表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その終焉に手向けの花を  作者: Hatsuki
第1章 花の都にて、再び

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/15

11.踏み出す先





 私の予測は正しかったようで、次の日にはゆっくりだけれど歩けるようにまで回復していた。


 ルジストはあれ以来この部屋を訪れてはいないけれど、初めてルジストにここに連れて来られた時に話しかけてくれた紡ぎ手のラリナさんが食事や身の回りの事を手伝ってくれて、なんとか困ることなく過ごせている。


 私が緑陰にいる事も、ラリナさんが迎賓館にいたロウェリーさんに伝えてくれて、私が眠っている間にどうやら来てくれたみたいで、手紙と新しい服、そして綺麗な一輪の花がテーブルの上に置かれていた。


 手紙には簡単に、お早い回復と帰りをお待ちしていますとだけ綴られていた。


 その一文に少し泣きそうになった。


 初めて尽くしのこの世界で、私の帰りを待ってくれている人がいる事に、じわりと温かさを感じる胸に両手を添える。


「ねぇ、リティス。私、悩んだんだけれど……緑陰には入ろうと思う」


 贈り物の隣に置かれた水色に輝く魔石を見つめる。


「正直、魔獣は怖い。だけど折角この世界に来たのなら、いろんな場所を見ておきたい。それで元の世界に帰れる方法も見つかればいいかなって」


 魔石を手に取り、ベッドに横になっている白い猫へ振り返る。


 リティスは朝方この部屋に来てくれて、その柔らかい肉球で私を起こしてくれた。

 目を開けた途端、ヘーゼルの瞳が視界全体に広がっていて、正直怖かったけれど、また会いに来てくれたことが嬉しかった。


「お前がそれを望むなら、それでいい」

「うん」


 ベッド脇の床に座り、両腕をベッドに乗せて凭れる。

 空いている片手でリティスの顎下をくりくりと擦ると、リティスは気持ち良さそうに目を細めた。


 いきなり異世界に来てしまったけれど、こうして変わってはいるけど普通に猫と触れ合える事に感動する。


 やっぱり猫は存在だけで癒される。


「あ、そういえば私の名前言ってなかったよね。この世界での新しい名前、ルリアネっていうの」

「ルリアネか」

「うん。あの後、ヴァレン様が付けてくれたの」

「ほう。……いい人間たちに出会えたみたいだな」

「うん。とても良くしてもらってる。でも、そろそろ自立しないとね」


 さすがにいつまでもその優しさに甘えてはいられない。


 枕元に置いたままにしていたルジストからもらった石を見る。


「ねぇ、リティス。こっちは魔石ってルジストに教わったんだけれど、この石は何かわかる?ルジストに今回の件での報酬って渡されたんだけれど」


 水色に輝く魔石とルジストからもらった月を彷彿とさせる綺麗な石をリティスの前に並べる。


 魔石は綺麗だけれど、やっぱり元があの魔獣の魔核だったのもあって少し不気味なんだよね。

 対してルジストから貰った石は綺麗で好感が持てる。

 

 ルジストから貰った石を指で突きながらリティスを見ると、いつもキリッとしている大きな目が細められて、遠くを見ているようだった。


「奴め、まさかこの石を渡すとは」

「へ?」


 どういうこと?と首を傾げるとリティスは小さく息を吐いた。


「この石は月華石(げっかせき)。極めて珍しい魔鉱石だ」

「魔鉱石?」


「魔鉱石はマナの濃度が高い場所でのみ発掘され、豊潤な純度の高いマナが含まれた鉱石だ。そしてこの月華石はマナの純度に加え、硬度と耐久性に優れているから割れることもなく、使用時の魔力効率などもいい」

「なるほど」

「魔石はその中に残ったマナが尽きれば砕け散り消えるが、魔鉱石は硬度にもよるが、マナさえ補充すれば半永久的に使える性質がある」

「そう、なんだ。じゃあこの魔石は使えば消えちゃうんだ」

「ああ」


 それは良かった。

 獅子猿を彷彿とさせる石をずっと手元に残しておかないといけないと思っていたから。

 さっさと何かに使って消そう。




 ◇ ◇ ◇




「では、まずはここ緑陰について説明しますね」

「お願いします」


 緑陰内にあるロビーのようなところで、ラリナさんと向かい合って座る。


 折角少しでも動けるなら動かないと!と緑陰の中をリティスを腕に抱いて見学していると、ちょうどラリナさんが通りかかり、緑陰について教えてくれる事になった。


 リティスはというと、本当の猫のように静かに私の膝の上でくつろいでいる。


「緑陰は世界均衡調律機関であり、本部はグラウデュース帝国、帝都アシュタリカにあります。そして支部は提携する各国の主要都市などに点在しています。

 また緑陰では所属する方々を『調律者』と『紡ぎ手』と呼びます。

 調律者の主な仕事は、主に歪みの根源の調査とそこから発生する魔獣討伐になります。そして外部からの依頼遂行になります。

 外部からの依頼内容は様々ですが、薬草・鉱石などの素材採取。依頼主の護衛。そして迷宮や塔などの未踏領域の調査になります。

 また紡ぎ手の主な仕事は調律者のサポート、任務の管理・仲介。魔石や素材の管理などになります。そして何らかの理由で調律者が不足した場合は紡ぎ手が調律者として任務に就きます。

 尚、任務中の損害、怪我や死亡などの一切の責任を緑陰は負いませんので、依頼を選ぶ際はくれぐれも慎重に」

「わかりました。あの、少し気になったんですが、どうして調律者と紡ぎ手と呼ぶのですか?」

「調律者は任務を遂行することにより、その状況を適切な状態に整えるという謂わば比喩の意味で付けられています。

 紡ぎ手も調律者や依頼主、その他関係者たちを各々一本の糸に見立て、その関係を繋げる(紡ぐ)という意味でそう呼んでいます」

「なるほど」


 小説だと冒険者やギルド、ギルド職員ってよくあるけれど、ここは呼び方や組織自体の在り方が違うんだ。

 それに世界均衡調律機関って、すごい名前。

 あと歪みの発生源ってどういうこと?


 もしかしてこの世界にも魔王とかそういう悪いものがいるのかな?


 これまでの経緯から、あと少しで何かが繋がりそうな感覚に囚われるも、ラリナさんが話の続きを待っていてくれているのに気付き、居住まいを正す。

 気になる事は多いけれど、とりあえず最後まで聞いてみないと。


「それでは次に調律者の等級などについて説明します──」


 ラリナさんの説明によると調律者の等級は7段階あり、その階級は主に試験で討伐した魔獣から採取した魔石の色で決められるらしい。


 最下級のゾハルはまだ魔獣討伐ができない人に。

 下級のヴェレネは緑色の魔石。

 中級下位のズィアスは紫色の魔石。

 中級上位のエルミスは水色の魔石。

 上級下位のアリスは赤色の魔石。

 上級上位のフェガリは白銀の魔石。

 そして特級であるイリョスは黄金の魔石。


 この中での私の等級はというと……。


「ルリアネさんの場合は、アーキビスト様の試験を合格されたと伺っております。その時に得られた魔石を拝見するにルリアネさんの等級は中級上位のエルミスに相当しますね。ちなみにこの等級は紡ぎ手の戦闘等級にも適応されます」


 単独であの獅子猿を討伐されるなんて素晴らしいです。と言われても嬉しくない。


 討伐はできたものの代償が大きすぎる。

 それに1人であの強さの魔獣を常に討伐できるなんて思われたくない。

 今回は運良く助かったけれど、どうして討伐できたのか、どうして傷が治ったのかとか、わからないことが多過ぎる。


 この状態のままだと、次は本当に死んでしまうかもしれない。


 かくなる上は──


「……すみません、ラリナさん。その、登録の際に等級を下げる事は可能ですか?」


 私の申し出にラリナさんは一瞬動きを止めるも、ニコリと優しい笑みを浮かべてくれた。


「可能ですよ。加入時の試験はもともと任意で行われるものなので、まだ魔獣討伐が未経験の方は試験を受けずに最下級のゾハルから始められます」

「そうなんですか!」


 ラリナさんから告げられた新事実に思わず声を上げてしまう。

 すると私の声に反応して他の人たちの視線が集まってしまったのを感じて、両手で口元を覆い俯く。

 安堵もあって口元が緩んでしまいそうになるも、ふとあることに気が付いて、動きを止める。


 あれ?魔獣討伐未経験なら試験がいらないって……じゃあどうしてルジストはあの場所に私を送ったの?

 私の力と適正を確認するとか言っていたけれど、別の目的でもあったのかな?


 なんであれ、またルジストに会ってそこは話すしかないか。

 そしてあの柔らかそうなほっぺを今度こそつねろう。


 沸々とルジストへの怒りが増し、グッと拳を握り締めると、ラリナさんの方から小さなため息が聞こえた。

 

「やはり、どうやらアーキビスト様により、大変な目に遭われた様ですね」

「はい……なんとか生きてはいるし、その後ラリナさんにもお世話になりっぱなしで、文句はあまり言いたくはないのですが、ルジス……アーキビスト様に会う機会を頂けたらと思います」

「承知しました」


 では後ほど、アーキビスト様にルリアネさんの元へ足を運ぶよう伝えておきます。とさらりとラリナさんはルジストと話す機会を作ってくれた。

 きっとラリナさんもルジストに対して思うところがあるのだろう。

 初めて会った時も頑張ってくださいと声を掛けてくれたほどだし。


「では最後に緑陰に所属する為の最低条件なのですが、それは調律者も紡ぎ手も《《精霊が見える》》か否かになります」

「精霊が、見える?」

「はい。精霊が見えない限り緑陰に所属することはできません。ですが、アーキビスト様からルリアネさんは微精霊をも見ることができると伺っておりますので、緑陰に所属する資格は十分あると推測しております──」


 緑陰に所属する際、なぜ精霊が見える事が必須なのかというと調律者や紡ぎ手などの情報管理はルジストを中心にあの大樹から生まれた精霊が行っているからだという。

 そして精霊たちを統率し、調律者から得られた情報を査定し整理、保存、管理をして公式的に閲覧ができるようにする役割を担っているルジストをアーキビストと呼んでいるとのこと。


 ルジストは高位の精霊だから問題はないけれど、他の精霊たちは普通の人には見えない。

 その為、精霊が見える人でないと緑陰に所属できないらしい。


 そして緑陰に所属することで受けられる恩恵は、今の私にとって必要なものばかり。


 緑陰の調律者になれば、任務をこなしながら、外部依頼の紹介も随時してもらえるなら、危険は伴うだろうけどお金には困ることはないはず……。

 それにフィオレンティア支部以外の拠点移動もしやすいらしい。


  そうとなれば──





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ