迷宮探索
石造りの門を抜けると、迷宮探索の始まりだ。
後から作られたであろう門扉とそれを守る門番がいる。
門番が話しかけてきた。
「お話は伺っています。アイン様ご一行ですな。今から扉を開けますのでしばしお待ちを」
「私もいるわよ」
門番がアインにしか注意を払っていないことが気に入らないのか、アイシャが前に出る。
「?。。!」
アイシャの姿を見た門番は驚き慌てた。
「あああ、アイシャ様?!。我々は報告を受けておりませんぞ」
「あぁすまん、急な話だったので連絡が出来なかった。エララン殿に知らせてくれるか」
カーラが門番に事情を話し、取りなした。
「カーラ殿もいらしたんですか。。。報告については承知しました。ですが。。。」
門番はアイシャを見て不安そうな顔をする。
「大丈夫なんですか?」
カーラにひそひそと小声で確認する。
「。。。聞くな」
門番の報告で頭を抱えるエラランの姿を思い浮かべる。
カーラも頭が痛いようだ。
「じゃあ、行くわよ!」
入口の一悶着など、無かったような足取りでアイシャは先頭に立って歩き出した。
「おい、待てってぇ」
アインが少女を追い駆けて迷宮へ入っていく。
一行はあきれながら続いた。
迷宮の入り口から入ると、青白い魔法の光に照らされた通路が続き暫くまっすぐに進んだ。
警戒していた一行はすぐに階段が現れ下に降りることになる。
(ん?)
なにか感じた気がするが気のせいか。特に何の変化もない。
拍子抜けしながら階段を降りた所に魔術回廊が設置されていた。
外界にある転送門とは違って同じ建物の中に限定されるこれは、迷宮用の転送門として冒険者に親しまれたものだ。
魔術回廊によって冒険者は、探索済みの最下層に自由に移動することが出来た。
もっとも、それを使用するのは踏破目的の場合であり、迷宮制覇を狙う者は最初の階から攻略を行う。
迷宮には未発見の宝もあるため、一度見つかった場所でも何度も足を運ぶ価値がある。
この迷宮の詳細が分かっている部分は地上から38階までだ。
それ以降は未踏破であり未知の領域と言ったところだ。
一行はまず踏破された38階まで魔術回廊を通り移動する。
ヴゥン
魔術回廊を抜けたその先は、このフロアの安全地帯だ。
何組かのパーティがこれからの探索計画を練っている。
「俺たちは西側から進むから、東側をだれか頼めるか?」
「おぅ、こっちは東狙いだから、俺たちが引き受けた」
ダンジョン攻略は一組だけでは効率が悪い。
そのため、こうやってパーティ同士で協力し合うのが一般的だ。
まず、第一に生きて帰ることが優先される。
利益は二の次で、運が良ければ巡り合うこともあるといったところだ。
アイン達も未踏破の場所を探索するため道を選択する。
どの道が最短で次の階に繋がっているかを知るには、ある程度の経験が必要だ。
その点ではカイルたち冒険者が適任と言える。
「。。。アイン、どの道がいいと思う」
だが、カイルはあえてアインにその選択を任せた。
「え?」
少年は重要な役割を振られて躊躇した。
「いや、なんとなくこの迷宮は、セオリーが通用しない気がする」
「勘なんだが」と言いビギナーズラックにかけてみるということだ。
アインは真剣な顔をして道を見る。
「この北西に向かう道。。。ここがいいと思う」
「じゃあ、決まりだ」
アイシャが決め方が雑だとか、いろいろ文句を言っていたが無視した。
そして、アインが選択した道を進むと、そう時間をかけずに大きな扉のある部屋を見つけた。
「大当たり。階層主の部屋だ」
迷宮における最初の敵に遭遇する。
扉を開けると、そこには何もいなかった。
一行が扉を抜けるとその扉が勝手に閉まる。
トラップが発動し、中からはもう扉を開くことが出来ない。
用心しながら中央付近に移動する。
「ミリー、探査を」
「はい」
魔術師たちが敵を探る魔法を使った。
「精霊探信」
コォォォン
ミリーが杖で地面をたたくと音ならざる波が周囲に反響する。
「上です!」
ミリーが叫ぶと粘体質の巨大な物体が天井から落ちてきた。
「こりゃぁまた厄介なのに出くわしたな。。。スライムだ」
全体がタールのように黒く蠢く軟体質の塊がある。
生物としての格は低くそれ故に対処方法が限られてくる。
「スライムなんか燃やしちゃえばいいのよ」
「あ、ばか、ま。。。」
カイルの静止も聞かず、アイシャがドールに炎の玉で攻撃させた。
巨大な火の玉がスライムに迫り、燃え上がる。
「ほらね」
得意げに胸を張るアイシャ。
「逃げろ!」
カイルはすぐに後ろへ逃げるように指示した。
カーラがアイシャを抱えて飛び退く。
炎にやられたように見えたそれが、炎に包まれたまま複数に分離した。
室内はその熱に煽られ急激に室温を上げていった。
「ばかやろう!あれはオイリースライムだ火はご法度なんだよ!」
「え?」
アイシャが青い顔でカーラを見る。
それに答えるように悲しい目でカーラがうなずく。
「見たところ、空気穴などはなさそうじゃ。このままじゃこの部屋の酸素が無くなるな」
それは酸欠による全滅を意味した。
炎に包まれたスライムが飛び散り、大きな塊と小さな塊に分かれている。
カイルとリタは小さな塊をそれぞれ相手にしている。
カイルのショートソードでは攻撃が通らず牽制にしかならない。
リタは3本の螺旋の針を手にしてカイルに言った。
「カイル!小さいのを一か所に集めて、あたしがやる!」
相棒に何か考えがあると察したカイルは返事をせずにスライムを一か所に誘導する。
「さぁ、いくよ。ライアー、ロシュネー、レイア、その力を見せろ!」
リタは3本の杭の下にある挿入口から水色の宝珠を入れた。
「氷結の波動!」
力ある言葉を唱えると3本の杭が開き螺旋の姿を見せる。先ほど入れた宝珠を中心にして白い氷の霧が周りに漂う。
スライムを誘導し終えたカイルは、合図を送った。
「よし!いけるぞ!」
「いっけぇぇぇぇええええ!」
リタは叫びに合わせ3本の杭を、スライムたちの集まる床へ投げた。
床に突き刺さった杭から氷の波が出現し、燃え盛るスライムに襲い掛かる。
極低温の氷の波動は炎を消し、スライムを氷結させた。
「親方、あんた天才だよ」
鍛冶の師匠が作り上げた傑作をその弟子が使いこなす。
魔術の使えないリタが、中級魔法の発動すら可能になる特殊なギミック。
これが、この武器のもう一つの使い方だった。
散らばっていた小さなスライムが消えたおかげで、残る本体は小さくなっていた。
「リタ姉ぇ。。。すごい」
「ミリーや、感心している場合ではないぞ。こちらも始める」
ミリーが氷の盾でスライムの攻撃を防ぎ、ナージャが詠唱をはじめた。
力ある言葉を放つ。
生成石の棺
巨大な石の棺が現れスライムを閉じ込める。
中で暴れる音が聞こえてくるがその音も徐々に止んで静かになった。
バン!
入口の扉が勢いよく開かれ、部屋の奥に下階に降りる階段が現れた。
「次の階に行くぞ」
一行はそのまま次階の攻略に向かう。
「やるじゃない、こいつら。。。」
アイシャが想像していたよりも優秀なパーティメンバーに、素直に関心してつぶやいた。
「でしょ♪」
アインはその言葉が耳に入り自分のことのように喜んだ。
「ふ、ふん。あたしの露払いにはしては上出来ね」
少女が憎まれ口をたたきながら、てくてくとついていく。
迷宮探索はここから本番を迎えるのだった。




