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その終焉に手向けの花を  作者: Hatsuki
第1章 花の都にて、再び

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08.オルトゥスの間





 シェノリー庭園から階段を降りて、フードを目深に被り、人々で賑わう広場に出る。

 このリベルティ広場は円形になっていて、中央には大きな噴水があった。

 

 そしてその円形の広場を中心に大きな街路が3つ。

 1つはアラカルト王国へと続く1番大きな街路。

 2つ目がグラウデュース帝国へと続く街路。

 3つ目がフローレン最北端の街であるアルトリアと唯一の港町であるオセリアへと続く街路。

 

 その3つの街路と神殿がある高台を境界線に領民中心の居住地区、職人がが集うギルド地区、教会地区に区分分けされているらしい。

 領主一家が住んでいた初花の邸も迎賓館と同じく高台にあるみたいだけれど、迎賓館とは反対側なんだよね。

 

 そういえばギルド地区には、行商人や旅人の為の宿屋や食堂などもあるってロウェリーさんが言っていた。


 少し覗いて行こうかな。

 無一文だから何も買えないけど。


 とりあえず左側に見えるあの大きなドームの建物を目指そうと歩き出した瞬間、突然ケープの裾を掴まれた。


「お前、この世界の人間ではないな」

「──え?」


 不意をつかれ心臓が飛び出そうになりながらも、掴まれている後ろを振り向くと、そこには淡く薄い緑色の髪をした6歳くらいの可愛いらしい子どもが立っていた。


 突然の事に戸惑いつつも、しゃがんで視線を合わせる。


「えと……どういう事かな?」

「そのままの意味。見たところ漸くこの世界のマナに馴染めたくらい、か」


 そっと頬を触られながら、私の現状を言い当てられた事に目を見開くも、子どもは私の反応を気にする様子もなく、何かを考えている素振りを見せる。


「まあいい。とりあえず移動しよう」

「へ?」


 ぼそりと唐突に呟かれた言葉にどういうこと?と間抜けな声を出すも、その子はまた我関せずと行った感じに私の手を握ると、にやりと嫌な笑みを浮かべた。

 その瞬間、突然の浮遊感の後、気がつくとさっきまで街の中にいた筈なのに、何処かの建物の中に移動していた。


 これはあれだよね?

 瞬間移動をしたってこと?


 それにしてもなんで、建物内にこんな大きな大樹があるの?


 部屋の中央に聳え立つ大樹に目を奪われる。


 花が咲く季節だからか、八重咲きの綺麗な薄ピンク色の花を咲かせて、ガラス張りのドーム状の天井から注がれる日の光のせいなのか、木の周りを流れる水の反射のおかげなのか、大樹自体が輝いている様に見える。


「こ、ここは?」

「緑陰。フィオレンティア支部の中」

「それって」


 あの大きな建物の1つ、冒険者ギルドに似た組織の建物の中ってことだよね?

 建物の中央がドームになっていたから、おそらくここがあのドームの部分ってことか。


 一応働き口の候補には入れていたから、見学には丁度いいけれど、先に目の前のこの子だよね。


 ──この子は一体何者なの?

 

「ついて来い」

「え、あ……ちょっと」


 大樹を囲む柵を跨ぎ、水の上にまるで地面があるかのように着地してそのまま水面を歩いて大樹が生える岸に登る子どもを茫然と眺める。


 私は水の上、歩けないんですけど。

 いや、頑張って飛んだら行けるかもだけど……。


「何をしている、早く来い」


 こちらの事を気にすることもなく、平然と可愛い顔で言われて、少しあのふっくらとしたほっぺをつねりたくなった。


「あの、向こう側へはこちらから行けますよ」


 私と子どものやり取りを見かねてか、職員らしき女性が向こう側へと続く石道がある事を教えてくれた。


「あ、ありがとうございます」

「いえ、それよりも頑張ってくださいね」

「へ?」


 意味ありげな笑みを浮かべて立ち去ってしまった女性に何を頑張れと?と疑問の視線を向けていると、またもやケープの裾を引っ張られた。


 しかも今度は手加減もなく思いっ切り。


「早く来いと言っている」

「ぅわっ!ちょっ!伸びる!伸びる!」


 子どもの行動に叫びながら、石道を進んで行くと、ふんっとふてくれた声とともにやっと手が放される。


 手が離れて着崩れた襟元を直していると、ある違和感に気付く。


 あれ?

 私、ちょっと浮いてない?


 それにさっきまでガラス張りの円天井に沿った回廊に囲まれていたのに、今は様々な種類の草花が大樹の周りを囲んでいた。


 というか、この空間自体がおかしいよね?

 あまり重力を感じないような。


 それに草花の間とかを光の粒子が飛び交っているのが見える。

 あれはさすがに虫じゃないよね?


「こ、ここは……?」

「ここは精霊回廊、オルトゥスの間。お前たちにしては面白い空間だろ」


 悪戯が成功したような、どこか誇らし気な顔で言われたけれども、反応に困る。

 それに一張羅のケープはもう引っ張らないで欲しい。


 それにしても、この子と私を取り囲むように光の粒子が集まってきてる気がするんだけれど、これはなに?

 じっと光粒子を見つめていると、子どもは少し目を見開き答えを教えてくれた。


「なんだ、微精霊が見えるのか」

「微精霊?」

「そうだ。生まれたばかりで、まだ自分の身体の原型すら定まらない未熟な存在」


 スタスタと地面を普通に歩く子どもの後を、フワフワとおぼつかない足取りでなんとかついて行く。

 大樹の根元近くまで来ると、突然何もないところからテーブルセットが出てきて、椅子に座り足を組む子ども。その姿を呆然と眺めていると、向かいの席に座るよう顎で促された。


 外見と違いすぎる態度に戸惑いながら、子どもと出会ってから感じる嫌な予感にぎゅっと手を握りしめる。


「それで、どうして私をこの場所に連れてきたの?」

「ただの気まぐれだ」

「気まぐれって」


 サラッと返され、気まぐれでこんなところまで連れてきたの?と首を傾げる。

 それだけなら、どうしてこんなに嫌な予感がするんだろう。


 その予感は次に告げられた子どもの言葉により、当たることとなる。


「もう元の世界には戻れないのだから、こういう場所を見ておくのも悪くないだろ」

「え?」


 ──今、なんて?


「元の世界に戻れ、ない?」


 あまりの衝撃に呆然と立ち尽くすも、なんとか聞き返す。

 何かが足元から崩れていく様な不安にかられ、心臓が冷たく締め付けられるような感覚に襲われる。


「ああ。私の記録では異世界から来た者たちは皆、この世界で死んでいる」

「私の記録って、貴方は一体何者なの!適当な事を言わないで!」


 冷たく言い放たれた言葉につい感情的に声を荒げてしまう。


 この子が悪いわけではないけれど、止められない。


「なんで……。なんでこんな、いきなり訳もわからない世界に来ないといけないの!この世界に来た途端、魔獣に襲われて死にかけるし!人攫いに攫われて奴隷になりかけるし!5日間も昏睡状態になって目が覚めても満足に動くことができなかった!」


 それで漸くちゃんと動けるようになって、自分の足でいろいろ調べようと動き出したところなのに。


「……なんで、戻れないって言うの……」


 今まで溜め込んでいたものを全て吐き出したら、ずっと我慢していた涙まで出てきた。


 ──もういい。


 この子には悪いけれど、ここでもう全部吐き出す。


「うぅぅ……」




 ◇ ◇ ◇




「落ち着いたか?」

「っ、……まだ。お、えつが、とまら……ない」


 床に座り込み両膝を抱える。

 もう、どのくらいに泣いたかわからない。

 こんなに泣いたのはいつぶりだろう。


 私が泣いている間、子どもはずっと代わる代わる微精霊や小さな異形の精霊から出てくる、光る細長い帯の様なものを眺めていたけれど、他の微精霊たちは泣き出す前よりも私の周りに集まっていた。


 微精霊が集まると暖かくなるんだ。


「ぐす……もう、だいじょう、ぶ」


 ようやく嗚咽も落ち着いてくると、どこからか飛んできたハンカチを受け取り、顔に残った涙を拭いて思いっ切り鼻をかむ。


 あとでちゃんと洗ってから返そう。


「!」


 左手を胸に添えてゆっくり深呼吸をしていると唐突に身体が浮き、空いていたもう一脚の椅子に座らされ、子どもと向き合う形になる。


「……さっきはごめん」

「人間の感情の起伏が激しいのは、どの世界も一緒だな」

「…………」

 

 読み終えた光の帯を木の葉っぱに変化させ、大樹の枝へ飛ばしながら話す子どもの言動に、街中で初めて会った時から感じていた違和感が確信に変わっていくのを感じる。

 それをゆっくりと言葉にする。


「あなた、人間じゃ……ない、よね?」

「ああ。私は()()の情報管理及び統括を担っている精霊。名はルジスト」

「せい、れい?」

「そうだ。まあ普通の精霊と違い、私はとある人間たちと母なら大樹により生み出された精霊だけど」


 ふっとどこか無邪気さを残しつつ、誇らしげな表情で語るルジストの姿に少しだけ張り詰めていた心の糸が緩んだ様な気がした。


 精霊だったのはびっくりだけれど。







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