死の部屋
アイン達は、岩陰に隠れ作戦を練ろうとしたが、碌な意見が出なかった。
それというのも獄炎竜に関しての情報が無さ過ぎて、噂話しか聞かないからだ。
「獄炎竜に遭遇して生きて帰った冒険者はいないっていうのは事実なんだよな」
かろうじて救援要請が入ってもその場に残っているのは、消し炭になった死体だけで獄炎竜はすでに去った後だという。
火の精霊を使役するらしいという情報だけで、作戦を立てようにもお手上げ状態だった。
「仕方ない、観察しながら様子を見よう。。。」
そうカイルが判断した時だった。
『小さきものよ、我に挑むのなら早くしろ。そちらが動かぬなら、こちらから始めるぞ』
「これ念話です。信じられない魔物が。。。」
ミリーはあり得ないと話す。
「様子見もさせてくれないのか。。。」
カイルがあきらめたように言う。
どうやら、こちらの位置は把握されているようだ。
「隠れても意味がないなら堂々と行くしかないな」
一行は覚悟を決めて立ち上がった。
竜の居場所までは少々時間がかかった。
ここが迷宮の一部屋だと忘れるほどに山は広大だった。
ナージャは先ほどの場所に置いて来た。
あの場所なら、戦闘が始まっても巻き込まれることは無いだろう。
道すがら、思いつく限りの強化魔法を掛け、戦闘に備えたがまるで安心が出来ない。
アインはカイルが震えていることに気付き、手を握る。
「。。。」
カイルは自分が震えていることに気付いていなかった。
「大丈夫、大丈夫だ。。。」
アインを不安にさせまいと、空元気を出す。
(しっかりしろ、俺)
カイルは守ると誓った小さな存在を思い出し、恐れを英気に変えた。
リタはそんな二人を見てふと目を落とし、覚悟を決めた目で先を見つめた。
師匠不在のミリーは、ずっとぶつぶつと言って落ち着かない。
「私がしっかりしないと、皆を支えなきゃ、わたしが。。わたしが」
ミリーの様子がおかしかったが、皆自分たちの事で手いっぱいで、とても周りを気にする余裕が無かった。
この時からだ。皆の間で歯車がかみ合わない、いやな空気が漂い始めていた。
そしてその時が来た。
目の前に紅い竜がいる。
紅き竜鱗は自ら輝きを放ち、身動きするたびにその間から炎がちらちらとのぞき見える。
その姿は、力なき卑賎な者には死そのもののように見えた。
全長10mを超える炎を従えし者は、彼に挑もうとする小さな者に語りかけた。
『我の前に姿を見せた蛮勇は認めよう』
皆が、その言葉を聞きその者の目を見た時から体が動けなくなっていた。
真に恐怖を与えるモノの前では、人の勇気は霧散し果てることを知った。
皆が一様に同じことを考えていた。
(こんなモノを相手にするなんて)
フッ
竜が笑ったように見えた。
「ぐぉおおおお」
「ぎゃぁぁぁ」
その瞬間、カイルとリタが炎に包まれた。
地面でのたうち回る二人にミリーが駆け寄る。
動きが静かになり、黒焦げになって横たわる二人を見た少女は半狂乱になる。
「す、すぐか、かい、回復します!ま、まままって、」
言葉も回らず、慌てて袋から取り出した宝珠をまき散らす。
「あ、あああ。何を、何をすれば、私がれ、冷静にな、ならないと」
慌てれば慌てるほど手が震え足元がふらつく。
『なんだ、反撃しないのか』
また、竜が笑う。
じゅ!がしゅっ!
ミリーが目を上げると、アインが氷の盾を構え守っていた。
盾はすぐに溶け砕ける。
アインは正体の不明な攻撃に、片っ端から防御系結界を試した。
水、風、土、火までも試したがすぐ霧散してしまう。
だが、ほんの少しの時間稼ぎはできる。
「ミリ姉ぇ、しっかり!」
少年が少女を勇気づける。
少女は泣きながら弱音を吐く。
「アイン。でもどうしたらいいか分からないのよ。二人が死んじゃった。。」
「これ!魔術師はいつも冷静にと言っておるじゃろうが!」
ナージャの声が聞こえた。
後から急いで追いついてきたせいか息が荒い。
老魔術師は弟子を叱責し、二人をよく見るように言った。
「うう、」「んぐぅ」
黒焦げになった二人の体が動く。
「まだ生きてる!」
事前にかけた強化がかろうじて二人の命を繋ぎとめていた。
ナージャが合流し、ミリーの肩に優しく手をのせる。
「出来るな?」
「はい、はい!必ず助けて見せます」
ミリーの目に光が戻った。
カーラから預かった宝珠を二人の周りに置く。
置き方や大きさに注意して今の二人の状態に合わせた陣を描く。
「生命の光を宿す繭よ、ここに! 再生の光」
そして、魔法の繭に二人は包まれた。
「ミリーはここで結界を張って二人を守るんじゃ」
ナージャが指示を出す。
「小僧!白いの!あのトカゲを倒すぞ!」
「うん!」
(わかった!)
3人の心が一つになった。




