来たリタが合流する。
「どこまで通用するか分からないけど、ナージャから策を授かってきたわ」
リタが簡単に説明し作戦が決まった。
ヴァルカの上半身だけが、背後に幻のように映る黒い鎧の前に3人が並んだ。
ほぼ完璧な魔法防御、物理防御に加え、魔法の力を数段上乗せする古代のチート兵器に3人が挑もうとしていた。




