交易と官吏
翌日、お義父さんに案内してもらい、一緒にチク村を見て回った。
チク村はカツ村とは大きく異なる。
規模の話だけではない。
一番大きな違いは、村の中心に店があることだ。
カツ村には店はない。
欲しい者同士が直接やりとりするから不要なのだ。
チク村の店には、この村で作られた米などの食料、カツ村で作られた布、ヤメ村から入手した魚の干物、そして、入手元は分からないが独特な文様の入った土器や木製の道具が売られている。
店は長屋の様に連なっているから、一体で運営されているのかもしれない。
いや、売るという表現は少し正確ではない。
お金は存在しないので、物々交換での取引だ。
「あれらの店は全て村の直営だ。主に村の中の交換を担当している。」
「他の村との交易で得た物を、ここで交換しているんですか?」
「そうだ。我々のようなカンリは、他の村から得た物品を村内や他の村へ持っていき、必要なものと交換することで糧を得ているんだ。」
カンリ?
管理、いや、もしかして官吏か。
「カンリというのは、どういう仕事をしているんですか?」
「ん? そうだな。みんなで協力しあって行う作業、例えば、水路や環濠を作る作業の音頭をとったり、他の村と交易をして必要な物資を入手する役割だ。
簡単に言えば、村の雑用だよ。何かを直接生み出すわけではないからな。」
直接の生産活動ではなく、村全体の管理と交易を担当しているのか。
だとすると、統治機構の始まりと呼べるものだろう。
今はまだ大きな権限や既得権益を持っていないようだし、村の役割分担のひとつに過ぎないようだが、いずれは特権階級になるのかもしれない。
チク村は、割と重要な局面に来ているのではなかろうか。
それはそうと、ヤメ村は他の村とも交易をしている。
カツ村以外の交易先が気になるところだ。
「カツ村、ヤメ村以外の村とも交流があるんですよね?」
「ああ、他には、ナトリ村、カラ村、クヌ村、そしてインあたりが重要な交易相手だな。」
「インは、村ではないんですか?」
「村ではなくクニと言っていたな。本当かどうかは知らんが、村を数百個束ねたくらいの規模と言っていた。
ひどく偉そうな態度なのは気に入らないが、結構珍しい物や良い物を持ってきてくれるから無下にはできん。」
まさか、インというのは中国の殷王朝だろうか。
殷王朝は紀元前10世紀頃まで続いた。
その後は周王朝だ。
今の中国が殷王朝だとすると、今は紀元前1000年よりも前ということになる。
それに、俺の知る歴史通りであることが確認できれば、ここが別世界や異世界ではなく、タイムスリップしただけの地球だと言うことが裏付けられる。
分かったところで、大きなメリットがあるわけではないが、自分の状況は少しでも正確に知っておきたい。
「インの奴らは船に乗って海を越えて来るんだ。我々の言葉は話せないから、やりとりがいつも難儀する。」
言葉が通じないか。中国語なのかな。
いよいよ、殷王朝の可能性が高まった。
だが、まだ断定はできない。日本だっていくつかの島の集まりだ。日本の別の島という可能性は残る。
インからどういう物が入ってきているのか、それだけでもわかればヒントが得られそうだが、見せてもらえないだろうか。
「実はな、そのインからの品々を見てもらいたいんだ。価値がありそうなんだが、俺にはその価値が分からん。」
お、早速チャンス到来だ。




