参の部屋
白い世界が徐々に色を取り戻し、周りが見えてくる。
そこは、やはり先ほどとは違い、緑豊かな山をくり抜いてそのまま部屋に持ってきたような空間だった。
部屋の中央にある召喚門らしき石柱以外は自然の山そのものに見える。
「なんだか懐かしい気がする」
アインはどこか懐かしく感じる緑深い森に、もう戻ることのない故郷を思い出していた。
「皆、油断するでないぞ」
ナージャは警戒するように周りに注意を払う。
先ほど探査でこちらの場所を知られた反省を踏まえ、今回は探査魔法の使用は控えた。
「婆さん、どう思う?」
カイルがナージャにここまでの連戦について意見を求めた。
「おそらく、強敵をぶつけて力を削ぐのが目的じゃろうな。わしら魔術師にとって連戦は避けるべきなんじゃが。。。勝利すればすぐに次が現れてはな」
精神的な負担が大きい魔術制御を立て続けに行うことは難しい。
ミリーはすでに肩で息をしていて戦闘に加われるのもあと1,2回が限度だろう。
「はぁ、はぁ。。。大丈夫です。まだ戦えます」
「。。。気概は買うがな。しばらく休んでおれ。わしとおぬし両方が倒れてはパーティが瓦解する」
老魔術師は若い弟子を窘めて無理をさせないように諭す。
「。。。はい」
ミリーはその言葉の意味を正確に理解し師匠の言葉に従った。
そう、魔術師は最後まで生き残らなければならない。
例え仲間を犠牲にしても、全体が生き残るために冷徹な判断を選択する義務がある。
「とはいえ、こうも立て続けで終わりが見えんとなると、物資も底を着くのは時間の問題だしな」カイルが冒険者らしい視点で今後の見通しを不安がる。
ほとんどの物資は、荷運びに任せていたため個人装備での長期探索には限りがある。
皆、すでに一端の冒険者であり、物資すべてを預けるという事はしていないが、持って2日分の携帯食糧を節約する必要がある。
この世界の冒険は水の心配がいらないため、携帯食料でやりくりできるのは幸運と言える。
戦闘中に下ろした背嚢も一緒に飛ばされるのが唯一ありがたい。
最初の部屋の扉を開けてから一刻程の間に2回の戦闘。しかも相手は魔物の中でも最強クラスの竜との連戦は、精神的にも肉体的にも疲労の溜まり方が違う。
戦闘中に食事を取らざるを得ない状況であり、戦闘が始まる前に軽く補給しておきたい。
「俺が警戒しているから、皆何か口にしておいてくれすぐに交代だ」
カイルが指示を出し、宣言通り周囲を警戒する。
皆が小麦粉を丸めたような物を取り出し水をかける。
火で炙ると、膨らみだしてパンに変わった。
発酵を魔力により、一気に進むように開発された携帯食のパンで冒険中の食事としては一般的だ。
皆が食事を終えて、カイルと交代する。
リタがカイルに自分が代わりに作ったパンに干し肉を挟んだものを渡す。
「来たようじゃぞ」
「食事くらい落ち着いてさせろよな」
魔物にとっては、その食事が自分達なんだろうと考えるといやになる。
急いで食事を終え、戦闘準備に入る。
姿を現したのは、蛇の鼻が先の尖った尖角となり、頭に2本の角をはやした無足の竜。
土の精霊を従える、轟土竜
その大きさは2m位と小型だが、群れで行動するため少人数だと不利になる。
目の前に現れたのは1匹だが、そばに数匹隠れていると思ったほうがいい。
シャァァァァ。ヴウゥーン
その一匹が威嚇するようにうなり、同時に高周波の唸る音がした。
3つの角がかすかに震えている。
「あれは、わしには相性が悪い」
硬度に秀でた土の魔法でも、細かい振動が加えられるとたちまち脆くなる。
ナージャの土系魔法はほとんど封じられたに等しい。
「くるぞ」
轟土竜がまっすぐに向かってくる。
間の木々や岩などお構いなしで、木はなぎ倒し岩は砕きながら突っ込んできた。
「石の壁」
ナージャが竜の目の前に石の壁を作る。
しかし、勢いを止めることはできず、石壁は砂で作られていたかのように粉塵と化した。
「気休めにもならんか。。。」
ぱぁーん!
そこに、アインの翠脚鞭が轟土竜の尖角を迎え撃った。
パリッ
インパクトの瞬間青白い火花が散り、振動と波動がぶつかり合う。
威力のほどは互角と見え、お互いに反対方向へ吹っ飛んだ。
旋回しながら体勢を立て直すアイン。
翠脚鞭が通用しなかったことに動揺が走る。
お互いに力の性質が似通っていたため、威力が相殺された結果だ。
がっがっがっが
轟土竜は、獲物を貫けない苛立ちを露わにして仲間を呼ぶ音を出した。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
低い地響きが鳴りはじめ、山が動き出したように見えた。
十数匹の轟土竜が山を崩しながらこちらに向かってくる。
土石流となりすべてを飲み込む勢いで山が崩れ出した。
木や土、岩が奴らの尖角に崩され土砂となってアイン達を飲み込んだ。
「皆こっちへ!」
ナージャが塹壕を作り皆が飛び込む。
土砂には押しつぶされずに済んだが、完全に生き埋めにされた。
「しばらく時間が稼げそうじゃな」
轟土竜がアイン達を見失ったのは間違いないだろう。
危機は去っていないが時間的な猶予が出来て皆ほっとしていた。
「しかし、あれじゃあこちらから攻撃する方法が無いな。。。」
「1、2匹ならともかくあの数ではね」
カイルとリタもお手上げのようだ。
「。。。」
ナージャが黙り込んで考えている。
「婆さん、なにか考えがあるのか?」
老婆の様子を見てカイルが問う。
「一つだけ、使えそうな魔法がある。。。」
「お師匠、まさか。。。」
ミリーが不安げに問いかける。
「この魔法はわしでも制御することが難しい禁術じゃ。失敗すれば全員が消え去ることになる」
「。。。」
皆の生唾を飲み込む音がした。
「このままじゃ、手立てがないのも事実だ。婆さんの案に賭けるよ」
カイルが代表してそう答えた。
作戦が決まり、皆が覚悟を決めた顔をする。
「皆、準備はよいな。蝮退治じゃ」
ナージャの号令で行動を開始した。




