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その終焉に手向けの花を  作者: Hatsuki
第1章 花の都にて、再び

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10.届かない手





「これは……」


 先程の凄まじい光といい一体何が起きたんだ?

 連れている駈竜たちも毛を逆立たせ臨戦態勢に入っている。


 光が発せられる直前に見えたあの魔獣は中型の獅子猿か?


「主君!あまり近付かれないでください!」


 目の前に広がる光景に森を進んでいた3人の男たちはただ立ち尽くした。

 

 林冠が途切れた空間。

 本来ならば禍々しい瘴気が蔓延して常人であれば、立ち入る事ですらままならない場所の筈が、先ほどの凄まじい光によってか清々しい程の清らかな空間へと変貌していた。


 そして空からの日の光に照らされた泉の中、力なく座った状態の人影とその周りに残る赤い血の痕。


 その人物の前には水色の輝く石が転がっていた。


 泉の中の人間の生死を確認すべく更に近付く、そしてその人物の顔を確認した途端、青年は走り出していた。

 

 なぜ、彼女がここに?


 あと少しで泉の中の彼女に手が届く。


 そう確信した瞬間、突然の風により舞い上がった落ち葉に視界が奪われた。

 突風が過ぎ去り、舞い上がった落ち葉が再び地面へと落ちて行く中、白い衣を来た少年が彼女を抱えていた。


 その片方の手には、地面に転がっていたはずの輝きを放つ水色の石が握られている。


「どうやら、まだ覚醒には至らなかったか……」

「!貴方は……」


 唐突な少年の言葉に、青年は少年を睨み付ける。

 青年の不服が込められた声と表情に少年は一瞬きょとんとしたが、青年の顔を確認して何かを思い出したかのように少し目を見開いた。


「ああ、グラウデュースのガキか。久しいな。……どうやら、この娘の世話をしていたのはお前のようだな。だが、今回は私がこの娘は連れて行く」

「それはどう言う意味ですか?まさか貴方が彼女をこの森に連れて来というのですか?」

「ああ。この娘の力を見極める為にな」

「その結果がこの有様だと?」


 未だ血に濡れたままの青白くなった彼女の顔を見る。

 呼吸はあるようだが、未だ一刻を争う状態の筈。

 不本意極まりないが、ここはこの少年に彼女を任せる他ない。


「もし死なせでもしたら、貴方の存在を抹消します」


 青年の言葉に少年は一瞬目を見開くと、その言葉を鼻で笑った。


「やってみろ」


 その言葉を残し、少年は姿を消した。

 もちろん彼女の姿もなく、その場に残されたのは清められた泉と血の痕。

 そして投げられ、飛散したガラスの瓶の破片が残った。


「主君、これからどうしますか?」

「この一帯の調査を終え次第、速やかにフィオレンティアへ帰還する」

「「は!」」




 ◇ ◇ ◇




 ゆっくりと瞼を開けると、たくさんの木の枝と葉、そして薄ピンク色の花と太い幹が目に入った。

 葉の隙間から差し込む光に目を細めていると傍から声が聞こえた。


「起きたか」

「……ちょっと殴っていい?」

「それは遠慮する」


 本当は身体のどこも動かせないほど、疲労感が凄いけれど、この悪びれる様子もなくこちらを覗き込む可愛い顔をした少年の顔を本当に殴ってやりたい。


 睨み付ける私には反応せず、ルジストは予め用意していたのか、水が入った木製のコップを手にすると、ゆっくりと例の如く私の身体を浮かしてくれて水を飲ませてくれた。


「……ねぇ、ルジスト。あれからどれくらい経ったの?」

「そうだな、3日は経ったところか?」

「アバウトだね」

「これでも精霊だからな。人間ほど時間には頓着しない」

「そか」


 今回は3日間か……。

 前回よりも短かくなっていてよかった。

 まだどこも動かせないけれど、痛みは感じないから、あの時みたいに傷は治っているのかな?

 

「えと……私の怪我って」

「心配するな。傷跡一つ残らず全て完治している」

「……ルジストが、治してくれたの?あの、魔獣はどうなった?」

「お前の傷はお前自身が治した。あの魔獣もお前が倒した。これがその証拠」


 ぼとっとお腹の上に輝きを放つ綺麗な水色の石が落とされる。

 これは一体なんだろう?

 見た目はとても綺麗だけれど、あまりいい印象が待てない。


「これは?」

「あの魔獣の成れの果て。魔獣は瘴気が集結して結晶化した魔核から構成されていることは知っているか?」

「うん」

「これはその魔核が浄化され、禍々しい瘴気だけが取り除かれて魔石化したものだ」

「魔石化?」

「そうだ。詳しい事はまた後にしよう。これ以上この空間にいるとかえって悪影響を及ぼす」

「悪影響?」


 ルジストの言葉が理解できず、ゆっくり視線を辺りに巡らせる。

 どうやら私は普通の部屋で眠っていたわけではなかったらしい。


「ここは、オルトゥスの間?」


 見に覚えのある大樹の根元。

 まるで鳥の巣のような、赤ちゃんが使うクーファンのような物の中にルリアネは寝かされていた。


「ああ。あまりにもお前の魔力枯渇の状態が深刻だったからな。マナが潤沢なこの場所なら現世(うつしよ)よりは全てが早く回復するが、人間が長く居座り続けると人間ではなくなってしまうから、このまま移動する」

「え?」


 何かさらっと怖い事言ったよね?この人。


 そんな私の心境を他所にまた一瞬で景色が変わった。

 ずっとあった浮遊感が消えてぽすりとベッドの上に降ろされる。

 ついでにルジストもベッドの端に座ったみたい。


「えと、ここは?」


 見た感じ6帖くらいの広さで、小さなテーブルと椅子、そして寝かされたベッドのみの質素な部屋。


 ここはもしかして……。


「緑陰内に用意したルリアネの部屋だ」

「私の、部屋?」

「そうだ。衣食住は保証すると約束したからな。適性も問題ない。あとは自由度が少ない紡ぎ手になるのか、依頼にもよるが、どこへでも行ける調律者になるのか決めるといい。ただどちらを選んでも、今回のような魔獣と対峙する事が増える上に、戦闘訓練や実戦経験を積む必要がある」

「……………」


 今回のような魔獣……。


 それを聞いてあの獅子猿の不気味な笑みを思い出す。


 あれは完全に愉しんでいる顔だった。


 グッと唇を噛み締める。

 

 怖かったけれど、何もできなかった自分が悔しかった。

 助かったけれど、どうやってあの窮地を乗り越えたのかがわからない事がもどかしい。


 私は、一体なんなのだろう……。


 森での事を思い出し、目に涙を溜め、唇を噛み締めるルリアネにルジストはふっと溜め息を吐くと、ルリアネの額を指で弾いた。


「いた!」

「そんなに気にしすぎるな。お前がこの世界に来てまだ13日くらいしか経っていない。しかもその大半は気を失った状態か、今の様にまともに動けない状態で過ごしていたんだ。

 何もわからないのも、魔獣を前に何もできなくても、お前は悪くない」

「……ルジスト」


 ルジストの慰めの言葉にルリアネの頬に溜めていた涙が一筋流れた。


「やっぱり殴らせて」

「それは断る」


 ルリアネの怒りの矛先が再び向きつつあることを察知したルジストは、ベッドから離れ部屋の扉へと向かう。


 そんなルジストの行動を逃げたなと思いながら、目で追っていると、ルジストはドアノブに手をかけた状態でこちらを振り向くと、空いている手をルリアネに向けた。


「これは私からの報酬だ。好きに使うといい」


 ぽとりと目の前に落とされたのは、どこか月を彷彿とさせるような綺麗な石だった。


 これは何?と聞こうとするも、渡した本人は既に部屋を出て行ってしまっていた。


 (逃げたな)


 ふぅと溜め息を吐いて、ゆっくりと両手をあげて掌を握って、広げてを繰り返す。

 

 寝起きだったからなのか、オルトゥスの間から出た途端、身体にあった疲労感が少しずつだけれど、抜けてきている。

 これだとあと1日で普段通りに身体を動かせる様になるかもしれない。







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