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脳内ヒーロー洋二  作者: 井田雷左
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第五章 抱擁と計画と依頼 4



    4



安奈の話によると、最初に声をかけてきたのは延彦の方で、それが今から7年前、最初はランチ、次に酒場、そして安奈の部屋に来るようになった。

熱心に延彦を見つめていたので、それがバレていたと彼は語ったそうだ。

20代の女性にとって6年は長い。

だが安奈じしん、離婚を促すようなことを延彦に促したり、責任を思わせるようなことも云わなかった。

今から考えるとそれを寂しく感じていたのかもしれない。

だから受胎告知は延彦を試す心持はあったのかもしれない。

しかし以外なことに、延彦は処分を懇願することも、別れを切り出すこともしなかった。

さすがにおかしいと思ったので、初めて問い詰めるようなことを云った。

「産むのも処分するのも、きみの自由だ。好きな方を選んでいいよ。オレには関係ない。訴えたり、怪文書を回したりをしたいならばすればいい。でもそんなヒマは無いハズだよ。産むにしても処分するにしてもさ」

即日、安奈は会社を辞め、当然、勤め先である延彦の会社が入居するビルからはいなくなった。

あの関心の無さ、その割に自分が支配していることだけは骨の髄まで判らせる、思えば、この7年間はこの二つだけだとだったと安奈は気づいた。

特に復讐したいとか、思い出の具現が欲しいとかでなはく(いや、それらの総体だったのかもしれないが)、安奈は産むことにした。

それは決意というべきものだったのではなく、延彦のようなクズ男の7年も支配されていてことで、無気力になったから、処置するとかの決断が面倒になっていたことがいちばんになったのかもしれない。

両親は実家で健在であったし、弟は都内で暮していたので、手を伸ばせばよかったものを安奈はそうしなかった。

とにかく全てのことにやる気をなくしていたのだ。

奇妙なことに、それでも派遣登録をして、倉庫内のピッキング作業のような人と交わることの少ない仕事は続けた。

首都圏で女が独り暮らし、そんなに貯金があるワケでもないから、働くことを選んだ。

働いている方が気が紛れたのだ。

しかしだんだんお腹が目立つようになってきた。

本来ならば、定期的に産婦人科に通い、母子手帳を作らなければならないというのに、それを安奈はしなかった。

この判断停止は思えば、延彦に植え付けられたものかもしれない。

プライドは高い安奈である。

実家の親にバレること、ててなしごを産む社会的な問題、いや、そもそもこれからどういって生活をするのか?

安奈は助けを求めることを選ばなかった。

でもこのままだと親族や社会にバレる。

バレたらもう取り返しがつかない。

このように追い詰められた安奈が採った行動は、最低・最悪のものだった。

それはホームレスになることだった。

もう妊娠八か月にはなっていた。

時期は真冬であった。

むしろ安奈はこれで自然に堕胎してくらないかとの考えもあったが、生命力は強靭であった。

男たちに乱暴されないように顔を汚し、服は着替えず、一切入浴を経った。

最近まで華々しいオフィスビルで働いていた女がボテ腹を抱えて、繫華街でホームレスになってる、帰る部屋の家賃は払っている、というのに。

そこまでプライドを犠牲にしたのは、実家や社会に、不倫の果てに妊娠させられ、捨てられることがバレることで崩れる別のプライドを守るためであった。

しかし、何故繫華街だったのだろうか?

それは陣痛が始まった時に、直ぐ、救急車が来てくれる、という考えからだった。

実際、救急車は直ぐに来た。

救急隊員も、病院のナースも若いのに薄汚れた妊婦を憐憫の表情で見つめた。

意識が回復すると生まれていたのは女の子だと知った。

―さすがに一日は居よう。

その一日の間、病院関係者~女性スタッフから身元を聴かれたが、はぐらかした。

明日は警察を呼ばれるから、やはり一日が限度だった。

「ちょっと待て! 子どもは生まれたのか!?」

これは回想内の台詞ではなく、安奈の部屋でその回想を聴く洋二の声。

「産んだよ。身元を知られたくないから二ヶ月ホームレスになってね。地獄だったよ。地獄はあの世にあるんじゃない。この世のどこにでもあるんだよ」

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