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その終焉に手向けの花を  作者: Hatsuki
第1章 花の都にて、再び

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04.夢のあとで





 ──いつも同じ夢を見る。




 それは快晴の空の下、風に乗って満開の花木から白の花弁が雪のように舞い散る中、私は煌びやかな純白のドレスを纏い、隣に立つ綺麗な金髪の髪をした青年と何かの儀式に臨んでいた。


 私たちの後ろには多くの正装な服装をした人々が並び立ち、静かに私たち2人を見守っていた。

 そして私たちの前には白の祭服を着た男性とその後ろには緻密な彫刻が施され水音だけでも神聖な雰囲気が漂う泉があった。


 すると突然、その泉から激しい水飛沫と共に眩い光の柱が天を突き抜け、そしてその光の柱の中から長い白銀の髪を靡かせた1人の美しい女性が現れた。


 その光景を目にした瞬間、私は言い知れぬほどの激痛に襲われ、堪えきれず膝をつくも、隣にいた青年ははそれに気付く事はなく、剰え自らその女性に歩み寄り戸惑いもなくその手を差し伸べた。


 その瞬間、警備の為か会場の周りに配置されていた騎士たちが一斉に動き出し、青年と女性を泉ごと取り囲む光景を目にした途端、痛みの限界からか視界が暗くなると同時に次の場面(シーン)に切り替わる。


 そこは豪華な部屋の中での光景。


 そこには儀式の場面で見た時とは別人のように力無く床に臥した私と、窶れ愁色に満ちた父親と思しき男性の姿があった。


 薄明かりが照らす静寂の中、その男性の口から告げられたのは私の余命宣告だった。


 そしてまた場面(シーン)が切り替わる。


 暖かい日差しが照らす静かな部屋に穏やかな風が吹き込み、床に臥したままの私の傍には澄んだヘーゼルの瞳と淡いクリーム色の綺麗な模様が印象的な白い猫がいた。


 猫が力無く横たわる私の頬に自ら額を擦り付けていると、控えめなノックの音が部屋に響き、気が付くと猫の姿は消えていて、その代わりに部屋にはいつの間にか私と最初の場面に出てきた白銀の綺麗な髪の女性がいた。


 その女性が何かを告げた後、私の身体が限界を迎えた。


 そして誰かが私の名前を呼ぶ声を聞きながら、私は死を迎える。





 ──そしてやっと目を覚ます。





「……また違う天井」


 しかも今回は広々とした天蓋付きのフカフカのベッドとは……。

 どうやら異世界転移したのは、夢じゃなかったみたい。


 ゆっくりと深呼吸して脱力したまま、顔だけを動かして現実離れした部屋の中を見渡す。


 どうやら誰もいないみたい。


 喉が渇いているからか、声が掠れて出ない。

 それに身体もすごく重い。


 一体どれだけ眠っていたんだろう。

 

 あの夜、金色の瞳の男の人と話して恐竜みたいな生き物……ガルディエールに乗ったのは覚えているけれど…。

 それからどうなった?


 肘を付いてゆっくりと上体を起こしながら、あの時のことを思い出す。


 確か、あの人から名前を聞かれて、自分自身の名前がわからない事に気が付いて……。

 そこからの記憶が──ない。


 もしかして自分の名前がわからない事実に衝撃を受けて気絶した、とか?


 いやいや。 

 私がそんなデリケートな訳がない。

 

 ふと着ている服が汗でべとべとな事に気が付く。

 もしかして眠っている間に、熱でも出ていたのかな?


「とりあえず喉が渇いたな……」


 サイドテーブルの上にガラスのコップと水瓶を見つけて手を伸ばす。

 でも身体が重く、なかなか手が届かない。

 どうしても諦めきれず手を伸していると、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。


「何をしている?」

「あ、その……水が飲みたくて」


 肩を揺らして振り返ると、あの夜の青年が立っていた。


 青年は私の言葉を聞くと、何も言わずベッドの反対側に回り込み、サイドテーブルからコップと水瓶を手に取りコップに水を注ぎ入れるとそれを渡してくれた。


「あ……ありがとう、ございます」


 ゆっくりと水を喉に流し込む。

 久々の水分に少し咳き込むも、身体が歓喜するのを感じる。


「体調はどうだ?」

「少し身体が重たいですが、大丈夫です。……あの、私はどれくらいの時間眠っていましたか?」


 青年の後ろにある窓へと視線を向ける。


 窓の外は既に日が昇っていて眩しさを感じるくらいだけれども、この身体の重さは数時間寝ただけではならないと思う。

 もしかしたら丸一日眠っていたんじゃ……。


 そんな私の予想は、次の瞬間呆気なく裏切られた。


「5日間だ」

「え?」

「5日間、ずっと眠っていた」


 彼の言葉に思わず固まってしまう。

 まさか5日間もずっと眠っていたなんて。


「あの……ご迷惑をお掛けして、すみませんでした」


 予想以上に眠っていたことに驚いてあたふたと動いて勢いよく頭を下げると、額に手を当てられてそのまま元の位置に戻される。


「もう熱もないようだな。世話人が来るまでゆっくり休んでいろ」


 私からコップを奪い取ると、もう片方の手の指先でトンっと額を押され、耐えることもできずにベッドに沈まされた。

 ベッドに横になったのを確認すると、青年が扉の方へと歩き出したので、慌てて上体を起こして青年を呼び止めようとしたが、自分が思っていた以上に目覚めたばかりの身体はそれすらできないほどに衰えていた。




 ◇ ◇ ◇




「では以上で聴取を終わります。熱はもうないですが、目が覚めたばかりなので暫くはこの部屋でゆっくり休んでください。夕刻にまたお伺いします。……くれぐれも窓からは出ないでくださいね。一応ここも2階ですから」

「はい、あの色々とありがとうございました」


 食べ終わった食器類を片手にロウェリーさんは部屋を後にした。

 扉が完全に閉まる音を聞き、緊張の糸が切れたかのようにベッドに沈む。


 なんとか無事、乗り切れた……。


 あの人が部屋を出てすぐ、あの夜のボロ布を身に纏った姿と違い、山吹色の長い髪を綺麗に纏め、白の詰襟のブラウスにハイウエストの黒茶色のロングスカート姿のロウェリーさんと、変わらず執事服のシェパードさんが、スープが入ったお皿やティーセットなどが乗ったトレンチを片手に部屋に入って来た。


 部屋に入って直ぐ、シェパードさんは私の顔を見てどこか驚いた表情をしていたけれど、サイドテーブルにスープが入ったお皿とカトラリーを置くと、丁寧にだけれど短く挨拶をしただけですぐに部屋から出て行ってしまった。


 そしてその後すぐに、部屋に残ったロウェリーさんによる介助兼聴取が始まった。


 途中、頼りなさそうな印象の衣服をわざと着崩した様な出で立ちのマルクスというお医者さんが部屋に来て簡単に診察をして出て行ったけれど、診察中や聴取でももちろん記憶がないとしか言えなかった。


 一応小屋の中で目が覚めてからの記憶しかないという設定を通す為、森の中で起きた事やあの黒い獣のこと、傷が治っていたことは話さないつもりだったけれど、どうやら大体のことは調べられていた様で、黒い獣から聖女の結界内までは逃げ切れたものの、攻撃を受けてしまい、それにより気を失っている間に人攫いの一団に攫われ、ロウェリーさん達に保護されて今に至るということを説明された。


 記憶喪失と黒い獣から受けた傷が消えたことについては、気まぐれな精霊が私の記憶と引き換えに傷を癒したのかもしれないという仮説に収まり、なぜあの森に入ったかは、私が黒い獣から逃げる途中で助けた2人の子どもたちが、この時期にあの森の奥にのみ咲く特別な花を摘む為に入ったのかもしれないと、ロウェリーさん達に伝えてくれたらしく、向こうもそれで納得してくれたみたい。


 とにかく、あの2人が無事に家に帰れていて良かった。


 異世界に来てしまったことは理解できたけれど、まだまだわからない事だらけだ。

 流れで記憶喪失ということにしてしまったけれど、逆に良かったのかもしれない。


 実際、自分の名前を忘れてしまっているし。


「それにしても、いきなり倒れた挙句に高熱まで出すなんて」


 ロウェリーさんによると、あの夜気を失った私をあの人が抱えた状態でガルディエールに乗り、私が抜け出した屋敷に急いで戻って来たみたいだけれど、その時には既に高熱を出していて、原因もわからずアルトリアにいた医者や神官はお手上げだったらしい。


 そこで大聖堂がある領都フィオレンティアに丸1日かけて移動をし、大聖堂から来た神官たちによる神聖力と聖水を使った治療と、マルクスさんのおかげで何とか熱は下がったみたいだけれど意識は戻らず、どうしたものかと悩んでいた時にようやく私が目を覚ましたとのこと。


 まさか碌に動けず他人に食事の世話とお風呂にまで入れてもらうなんて……。


 見慣れない天井を見上げる内に、不意にその時の恥ずかしさなどが思い出され、抱えていた枕に顔を埋めて、いろんな感情を発散する為に声にならない声を上げた。



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