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脳内ヒーロー洋二  作者: 井田雷左
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第五章 抱擁と計画と依頼 5



    5



「オレはてっきり、堕胎したか、死産だと思っていた」

「うん、ここにいないから、そう思うのはムリもない」

「実家にいるのか?」

「それができるなら、とっくにやっていたよ」

安奈は薄汚れた服に、十枚の一万円札を縫い付けていた。

病院を出ると直ぐにタクシーに乗り、ターミナル駅で降りて、新幹線で目指したのは赤ちゃんポストのある病院だった。

「いや、昨日生まれたばかりの赤ん坊って、合併症の可能性だってあるだろう!?」

「もし死んじゃったら、捨てるんじゃなくて、交番に行こうと思っていたのだけど、丈夫で、母親思いだったからほとんど泣きもしなかった」

「それで、今はその病院にいる?」

「うん。遠くから病院関係者が赤ちゃんに気づくまでは確認した」

この女は、想像以上に、狂っていたのだ、と洋二はようやくその事実に気が付いた。

ようやくこの浦和の部屋に二か月ぶりの帰宅を果たした安奈は入浴し、ようやく布団で眠った。

それらの二か月ぶりの天国が終わると、タクシーと新幹線の車内で約四時間、自分の両手にいた存在が今・ここにいないことに不条理を感じ始めた。

だから更に数か月、安奈は計画を立案し、それを実際に木曜の朝、実施した。

その執念は復讐やプライドが入り混じった凄まじいものだった。

でも、それを達成してしまい、弛緩していたのだが、〈両手にいた存在〉の不在が、その凄まじさを再燃させた。

「娘の高校の学園祭さ、各学年対抗の演劇合戦があって、どれもなかなか面白いんだ」

―ああ、知っているよ。アクション多めのSFや観客巻き込んでの謎解きミステリとかモダンなものやるよね。

藍と洋二が通う学校は安奈も通っていた学校であった。

演劇が盛んなのは伝統だったのだ。

つまり二人の先輩だったのだ。

そのことを勿論延彦に云う義務はなかったし、延彦もこれ以上、ペラペラ話すこともなかった。

だが延彦との交際中、何度かスマートフォンのロックを外して、彼の写真やメールのやり取りを盗み見た。

家族写真があったので、その時の全部の家族写真を安奈は直接スマートフォンで撮影した。

―あの時になんで、そんなことをしたのか自分でもフシギだったが、コレのためか。

安奈の云う〈コレ〉とは、藍を刃物で刺すことである。

洋二は安奈の部屋にあるPCの解析を、今、していた。

それをPC自体に触れず、シンクエ・クレゼンサに命ぜればいいだけだ。

確かに赤ちゃんポストを複数回検索した形跡があった。

―やはり、ネットを探るだけでは万能ではないな。

「土地勘あったんだよ、あそこいらへん。神の啓示を感じたよ、あの人の娘が後輩だと知って」

―いや、それは精神分析で謂うところの初歩的な〈補償行為〉だろう。娘の喪失の。

それを発言する洋二ではなかった。

「飯田さん、許す気はないし、理解はしたが納得はできない。でもこの話をネタに警察に届けることもしない」

「カノジョのお父さんが不倫相手が腹んだからって平気で捨てるクズのバレたくないから?」

「そんなんじゃねーし、カレシじゃねーし」

「判った、判った」

洋二がこの部屋に来て、微笑ではあるが、初めて安奈は笑った。

「もうその不倫オヤジに会う必要はないが、娘の方には謝罪してもらいたい。それでどういうジャッジをくだすかはあのコ次第だ。いきなり自分を殺そうとした女が現れるのはよくないから、うーん、電話や手紙で!」

「信じてもらえるとは思わないけど、今ではあんなことして反省している」

「そういうことを本人にも言ってもらいたい。そして、あんたの行動は監視させてもらう。盗撮や盗聴はしないが、どこかに移動するかは把握させてもらう」

「うん、でもさ、私、自殺はしないよ」

「いや、刺したあんたの心配なんかしていないけど。図に乗るなよ」

「うん、月並みな言い方だけど、もっと違うカタチで会いたかったよ」

「だから、図に乗るな」

洋二はこうして安奈の部屋をあとにした。

そして出た後に、気づいた。

ノートとテープでぐるぐる巻きにしたナイフ、自分を刺したナイフを返し忘れたこと。

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