壱の部屋
迷宮探索の続きは3日ほど待たされた。
地下都市の調査が本格的に行われ、街の人間が生活するに十分な環境が整っていることが判明した。
魔物の侵入も確認されず、理想的な生活空間が新たに与えられたようなものだ。
城下町の過密な生活環境を解消すべく、エラランたちは一部の民に移住を呼びかけた。
その結果、人々が地下都市へと移り住む気運が高まっていた。
残る問題は、45階層以降の魔物の動向だ。
先遣隊を派遣して、何度かの突入を仕掛けているが未だ戻ったものはいない。
これ以上犠牲者を出すわけにもいかず、エラランたち執政官は先に進むべきか二の足を踏んでいた。
アイン達は迷宮の深部を目指す事を決意し、先遣隊に続き45階へ向かうことをエラランに告げた。
当然反対されたが、この先に進むことは最初から決めていたことで、危険は承知の上だった。ナージャたち仲間からの説得もあり、ようやくエラランも折れてくれた。
「ここから先に進む事を、もう止めはしません。その代り私たちも最大限支援させていただきます」
そういうエラランは、カーラの同行に加え十分な物資と担ぎ手を数人用意した。
44階の地下都市。
アイン達の探索隊が45階へ向かう姿がそこにあった。
そこにアイシャの姿はなく、どうやらエララン達の厳重な監視から、抜け出せなかったようだ。
街の様子は昨日とは変わり、人の往来が多い。
安全を確認できたところから、地上の住人が徐々に移り住んでいっているようだった。
45階へ向かう階段を降りた先には扉があった。
「この扉を開けて進んだ者は未だに戻っておりません。ここからは引き返すことは出来ません、みなさんよろしいですね」
カーラは皆の覚悟を確かめるように語る。
全員がうなずいたことを確認し、カーラが扉を開ける。
そこは広い空間だった。
上を見上げるとかなりの高さがあるようで、天井が見えない。
「なんなんだここは?」
荷運びの一人が気味が悪そうに言う。
迷宮の一部には見えないその広大な空間には、皆が不安を覚えていた。
しばらく歩くと前方に白い柱でできた建造物が見えた。
「?」
「これは。。。」
転送門そっくりのそれは、外にある物と比べて大分小さなものに見える。
そして、一行が近づいた時それは輝きだした。
「っ!」
光が収まった時一行が見たものは、旋風竜と迅雷竜の群れだった。
「これは。。。召喚門か」
特定の場所から、一定範囲の魔物を召喚する古代装置。
敵の数は旋風竜5に迅雷竜3。
「カーラ殿、ここを任せられるか?」
「承知」
「疾風を纏え」
一行は、ミリーの強化魔法を合図に、竜の攻撃を警戒しながら散開する。
カーラは宝珠を取り出し、荷運びの人足を一か所に集めた。
「金剛殻」
地系魔術の最硬度結界を張り皆を守る。
上空への攻撃手段を持っているのは、魔術師の二人とリタの螺旋の針だ。
そのため、前衛の二人はおとりに徹することになる。
アインはカイルと目を合わせうなずくと、白霧を纏う。
幾重もの透明な衣が身を包む。
そして、一匹の旋風竜に狙いを定め、教えてもらったばかりの魔法を放つ。
火の魔術弾
上空の敵はあっさりとその弾を避けてしまう。
しかし、注意を引くことには成功したようだ。
迅雷竜を残し、旋風竜の5匹がアインに群がる。
一定の距離を保つと不可視の風の刃を刃を放ってきた。
「くっ!」
こんな小技まで使うとは思っていなかったアインが一瞬焦るが、強化された「纏い:白霧の羽衣」の前では体に触れることも出来なかった。
「アイン!こっちだ!」
準備が出来たことを知らせるために、カイルが方向を示す。
3匹の旋風竜を引き連れて、リタのいる場所へ急いだ。
疾風加速陣で加速された上に、宝珠で炎を纏った螺旋の針が旋風竜に向かって飛んでいく。
3匹の旋風竜に狙い違わず命中したそれは、風纏う竜を炎の渦に包み込む。
焼け落ちて、のたうち回る竜にカイルとアインがとどめを刺す。
3人の息の合った戦いにより、残り5匹となった。
迅雷竜を受け持ったのはナージャとミリーだ。
ナージャが避雷針を立ててうまく迅雷竜の雷撃を誘導する。
攻撃が当たらずに焦れて近づいて来た竜を土の結界に閉じ込める。
丸い土の塊になった迅雷竜にミリーの魔法が放たれる。
「風の鋸」
風の刃を束ねて丸鋸状にして土の結界ごと切断する。
迅雷竜はその力を封じられたまま絶命した。
残る竜は旋風竜2匹となった。
二匹は体勢を立て直そうと上空高く飛び上がった。
そして、咆哮を上げながらアイン達とナージャ達に襲い掛かる。
アインが翠脚鞭を放つのと同時に、ナージャも魔法を放った。
それぞれが、旋風竜の攻撃に真正面からぶつかる。
「翠脚鞭!」
「大地の剣」
アインの蹴りが竜を穿ち、ナージャの魔法により生じた、大地からせり上がった石の剣が竜を貫く。
すべての竜が倒された。
すると、石のオブジェが再び輝きだした。
「っ!」
カーラがその光に視界を奪われ、再び視力が戻った時には5人の姿はそこになかった。




