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脳内ヒーロー洋二  作者: 井田雷左
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第八章 エピローグ 6



    6



―そうかぁ、ようちゃんは私のことが好きだったのか。

藍は一人、下校時にそう思っていた。

―私はどうだろう? 多分好きなんだが、あの刺されて・落ちた話の真実を聴かせて欲しいし、父親にああしてしまった片棒を担がせたワケだし、あの謎の能力の正体も知らなきゃいけないし、私じしん、受験とバイトでこれから、凄く忙しくなるし、付き合うまでの障害がムチャクチャ多いから、直ぐ付き合うことはまず無いな。

その結論は未だ男女交際したことない藍を少し安堵させた。

今夜は早速、伯母の類に夕飯を作ると約束していた。

それも放課後にバイトを始めればできなくなるので、少しでも伯母の必要になりたかったからできる時は調理役をかって出ることした。

―だから、やはりユーチューバーはムリか。

藍としては兼崎一派が本当にもう江野をイジメないか見るためにも彼らといたかったし、洋二とも一緒にいられることも好ましかった。

稼ぐためにはアイドルとコスプレイヤーとユーチューバーのどれがいちばん割がいいかも考えないとな、と考えている藍の耳に、赤ちゃんの泣き声が聞こえた。

藍は普段は鈍い子だが、こういう時の反応速度だけは忍者のように俊敏だった。

それはそうだ。

一週間に自分を襲撃した女性の〈気〉のようなものを読んだのだ。

しかも、同じ、この場所で。

狂ったように咲いていた桜は、今、葉桜になっていた。

川には、桜の花びらと葉っぱが流されていく。

藍は身構えた。

安奈は赤子をあやし、そして泣き止ませた。

「どうかしましたか」

これくらいの台詞しか藍は思いつかなかった。

「謝罪に参りました。麻井藍さん、あなたに刃物を向けたことを謝ります。ごめんなさい」

空港から直接この場所に来た安奈は頭を下げ、そして続けた。

「本来ならば、土下座すべきだけど、この子を地面に置いておいきたくない。これでご勘弁下さい」

「私はケガも何もないから、いいよ。でもさ、ようちゃん! 私もよく知らないけど、アレからヘンよ! その責任の一端は多分あなたにある」

「そうね。ごめんなさい」

「でも、そこを深く考えると埒の外に行くしかないから、話してくれるまで待っている。ようちゃんとはもう話はつけたんでしょう?」

「はい、私が悪い事をしたのに、助けてくれました」

「うん、それがまさに許したことだよ。ようちゃん、そういうことはできる人なんだ」

「罪は消えません。許してくれなくても謝罪の念は忘れません」

「いや、張り詰めて考えない方がいいよ、だからあんなことしでかすんだよ。育児にも必要な態度だと思うよ」と少し思い直して、藍は「いや、これは年長に言い過ぎた」と云った。

「いや、言う通りだ」

「その赤ちゃん、私の妹なんだね」

藍が安奈の抱く赤子の顔をのぞき込む。

「はい、麻耶といいます」

「麻耶ちゃん、か。私は藍よ」

「でも、もう二度と会いには来ません。約束します」

「その方がいいよね」

「はい、では失礼します」

安奈はもう一度深々と頭を下げた。

藍が立ち去る。

「あ、でも」

これは小声の安奈。

「なにか?」

「やめておきます」

「言って。もうあなたと会う気ないから」

藍はきれいな別れ方なんてできないもんだなと発言した後に気付いた。

「気を付けてね、あの人、物凄い女泣かせよ、あなたのお父さん以上」

―いや、聴いて良かったんだ!

「ええ、よく知っていますよ。ついさっき泣かされるような目に遭ってきましたから」

加害者と被害者、愛人と本妻の娘、先輩と後輩、という複雑な関係を持つ二人は笑顔で別れることができた。

―私は二度と会わないと約束した。でもこの子は違う。この子はあの若い男女のおかげでこうして私といる。この子には、いつかあの二人の役に立つよう女性になってもらいたい。

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