殷という国
青銅と絹について、お義父さんとその部下たちの交えて意見を交換した。
まず、青銅については、鉄とは異なるが貴重な金属の一種であると伝えた。
硬さは鉄に劣るが、鉄より希少で、細工しやすく装飾などに向くこと、そして、今のところカツ村でも作れないことを伝えた。
併せて、今度殷から交易団が来たら青銅を入手してほしいと頼んでおいた。
入手できる素材は多い方が良い。
青銅を手に入れるには代わりに鉄が必要だと言われたが、そこはまあがんばろう。
絹については、どこまで伝えるか少し迷った。
「虫が吐き出した糸で編んでます。」
と言ったら信じてくれるのか、ちょっと心配だ。
「インの奴らは蜘蛛の糸で作ったと言っていたぞ。」
耳よりな情報があったが、絹については間違った情報が伝わっているようだ。
これが通訳のミスなのか意図的な欺瞞なのかは判然としないが、意図的である可能性が高いと思う。
養蚕技術は中国を起源とするが、その技術は長く秘匿され、国外への持ち出しは厳格に禁止されていた。
そのため、欧州や中東の国々が絹を手に入れるには交易に頼るしかなく、中国との交易が長く活発に行われた。
欧州や中東の国は絹を手に入れる代価として、大量の金を中国にもたらしたというから、中国としてはウハウハだ。
この交易のための道が発達して、シルクロードと呼ばれるようになった。
何が言いたいかと言うと、歴史的に見て、絹は中国にとって非常に重要な輸出物と言う事だ。
技術を秘匿するために、意図的な情報操作が行われたとしてもなんら不思議ではない。
俺は、絹については細い繊維を材料に高い技術で織られた織物とだけ伝え、作り方については分からないと言っておいた。
もちろん、材料が蚕が出した糸であることは伏せておいた。
相手が秘匿している技術を俺が知っているのはおかしいからだ。
蜘蛛の糸であるかどうかは否定も肯定もできない。
ただ、かなり高い技術があることは間違いなく、真似できないであろうことも伝えた。
俺は、殷は交易の相手としては有益だが、高い技術を持つ油断ならない連中だと思っている。
国としてまとまっているだけでも脅威だ。
万が一戦いにでもなったら、このあたりの村が協力しても太刀打ちできないだろう。
チク村のみんなにも同じ認識を持って欲しい。
「うむ、鉄と同様の材料に、カツ村よりも高い技術で織られた布か、脅威だな。」
「だが、交易相手としては申し分ないぞ。」
「万が一攻めてきたら、対抗しようがない。」
「攻める理由がないだろう」
・・・・
チク村のカンリの間で殷に対する議論が白熱しているが、およそ俺の思う通りの認識に落ち着きそうだ。
当面は交易だけだろうし、交易には互いにメリットしかないから問題はすぐには起こらないだろう。
交易を通じて、殷から手に入れたいものは多数ある。
絹と青銅は当然だが、他にも進んだ材料や技術が多数あるはずだ。
なんといっても歴史上、中国は多数の重要な発明品を生み出している。
火薬・羅針盤・活版印刷、三大発明と呼ばれるこれらはすべて中国で発明されたものだ。
もちろん殷よりだいぶ後の時代の事だが、今の時代でも先端技術を有している可能性は高いと考えている。
できれば、まだ日本に無い食料や香辛料、農業技術、青銅以外の金属が欲しい。
対価として鉄をたくさん作る必要があるが、頑張ることにしよう。




