3度目の冬備え
季節が廻り、秋が来た。
実りの秋、食欲の秋、そして冬備えの秋だ。
スポーツの秋、読書の秋はまだない。
思えば、この時期は毎年違うことに精を出している。
1年目は食料を確保するのに精一杯だったが、2年目は猪の畜産と農機具の改良で食料に余裕ができたので、味噌と醤油作りに精を出した。
そして3年目の今年は、衣服を作るための繊維作りに精を出している。
もちろん、十分な食料の確保に目途が立った上でのことだ。
織機が完成して機織りの効率が上がったので、冬の間に材料切れを起こさないように例年より多く集めているのだ。
村の男たちが青麻などの植物を集め、女たちが繊維を取り出して糸を紡いでいる。
紡いだ糸から布を織るのは、テツの母親と妹の役割だ。
彼女達二人が、機織り作業を最も効率的に進められる。
そして、出来上がった布を裁断、縫製するのは、また村の女性たちで分担して行う。
衣類作りについては、村の中で分業体制ができていた。
この冬は、衣類作りが大きく捗るだろう。
そう言えば、妊娠発覚から6か月ほどが経過したので、ナチクのお腹の膨らみが目立つようになってきた。
目に見えて膨らんでいるので、身重という言葉がしっくりくる。
なんか、大切にしなきゃ、という気持ちになる。
最近は、お腹の中で赤ちゃんが動くのを少し感じるらしい。
順調に成長しているようでなによりだが、生まれる前から子供の成長を感じられるというのは、なんだか羨ましくもある。
母親の特権というべきものか。
親として出遅れた気がしてしまう。
早く俺も我が子を感じたいものだ。
妊娠中の彼女にはあまり仕事はさせたくないのだが、本人が望むし、適度な運動は必要なので、あまり難しくない範囲で働いてもらっている。
衣類作り用の繊維の取り出しや糸を紡ぐ作業など、座ってできる作業が主だ。
ナチクには味噌作りと醤油作りを任せていたが、そちらも継続している。
工房までは少し歩くので、良い運動になるが、味噌や麹を混ぜる作業は流石に一人では大変なので、村の中で年が近く、仲の良いコナという女性の手を借りている。
コナは味噌・醤油作りにも興味があるらしく、ナチクが作り方やポイントを教えているようだ。
対してコナは、2歳になる子供がいるので育児についてナチクに教えてくれている。
食事、衣服、夜泣きの対処など、経験者ならではの体験談だ。
俺もできるだけ聞くようにしている。
醤油は仕込みから240日が経過していた。
ナチクが一日も欠かすことなく攪拌し、日数を土器に記録しているので間違いない。
醤油は、冬になる前に圧搾して、完成させることにした。
もっと熟成させても良いが、冬の間は気温が低く、熟成があまり進まないので、春を待っても大差ないだろうという判断だ。
それに、春になると子供が生まれているので、忙しくなっているはずだ。
今のうちに済ませてしまうのが無難だろう。
圧搾作業には村人の手も借りた。
去年も同じ事をしているので、手順はわかっている。
朝、圧搾機に諸味と錘をセットして、夕方に回収する。
去年はこの作業を8回行ったが、今回は量を増やしたので12回行った。
圧搾した醤油は、布で濾してから不純物を沈殿させて取り除いた。
その後、沸騰しない程度に熱を加えて、麹菌の活動を止めれば、醤油の完成だ。
今回の醤油は、塩分濃度を変えて2種類仕込んでいた。
最適な条件を探るための条件振りだ。
塩分濃度は15%と20%。
どちらの塩分濃度がよりうまいかと言うと、うん、どっちもうまい。
ちゃんと醤油になっている。
僅かに風味が異なるが、どっちが良いかは、好みの問題だ。
家庭ごとの好みもあるので好きな方を使えば良いし、料理によって使い分けても良いかもしれない。
去年は4条件の仕込みで醤油を作り、そのうち半分の2条件は廃棄した。
歩留まり50%だ。
対して今年は、仕込んだ全てが醤油として使える。
100%の出来だ。
これだけあれば、村で使う1年分には相当するだろう。
醤油作りは順調だ。2回目にして、既に軌道に乗った感じがする。
こうして、冬への備えは着々と進み、季節は更に廻っていった。




