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脳内ヒーロー洋二  作者: 井田雷左
75/80

第八章 エピローグ 5



    5



「の、信夫、なにを言っているんだ?」

洋二である。

「違うの?」

信夫である。

「違うも何も、今・ここに藍本人がいるじゃあないか!」

「いるから、何よ」

洋二と信夫の応酬中、藍は洋二ばかりを見ていた。

「悪いだろうが!」

「何が悪いの?」

昨日の今日である。

洋二が兼崎たちの悪行を認識し、その悪に藍だけが立ち向かっていたと知ったのも未だ昨日のこと。

「悪いよ、だって、オレは藍のことなんて、好きじゃあないからさ」

洋二は云い切った。

藍の表情は変わらない。

「ちょっと待て、鮎川。確かにオレが言ったことは出しゃばりだった。そこまで言うこともないだろうに」

信夫がめつらしく青ざめている。

「事実なんだから、しょうがない。そんなふうに思われていたことが既にオレにはフシギでしょうがない」

脳内の洋二はもうコードを引っこ抜くことなく、キーボードで表情が本人と複製生体がシンクロしないように調整していた。

「あ、ああー、麻井さん、オレ、ごめんよ」

信夫だ。

「何で、謝るの」

無表情の藍。

兼崎たちの動画部部員はもとより、教室に残った男女全員が今このやり取りに聞き耳を立てている。

そしてみんなの集合無意識はこう思っていた。

―信夫、怖ええーーーー!

「なんかヘンなふうになっちゃったから、今日の部室見学は、兼崎くん、やめておくわ。帰る」

すくっと立ち上がる藍。

「あ、それと、ようちゃん、今のことは気にしなくていいから、むしろ意識されると話するのも面倒になるし」

そして藍は鞄を持って帰って行った。

江野、兼崎、寺田、大森、桜木、林田、そして信夫と洋二、ここには被害者もいる、加害者もいる。

つい昨日まで一人を吊し上げて喜んでいた者たち、その悪行を許せず、大量のドローンで脅した者もいた。

だが、今、男たちの心は奇妙に一つだった。

こういう時なのだ、争うことを奇妙なことだと思える時は。

その後、あまりの澱んだ空気に耐えきれなくなった兼崎が「じゃ、じゃあ、二人だけでも見学来てよ!」と洋二と信夫を誘った。

「うわぁ、スゲェ機材ばかりだ!」と信夫が盛り上げ、「ほら、兼崎くん撮っちゃうよぉぉ~!」と江野が云うと、「おいおい、やめろよ! 江野! 恥ずかしいだろう~!」とはしゃいでみせたが、洋二は無惨な程に気落ちしていた。

なんかもう、昨日と昨夜、バチバチな人間関係が繰り広げられていたと思えぬ程に、みんなで一緒に洋二を励ましていた。

しかしそれは上っ面であった。

それは皆が見ている洋二がタダのロボットであるから、上っ面と表現した。

例えば、ロボット洋二は今無表情で腑抜けのように俯いている。

しかしその脳内にいる洋二は頭を抱えて、声にならない声をうめいていた。

これがシンクロしていないのは、先程も説明したように、頭を抱えながらも、洋二がキーボードでそのように調整したからだった。

つまり一部のラインを停止させたのだ。

いや、そういうシステム上の操作のせいもあったが、やはり脳内の洋二がむちゃくちゃ気落ちしていたということに尽きるだろう。

洋二は今や、小国に匹敵するくらいの支配力と攻撃力を持つが、やはり命令塔は洋二という個人ただ一人なのだ。

だから、洋二がこのザマでは一切使いこなせなくなるのだ。

さっきから何を云っているのかと云うと、ホッパー~追尾機能がこのように生かされていなかったということだ。

それで、洋二は藍と安奈の再会に、今この時刻、ここから数百メートル先、あのちょうど一週間前の、あの惨劇の、あの場所での再会に洋二は気づけなかったのだ。

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