竜の呪い
「勝った?」
「勝てたのか?」
カイルとリタが信じられないものを見たようにつぶやく。
息も絶え絶えのアインは膝をつきようやく顔を上げる。
『うーむ』
そこに念話の声が届く。
全員に緊張が走る。
斬り飛ばされた竜の首がこちらに視線を向ける。
『なに、驚くことはない、小さき者。我はもう滅びる』
その言葉通り、体が形を維持できなくなり徐々に骨がむき出しになっている。
魔力により、種の寿命を超えて存在しつづけていたのだろう。
『そこの小僧はあの男に連なる者か?』
王のことを知っているのか、その目は懐かしそうだ。
「わからないけど、そうらしい」
『ふふふ、そうか。わからんか。しかしお主が見せた力はあの男のものだった。千年前も敵わなかった。強いな、お前たちは。。。』
『これから、あの男に会いに行くのだろう?ならば伝えてくれ、邪竜は満足して逝ったと」
「うん、分かった。伝えるよ」
長く恐怖の象徴だった紅い竜は満足そうに目を閉じた。
『ふふふ、呉井よ我の勝ちだ。。。』
竜燐が崩れ、肉が解け、頭蓋がむき出しになる。
額にあった紅い精霊核が崩れ粉になって消えた。
「がぁぁぁっつ!」
アインが急に左目を押さえて苦しみだした。
「っ!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「アイン!」
ミリーが近づいてアインの目を診ようとする。
「いかん!下がるんじゃ」
ナージャがミリーの肩をつかんで引き剝がす。
上を向いたアインの左目から火線が上空に向けて吹きあがる。
「な!?」
「どういうこと!?」
「。。。これは、竜の呪いじゃ。魔眼を受け継いでしもうたんじゃ」
「っ!?」
「婆さん、どうにかならないのか!?」
「。。。わしらには手に負えん。魔眼の存在自体が伝説級で過去に研究された事がないんじゃ。とにかく、小僧!目を閉じて何も見るな!」
アインは涙を流して痛みに抗おうとしている。
「。。。そう言われても。。。」
徐々に火線が収まりつつあり、目を閉じることが出来た。
ナージャが布を取り出してアインの左目を隠すようにきつく縛る。
「気休めじゃが、何もないよりはましじゃろう」
絶対に目を開けないようにと厳しく言われた。
そして、また部屋が光に包まれる。
。。。
「まだ、あるのかよ。。。」
新たに飛ばされた部屋は、広いには広いが迷宮の中に見えた。
自然物は無く、石造りの床や壁が均等に敷き詰められた空間。
どこにも出入口は無く、空気穴さえあるのか分からない。
全体を把握するには広すぎて、反対側の壁は暗くて見えなかった。
全員が満身創痍で満足に動ける者はいなかった。
魔術師の二人は魔術を扱うための精神力が回復していない。
それでも、この迷宮は戦いを求めた。
一行の正面に、何かの人工物がある。
人型のそれは、鎧のように見える。
「。。。!」
ナージャがその正体に気づいたようだ。
「こんな所にあったとはな。。。」
「婆さん、あれは何なんだ?」
「?」
「千年前の人魔戦争。それを終わらせた兵器じゃよ」
「え?!じゃあ。。。あれが」
「そうじゃ、異邦なる機械、その試作品じゃ」
当時の魔術師の技術の粋を集めた究極の兵器。
大きさは山よりも大きいと聞いていたが、目の前のものは3m程度のようだ。
「試作品じゃからな。大きくする意味がない。だが、性能のほうはオリジナルと同じじゃ」
それって、体は小さいが中身は化け物ってことじゃ。。。
サイズダウンした分、力の大きさがアンバランスすぎじゃないか?
魔術師評議会も当時の技術を知る上で、貴重な資料になるため長年探し求めていたそうだ。
こんな迷宮の奥にあっては見つかるはずもない。
「だけど、あれって誰かが乗らないと動かないんだよね?」
リタが、ナージャに確認する。
「ああ、そうじゃ。操者が操らなければただの魔鉱の塊にすぎん」
「じゃあ、あんし。。。ん?」
そう言おうとしたリタが目をむく。
「。。。動いてない? あれ」
キィィィイイイン。
モーター音のような甲高い音を響かせその黒い鎧が立ち上がった。
黒く磨き上げられたその表面がきらりと光る。
淵には精巧な細工が施されている。
それは古代文字で、魔術による強化がされていることが見てわかる。
「馬鹿な?!操者がおらんのだぞ、勝手に動くわけが。。。」
『なになになに?!ここどこよ、なんで、あたしこんな事になってんの?!」
くぐもっているが聞き覚えのある声が、鎧の方向から聞こえる。
「。。。」
「。。。この声は」
「まさか。。。」
「あの姫さんか。。。」
「アイシャ?!」
全員あきれたり、途方にくれたり、頭を抱えたりしている。
「ん?誰?」
こちらに気づいたようだ。
「おぉぉい、アイシャ見える?僕たちだよ」
「何かいるわね、あたしをこんな姿にしたのあんた達?!早く戻しなさいよ!」
こちらの姿が見えているわけではないらしい。
「うぅぅ、頭がぼぉっとしてきたぁ。体があついぃぃ」
何やら中では大変なことになってるようだ。
「あんたたちを倒せば解放されるのね?!きっとそうよ!」
熱に浮かされた頭で、勝手に思いつき勝手に納得した。
鎧の影響か、普段からぽんこつな思考が更にぐらついているようだ。
黒い鎧騎士姿のアイシャが腰の剣を抜く。
抜刀の勢いで剣を振ると、そこから剣圧となって空気を切り裂く。
ごぉおお
ただそれだけの行為が、突風となってアイン達の体をさらう 。
「ねぇ、あれと戦うの?」
リタが表情を固めて尋ね、皆が深いため息をついた。




