命名
生まれたのは、男の子だった。
元気に泣いている。
抱いてみると、すごく重く感じた。
体重ではない、きっと責任の重さだ。
父親になったのだ。
この小さな命を守り、育んでいかねばならない。
ナチクは消耗しているのは間違いないが、笑顔を向けてくれた。
大丈夫そうだ。
良かった。
俺は出産で役に立てなかったのは残念だが、気持ちを切り替えて親として成すべきことを成そうと改めて決意した。
やることはたくさんある。
まずは、名前を付けなければ。
名前は子供に与える最初のプレゼントで、間違いなく一生物だ。
重要度はかなり高い。
元の時代では、たしか2週間以内に届け出が必要なはずだ。
2週間以内には決めよう。できればもっと早く。
この時代に法律なんかないだろうが、期限を設けるのは大事だ。
でないと、ズルズルと先延ばしにしてしまう。
俺は重要なことを決めきれずに、ズルズル引きずってしまうことが稀にあるのだ。
とか言いながら、子供が生まれて7日が経った。
名前の候補はいくつかあるのだが、どうにも決めきれない。
出産を控えた冬の間にもナチクと一緒に案を出し合っていたが、決まっていなかった。
俺としては変わった名前をつけるつもりは全くないのだが、俺の考える名前はこの時代の人から見ると変わっているらしい。
例えば、「太郎」とか「一郎」という名前でも、ナチクに言わせれば「変わっている」そうだ。
「太郎」がキラキラネーム扱いとは、意外なところで時代の差を感じてしまう。
ナチクと相談する過程でだんだんわかってきたのだが、大事なのは音の響きだ。
男の子の場合は強そうな響きが好まれる。
名前はただの固有名詞であり、意味を持っていない。
元の時代の様に、名前を漢字で表すと漢字字体の持つ意味が名前に付与されるが、この時代には漢字はまだない。
したがって、呼んだとき、名乗った時の印象が全てで、それは名前の響きが決め手となるのだ。
最終的には、俺がひたすら案を出し、ナチクが判定することになった。
「シンジ」
「弱そう」
「カヲル」
「女の子っぽい」
「レイ」
「女の子でしょ?」
こんなノリだった。
そんなやり取りを続けて更に4日が経った頃、子供の名前が「ヤマト」に決まった。
これが俺の長男の名前だ。
我ながら大きく出てしまったと思う。
だって、もう、思いつく限りの単語を出し続けてネタがなかったのだ。
おそらくは1000近い数の候補を出しただろう。
ネタに困って一時期嵌っていた戦艦ゲームの知識で、日本海軍の戦艦や駆逐艦の名前を出した。
そしてその中のひとつをナチクがいたく気に入った。
「この子はいずれ、たくさんの町を束ねる大物になるわ!」
大和王権かな?
それはまだ早いよ。
あと数百年、もしかしたら千年くらい後だからね。
なんにせよ、親としての最初の仕事は、なんとか終えることができた。




