辛勝
俺たちは岩陰に移動した。
「言うてはみたが、あれを倒すのに使える術を使えるのは1度だけじゃ。お主らで隙をつくるんじゃ」
「でも、あの攻撃。どう防げばいいか分からないよ」
カイルとリタをいきなり炎に包んだ攻撃の事をアインは警戒した。
ナージャが思い当たる節を語る。
「あれは、おそらく魔眼じゃ。竜眼とも言うが、長く生きた竜種に備わる特殊な能力じゃ。あの竜は相当な年月を生きているのじゃろう」
視界に入らなければ能力は発動出来ないらしい。
結界がある程度有効だったのはそれが理由か。
「お前さん、敵の視界に入らずに闘うのは得意じゃろ」
ナージャがにやりと笑って言う。
ゴンザに教えてもらった草人達の闘法が役に立つことに気付く。
「わかった。やってみるよ」
アインは極限まで気配を殺し、背後から獄炎竜に近づく。
人の姿の数倍も大きく、死角の多い体は身を隠すには容易く感じた。
しかし、獄炎竜はその動きを読む。
『そこか』
「っ!」
長い首を背後に向けて少年の姿を捕えようとする。
人には無い感覚で敵を感知する能力でもあるのか、的確に少年を追う。
アインは体の小ささを活かし、背後から腹の下、翼の影と滑るように移動し視界から逃れる。
『ちょろちょろと、煩わしい虫め。ならこれならどうだ』
焦れた竜が、ミリーの方に首を回そうとしている。
「くっ!」
ミリーの姿が竜の目に映るその瞬間に、アインがミリー達を守ろうと竜の前に立ちはだかる。
結界による障壁で視界を遮るも動きは止められ、障壁も瞬時に焼かれる。
(まずいまずいまずいまずい)
アインは心の中で焦燥感が膨れ上がる。
それと同時に、大事なものを守るための力が沸いた。
その時、少年の中で何かがはじけた。
「守れ!」
体に纏った白霧の羽衣となっていた俺は、坊主の言葉ではじき出され竜との間に押し出された。
薄い衣だった姿が強固で巨大な黄金色の盾に変化する。
その黄金の盾は魔眼の力をものともせず、竜の脅威から皆を守った。
『。。。なんだ、それは。ふざけるな。貴様がなぜそれを遣えるのだ!?』
獄炎竜は、これまでの余裕のある態度から一変して焦り始めた。
『認めぬ、我は認めぬぞ!』
首を逸らせ大きく喉を膨らませたかと思うと、その口から極大の炎を吐き出した。
黄金の盾はその炎の奔流にもびくともせず、次々に吹きかけられる炎は、その表面で火の粉でも払われるように霧散した。
竜はブレスの攻撃が効かないと見るや、体の周りに炎球を出しその手で掴むと槍のように変化させて投げつけた。
盾はその攻撃もはじき返す。
獄炎竜がなぜか盾に執着し、次々と攻撃を繰り返す中、アインは盾をそのままにして、竜に見つからないように移動する。
右方向の岩陰に移動し、生命の宝珠を使い翠脚鞭の準備をする。
岩陰から飛び出す。
翠の臨光を纏った脚を振りぬこうとした時に、竜の首がこちらに傾く。
『甘いわ!』
竜の目が少年を捕え、体が燃え上がる。
「がぁ!」
少年は竜のその目に姿をさらした自分を後悔した。
「させるかぁぁ!」
復活したカイルの投げた剣が竜の目に突き刺さる。
「ぐるぉぉぉぉぉぉ!」
魔眼の効果が切れ、炎の中から少年が躍り出る。
「はぁぁぁぁぁぁああああ!」
鞭のようにしなったその脚から、何物をも打ち砕く衝撃波が放たれた。
それは巨竜の顎に見事に命中し、その巨体を引きずるように弾き飛ばした。
回転しながら着地したアインが見たものは、怒り狂って暴れ始めた竜の姿だった。
そこには意思を持ったものの理性は無く、ただ目の前の物を破壊する衝動だけが感じられた。
「じたばたすんじゃないわよ!」
リタが3本の螺旋の針を投げた。
3本の針の中心に獄炎竜が入る。
「冷気爆発!」
ミリーが力ある言葉を発し、竜に凍結魔法を放つ。
しかし、永遠の炎を身に宿す獄炎竜には、その鱗を凍らすまでで、それ以上は凍結しない。
カッ!
ミリーの魔力に反応し、螺旋の針が輝き形状が変わった。
そして、その刀身から冷気が噴き出す。
リタが組み込んだのは何物にも染まっていない透明な宝珠。
それを入れた螺旋の針はミリーの放った凍結魔法を吸収し、その威力を3倍にして発動した。
これまで表面の鱗で止まっていた冷気の浸食が、徐々に内部まで浸透していく。
獄炎竜の内部から溢れる炎と凍結魔法がせめぎ合い、暴れていた体が止まった。
「大地の巨剣!」
じっと、機会をうかがっていたナージャが魔法を放つ。
大地から、獄炎竜の体の大きさを越える巨大な剣が現れた。
「今じゃ!小僧!白いの!」
「白さん!お願い!」
(任された!)
黄金の盾に変えていた姿を解き放ち、巨大な剣に向かう。
そして剣と一体になる。
勇気の巨剣
巨剣が白き炎を纏い、白い光で輝きだす。
坊主が剣を構える姿を取り、剣を持っているかのように振りぬく。
巨大な剣が一閃し、竜の首を跳ね飛ばした。




