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誕生

冬が来た。


この辺りは豪雪地帯ではないが、外は寒いので家の中に籠って過ごす。

内職に精を出し、静かに春を待つ。そんな季節だ。


家の中で、女性は主に衣服を作って過ごす。

冬物だけでなく春夏に着る分も冬の内に作ってしまう。

春夏秋は外で行う活動が多いので、家の中で行う仕事は冬にまとめてやってしまうのだ。


昨年までは、機織り、裁断、縫製をそれぞれの家で全て行っていたが、織機が完成したことにより、今年からは分担して作業することになった。


機織りはテツの母親と妹が担い、裁断と縫製はそれぞれの家で行うことになっている。

機織りを行う人数と、縫製を行う人数が大きく異なるが、織機のおかげで機織りのスピードが格段に向上したので、バランスはとれているようだ。



男は竹細工や木工細工に勤しむ。

特に大切なのは、農具と武器の手入れだ。


鉄の部分が破損することはめったにないが、刃を研ぐ必要はあるし、木製の柄や連結部分は修理や補強が必要だ。



俺とナチクも家の中で静かに過ごしていた。


家の中を温かく保つため、囲炉裏の火は絶やすことはない。

一番温かいのは寝室のベッドの上なので、ナチクはその上で裁縫をしながら、ほとんどの時間を過ごしている。


そんな、一見穏やかに見える家の中は、なんとなく緊張感があった。


理由は明確、出産を控えているからだ。


いつ生まれてもおかしくない。

村の産婆さんからもそう言われている。



その時が来たら俺はどうするのか。


俺は、村の産婆さんに知らせに行き、その後はリーダーの家で待機する。


以上だ。


出産に際して、俺がやることはなにもない。

補助は産婆さんと村の女性だけで行う。


「出産に立ち会おうか?」


とナチクに言ったが、全力で拒否された。

曰く、これは女だけの命がけの戦いなのだと。


その命がけの戦いに少しでも助力したい、と説得を試みたが無駄だった。

ナチクの決意は固く、意思が翻ることはなかった。


なぜ、ナチクは立ち合いを拒んだのか。


後で気付いたことだし、ナチクははっきりとは口にしなかったが、俺が命を懸けていないからではないか、という考えに至った。


今回の出産で、俺が死ぬ確率はゼロパーセントだ。

明らかに命を懸けていない。


だが、ナチクは命がけだ。死ぬ可能性がある。

出産における妊婦の死亡率がどのくらいなのか俺は知らないが、医療の発達していないこの時代なら無視できる数ではないだろう。


もしかしたら、この村でも数人に一人は出産で命を落としているかもしれない。

そのくらい出産での落命は身近なもので、命がけの戦いという表現に何の誇張もないとしたら。。。


その戦いの中に、命を懸けていない俺が紛れ込んでいたらどうなるか。

有体に言えば、士気が下がるのだ。


その場にいて士気を下げずにいられるのは、出産という命がけの戦いを経験して生き残った者、または、これからその戦いに赴く者、すなわち女性だけだ。


なんともさみしい限りだが、覆せない事実だ。



そんな、いつ戦いが始まるかわからない緊張感の中で過ごす家の中はちょっと息苦しくもあったが、俺とナチクの会話が途切れることはなかった。


というか、多少無理やりにでも会話をつないだ。

そうしないと、長い沈黙が空間を支配してしまいそうだったからだ。

俺もナチクも出産に対して不安を抱いている。


俺は少しでもナチクの緊張をやわらげたかったが、どうやら俺も緊張していたらしい。


「なんで貴方が緊張しているの?」


とナチクに言われてしまった。

そう言った彼女は笑っていた。


うん、なんでだろうね。



ある日の午前中、ナチクが産気づいた。

いよいよその時だ。


俺は手筈通り産婆さんを呼びに行った。


産婆さんと手伝いの女性たちが我が家に着いた時、彼女たちには石鹸で手を洗ってもらった。

病気の予防のためだ。


出産に立ち会えず、なにもできない俺の、唯一の助力。

あとは、ナチクと生まれてくる子供の無事を祈ることしかできない俺の、ただの自己満足だ。



その後の時間はとても長く感じられた。

予定通りリーダーの家で待たせてもらったが、まったく落ち着かなかった。


家の中をウロウロしたり、何度も自分の家の近くまで行ったりした。

あまりに落ち着きのない俺を、リーダーは何度か宥めてくれたが、時間がたつ程に不安は募った。


日が傾き、あたりがほぼ真っ暗になる頃、俺の耳に赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。


どうやら俺は、無事に父親になれたらしい。


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